影の多重奏：神藤葉羽と消えた記憶の螺旋

6章

容疑者たち

北条楓の日記と黒い羽根を手がかりに、葉羽は本格的に捜査を開始した。まず、彼が疑いを向けたのは、北条楓と関係の深かった人物たちだった。

一人目は、水無瀬翠。彼女は、北条楓と同じ演劇部に所属しており、彼とは親しい間柄だった。しかし、翠は、北条楓の死後、動揺するどころか、どこか冷淡な態度を見せていた。

葉羽は、翠に改めて話を聞いた。

「…翠、北条くんの日記を読んだが、彼はお前によく相談をしていたようだ。何か、彼の様子に変わったところはなかったか？」

葉羽は、鋭い視線で翠を見つめた。

「…変わったところ？特に何も…彼は、いつも通りだったわ」

翠は、落ち着き払った様子で答えた。しかし、彼女の視線は、どこか泳いでいるように見えた。

二人目は、朽木椿。彼は、北条楓のクラスの担任教師であり、彼を厳しく指導していた。北条楓の日記には、朽木教師への不満や恐怖が綴られていた。

葉羽は、朽木教師に話を聞いた。

「…先生、北条くんの日記には、先生に対する恐怖が書かれていました。何か、彼に厳しく指導したことはありますか？」

葉羽は、単刀直入に尋ねた。

「…北条くんは、少し問題のある生徒だった。だから、時には厳しく指導することもあった。しかし、それは全て彼のためを思ってのことだ」

朽木教師は、冷淡な口調で答えた。彼の言葉には、一切の感情がこもっていなかった。

三人目は、鴉羽黒音。彼は、北条楓の死の直前に転校してきた謎の生徒だった。彼は、常に黒い服を着ており、誰とも口を利こうとしない。北条楓の日記には、黒音に対する不気味な印象が記されていた。

葉羽は、黒音に接触を試みたが、彼は姿を消していた。まるで、最初から存在しなかったかのように。

葉羽は、三人の容疑者に共通点があることに気づいた。それは、彼らが皆、黒い箱の存在を知っている、もしくは見ている可能性が高いということだった。

さらに、葉羽は、それぞれの容疑者が、多重人格の兆候を示していることに気づき始めた。翠の不自然なまでの冷静さ、朽木教師の感情の欠如、そして黒音の謎めいた存在感。これらは全て、多重人格者が持つ特徴と一致していた。

葉羽は、確信した。犯人は、この三人の中にいる。そして、黒い箱は、彼らの多重人格と深く関わっているに違いない。