「鏡像のイデア」 難解な推理小説

葉羽

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6章

次元の狭間

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特定の周波数の音波を発生させながら鏡に触れる。それは、葉羽が推論の末に辿り着いた、鏡像融合を意図的に引き起こす方法だった。成功すれば鏡像迷宮へ戻れる。しかし、失敗すれば何が起こるかは予測できない。

深い息を吸い込み、葉羽は覚悟を決めた。スマートフォンから精密に調整された音波が流れ出す中、彼は恐る恐る鏡面に手を触れた。

すると、鏡の表面が微かに振動し始めた。まるで水面に波紋が広がるように、鏡面が歪み、揺らぎ始める。周囲の景色もそれに合わせて歪み、現実世界が融解していくかのような錯覚に陥る。

音波の振動が激しくなるにつれ、鏡の表面は光を放ち始めた。眩い光が葉羽を包み込み、彼の意識は現実世界から引き剥がされていく。まるで、強力な引力に吸い込まれるように、葉羽の体は鏡の奥へと引きずり込まれていった。

意識が戻ると、葉羽は全く異なる空間にいた。そこは、鏡像迷宮とも現実世界とも異なる、奇妙な空間だった。

空間全体が、虹色の光で満たされている。壁や床といった明確な境界線はなく、ただ光だけが渦を巻くように流動している。まるで、万華鏡の中に入り込んだかのような、美しくも不気味な空間だった。

「ここは…一体…?」

葉羽は、戸惑いながら周囲を見回した。この空間は、彼がこれまで経験したどの世界とも異なっていた。現実世界の物理法則は、ここでは全く通用しないようだった。

その時、葉羽の耳に、声が聞こえてきた。

「ようこそ…次元の狭間へ…」

声は、葉羽の声と瓜二つだった。しかし、その響きには、深い悲しみと、微かな希望が混じり合っていた。葉羽は、この声が、迷宮に囚われた「本当の自分」の声であることを確信した。

「お前は…そこにいるのか…?」

葉羽は、声のする方向に向かって呼びかけた。すると、虹色の光の中から、人影が現れた。それは、紛れもなく葉羽自身だった。しかし、その姿は、現実世界の葉羽とは少し違っていた。

彼の体は、半透明で、まるで幽霊のようだった。そして、彼の表情は、深い悲しみと絶望に満ちていた。

「私は…ここにいる…次元の狭間に囚われた…もう一人の君だ…」

もう一人の葉羽は、静かに語り始めた。彼は、鏡像融合の失敗によって、この次元の狭間に囚われてしまったことを説明した。そして、この空間は、現実世界と鏡像迷宮を繋ぐ、いわば中継地点のような場所であることを告げた。

「ここから…現実世界へ戻る方法はあるのか…?」

葉羽は、希望を込めて尋ねた。もう一人の葉羽は、少し考え込み、答えた。

「方法…はある…しかし…それは危険な賭けだ…」

「危険な賭け…?」

「ああ…この次元の狭間は…不安定な空間だ…少しでもバランスを崩せば…君は…永遠に…この空間に囚われてしまうかもしれない…」

もう一人の葉羽の言葉は、葉羽の心に不安を掻き立てた。しかし、彼は諦めるわけにはいかない。彼は、もう一人の自分を救い出し、現実世界へと戻るため、どんな危険も覚悟するつもりだった。

「教えてくれ…その方法を…」

葉羽は、強い決意を持って言った。もう一人の葉羽は、深く息を吸い込み、説明を始めた。

「この次元の狭間には…無数の扉が存在する…それぞれの扉は…異なる次元へと繋がっている…君が…現実世界へ戻るためには…正しい扉を見つけなければならない…」

「正しい扉…?」

「ああ…正しい扉は…君の心の奥底にある…真実の扉だ…君が…自分の心に従えば…必ず…正しい扉を見つけることができる…」

もう一人の葉羽の言葉は、謎めいていた。しかし、葉羽は、彼の言葉の意味を理解した。正しい扉を見つけるためには、自分自身の心に従い、自分の本当の望みを見つける必要があるのだ。

葉羽は、目を閉じて、深く心の奥底を見つめた。彼は、自分が本当に望んでいることは何か、自分にとって何が大切なのかを自問自答した。

そして、ついに、彼は答えを見つけた。彼が本当に望んでいることは、彩由美を守ること。彩由美と共に、平和な日常を取り戻すこと。それが、彼にとって最も大切なことだった。

葉羽は、目を開けた。彼の瞳には、強い決意が宿っていた。彼は、正しい扉を見つける自信があった。

彼は、もう一人の葉羽に別れを告げ、次元の狭間の探索を開始した. 空間には、無数の扉が浮かんでいた. それぞれの扉は、異なる色、異なる形で、まるで生きているかのように pulsating していた。

葉羽は、一つ一つの扉に近づき、その向こう側にある世界を感じ取ろうとした. しかし、どの扉も、彼に何も語りかけてくることはなかった。

その時、葉羽は、一つの扉に目が留まった. その扉は、他の扉とは異なり、光り輝いていなかった。むしろ、暗く、陰鬱な雰囲気を放っていた. まるで、この空間に存在しないかのような、異質な存在感を放っていた。

葉羽は、この扉に何かを感じた. それは、恐怖とも、不安とも違う、不思議な感覚だった. まるで、この扉が彼を呼んでいるかのような、そんな感覚だった.

葉羽は、迷わずその扉へと近づいた. そして、深呼吸をして、扉を開けた.

扉の向こうには、深い闇が広がっていた.
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