没入劇場の悪夢：天才高校生が挑む最恐の密室殺人トリック

12章

深淵からの呼び声

劇場全体を覆う暗闇。けたたましいサイレンの音。葉羽は、完全に孤立していた。出口は全て封鎖され、逃げ場はどこにもない。

その時、異変が起きた。劇場内の空気が、重く、生暖かくなった。床が揺れ始め、壁からは不気味な音が聞こえてきた。まるで、劇場全体が生き物のように蠢き始めたかのようだった。

そして、葉羽の目の前に、幻覚が現れ始めた。

最初は、かすかな光だった。それが次第に大きくなり、様々な形に変化していった。人間の顔、動物の姿、そして、奇妙な幾何学模様。

幻覚は、葉羽の意識を蝕み始めた。彼は、現実と虚構の区別がつかなくなり、恐怖に慄いた。

その時、葉羽の脳裏に、過去のトラウマが蘇ってきた。幼い頃、彼は暗い地下室に閉じ込められたことがあった。何時間も暗闇の中で過ごした恐怖体験は、彼の心に深い傷跡を残していた。

幻覚は、そのトラウマを刺激し、葉羽をさらに深い恐怖へと引きずり込んだ。彼は、息苦しさを感じ、胸が締め付けられるような感覚に襲われた。

「落ち着け…落ち着くんだ…」

葉羽は、必死に自分に言い聞かせた。彼は、深呼吸を繰り返し、冷静さを保とうと努めた。

しかし、幻覚はますます激しくなっていった。彼の周りには、無数の顔が浮かび上がり、彼を嘲笑う声が聞こえてきた。壁からは、血のような液体が流れ出し、床には、無数の虫が這い回っていた。

葉羽は、精神的な攻撃に耐えきれなくなりそうだった。しかし、彼は諦めなかった。彼は、必ずこの悪夢から脱出しなければならない。彩由美を、そして、自分自身を守るために。

葉羽は、意識を集中し、現状を分析しようと試みた。彼は、幻覚が、プロジェクションマッピングと音響効果によって作り出されていることを理解していた。つまり、この装置を停止させることができれば、幻覚からも解放されるはずだ。

葉羽は、劇場の構造を思い出そうとした。設計図には、装置の制御装置の場所が記されていたはずだ。

しかし、幻覚の影響で、葉羽の思考は混乱していた。彼は、記憶を辿ることができず、焦燥感に駆られた。

その時、葉羽は、幻覚の中に隠されたメッセージがあることに気づいた。それは、壁に映し出された幾何学模様だった。模様は、一見ランダムに配置されているように見えたが、よく見ると、一定の規則性があることが分かった。

葉羽は、模様の規則性を解読しようと試みた。そして、ついにメッセージの意味を理解した。

メッセージは、こう書かれていた。

「汝、深淵を覗くとき、深淵もまた汝を覗かん」

それは、ニーチェの言葉だった。葉羽は、この言葉が、犯人からの挑戦状であることを悟った。

犯人は、葉羽に、深淵を覗き込む勇気があるかどうか試しているのだ。

葉羽は、恐怖に打ち勝ち、深淵を覗き込むことを決意した。彼は、幻覚の中に飛び込み、真実に立ち向かう覚悟を決めた。

その時、葉羽は、幻覚の中で、彩由美の悲鳴を聞いた。

「きゃあああっ！」

彩由美の声は、悲痛に満ちていた。彼女は、何かに襲われているようだった。

葉羽は、彩由美が危険にさらされていることを悟った。彼は、何としても彼女を助けなければならない。

しかし、葉羽は、幻覚の中に閉じ込められており、身動きが取れない。彼は、焦燥感と無力感に苛まれ、絶望的な気持ちになった。