影の多重奏：神藤葉羽と消えた記憶の螺旋

5章

第一の犠牲

朝、登校すると、学校全体が重苦しい空気に包まれていた。昨日、北条楓が屋上から転落死した事件は、既に全校生徒に知れ渡っていた。

葉羽は、彩由美と共に、職員室へと向かった。彼らは、担任教師に、北条楓と黒い箱の関連性について伝えようとしていた。

「…先生、北条くんは、黒い箱を見ていたんです」

葉羽は、真剣な表情で訴えた。

「…黒い箱？一体、何のことだ？」

担任教師は、怪訝な顔をした。

「…小さな、黒い箱です。最近、多くの生徒が目撃しているようですが…」

「…そんな話は初めて聞いた。神藤、お前は疲れているんだ。少し休んだ方がいい」

担任教師は、葉羽の言葉を信じようとしなかった。

「…しかし、先生…」

葉羽は、食い下がろうとした。しかし、その時、職員室のドアが開き、警察官が入ってきた。

「…神藤葉羽くん、望月彩由美さん、ですね？北条楓くんについて、少しお話を伺いたいのですが」

警察官は、二人に声をかけた。

警察署での尋問は、長く続いた。葉羽は、黒い箱のこと、奇妙な現象のこと、そして謎の電話のことを話したが、警察官は真剣に受け止めようとはしなかった。

「…神藤くん、君の言っていることは、少し現実離れしすぎている。疲れているんだろう？ゆっくり休んで、落ち着いたらまた話を聞こう」

警察官は、憐れむような目で葉羽を見つめた。

葉羽は、悔しさを噛み殺しながら、警察署を後にした。警察は、北条楓の死を自殺として処理しようとしている。しかし、葉羽は、それが真実ではないことを確信していた。

「…どうするのよ、葉羽くん…」

彩由美は、不安そうに尋ねた。

「…諦めるわけにはいかない。俺たちは、真実を突き止めなければならない」

葉羽は、決意を新たにした。

その日の午後、葉羽は、北条楓の自宅を訪れた。彼の部屋は、綺麗に片付けられており、自殺を思わせるようなものは何もなかった。しかし、葉羽は、机の引き出しの中から、一冊のノートを発見した。

それは、北条楓の日記だった。日記には、彼が体験した奇妙な現象、黒い箱のこと、そして、徐々に精神的に追い詰められていく様子が克明に綴られていた。

そして、最後のページには、こう書かれていた。

「…もう限界だ。誰かに見られている。囁かれている。逃げられない。…神藤、助けてくれ…」

葉羽は、日記を読み終えると、全身に鳥肌が立った。北条楓は、自殺したのではなく、殺されたのだ。そして、犯人は、黒い箱と関係しているに違いない。

その時、葉羽は、日記の最後のページに、小さな黒い羽根が挟まっていることに気づいた。それは、図書室と葉羽の家の窓で見つけたものと、全く同じものだった。