幻影のアリア

葉羽

文字の大きさ
1 / 5
1章

奇妙な屋敷

しおりを挟む
薄暮が差し込む中、神藤葉羽は、幼馴染の望月彩由美と共に、古時計のある屋敷へと足を踏み入れた。重厚な扉を開けると、ほこりっぽい空気が鼻を刺激し、どこか懐かしいような、そして同時に不気味な感覚が葉羽を包み込む。

屋敷内は、まるで時間が止まったかのように静まりかえっていた。埃をかぶった家具、ひび割れた壁、そして、どこからともなく聞こえてくる時計の刻む音が、異様な雰囲気を醸し出していた。

「わぁ、すごい古い家だね!」

彩由美は、キラキラとした瞳で屋敷内を見回す。彼女の無邪気な笑顔が、少しばかり緊張していた葉羽の心を和ませる。葉羽は、この屋敷に足を踏み入れた瞬間から、何か特別なものが存在していることを感じていた。

「うん、すごく古いらしいよ。この屋敷には、色んな噂があるんだ」

葉羽は、屋敷の主である老婦人の話を彩由美にした。老婦人は、この屋敷に代々住む一族の末裔であり、屋敷には数々の謎と秘密が隠されていると言われている。

「どんな噂なの?」

彩由美は、興味津々の様子で葉羽に問いかける。

「昔、この屋敷で奇妙な事件が起きたことがあるんだって。人が姿を消したり、奇妙な声が聞こえたり…。それから、この屋敷には幽霊が出るっていう噂もあるんだ」

葉羽の話に、彩由美は少し顔をしかめる。

「え、幽霊!?ちょっと怖いよ…」

「大丈夫だよ。きっと、ただの噂さ」

葉羽は、彩由美を安心させようと笑う。しかし、彼の心の中では、一抹の不安がよぎっていた。

二人は、屋敷の中を探索し始めた。一歩足を踏み入れるたびに、床板が軋み、古い家具が軋む音が響き渡る。薄暗い廊下の奥には、いくつもの部屋が並んでいた。

「この部屋、なんか怖いね」

彩由美は、薄暗い書斎を指さす。書斎の中は、古びた書物や、奇妙な形のオブジェで埋め尽くされていた。

「そうだね。この屋敷には、生きている人間よりも、本の数の方が多いんじゃないか」

葉羽は、苦笑しながら書斎の中に入る。書棚には、何百年も前に書かれたと思われる古ぼけた書物がぎっしりと並んでいた。

「この本、なんか変じゃない?」

彩由美が指さしたのは、書棚の一番上の段に置かれた一冊の本だった。その本は、他の本とは異なり、黒い革で覆われており、金色の模様が刻まれていた。

「ああ、あれは…」

葉羽は、その本に手を伸ばそうとしたが、突然、屋敷全体が揺れ始めた。

「地震!?」

彩由美が驚きの声を上げる。

揺れはすぐに収まったが、その瞬間、壁に掛けられていた肖像画が、ガタガタと音を立てて落ちた。肖像画には、屋敷の過去の住人と思われる人物が描かれており、その人物の目は、まるで葉羽たちを見つめているようだった。

「うわぁ!」

彩由美は、恐怖のあまり葉羽に抱きつく。

「大丈夫、大丈夫」

葉羽は、彩由美を優しく抱きしめながら、周囲を見渡す。

「この屋敷、何かおかしい…」

葉羽は、確信を込めてそう呟いた。

屋敷の中に、何か邪悪な力が渦巻いている。それは、葉羽の直感が告げていた。

その夜、葉羽たちは、屋敷の一室で一夜を明かすことになった。古いベッドに横になりながら、葉羽は、今日起きた出来事を何度も何度も思い返していた。

「葉羽くん、怖い…」

彩由美が、不安そうに葉羽の腕に顔を埋める。

「大丈夫、僕が守ってあげるから」

葉羽は、彩由美の頭を優しく撫でながら、そう囁く。

しかし、葉羽の心には、まだ解き明かされていない謎がいくつも残っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

(ほぼ)5分で読める怖い話

涼宮さん
ホラー
ほぼ5分で読める怖い話。 フィクションから実話まで。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

処理中です...