影蝕の虚塔 - かげむしばみのきょとう -

葉羽

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8章

残響 - 日常への帰還 -

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朝日に照らされた穏やかな海面を、定期船は静かに進んでいく。甲板に立つ葉羽は、遠ざかる孤島をじっと見つめていた。霧に包まれた虚塔は、もはや黒い影のようにしか見えない。まるで、悪夢の残滓が消え去っていくかのようだった。

隣には、目を覚ました彩由美が寄り添っていた。彼女はまだ少しぼんやりとした様子だったが、葉羽の姿を確認すると、安堵の表情を浮かべた。

「…葉羽君…無事だったのね…」

彩由美の声はかすれており、彼女の瞳には、まだ恐怖の影が残っていた。葉羽は優しく彼女の肩を抱き寄せた。

「…ああ、大丈夫だ。もう何も心配いらない。」

葉羽は心からそう言った。綺羅星は消え去り、影の恐怖も去った。虚塔の秘密は、深い海の底に沈んだように、静かに封印されたのだ。

しかし、事件の記憶は、二人の心に深い傷跡を残していた。特に彩由美は、影の恐怖に苛まれ、夜になると悪夢にうなされる日々が続いた。葉羽は、そんな彼女を優しく見守り、励まし続けた。彼は、彩由美の心の傷が癒えるまで、ずっとそばにいると誓ったのだ。

数日後、二人は日常へと戻った。学校では、いつものように授業を受け、友人たちと談笑する。しかし、葉羽の心には、拭いきれない虚無感が漂っていた。虚塔での体験は、あまりにも強烈で、非現実的だった。まるで、別の世界を旅してきたかのような感覚だった。

ある日、葉羽は図書館で、古代文明に関する本を手に取った。虚塔の装置、そして綺羅星の言葉…それらは、古代文明の高度な技術と、失われた知識を示唆していた。葉羽は、古代文明の謎を解き明かすことで、虚塔での出来事を理解できるかもしれないと考えたのだ。

葉羽は古代文明に関する研究にのめり込んでいった。彼は図書館に通い詰め、膨大な資料を読み漁った。そして、彼は驚くべき発見をする。古代文明は、高度な科学技術を持っていただけでなく、精神世界にも深い関心を寄せていたらしい。彼らは、人間の意識や精神を操作する技術を研究しており、虚塔の装置も、その研究の一環として作られた可能性があった。

葉羽はさらに研究を進め、古代文明が滅亡した原因を探ろうとした。そして、彼は一つの仮説に辿り着いた。古代文明は、自らの技術の進歩に溺れ、倫理的な歯止めを失った結果、滅亡したのではないか。虚塔の装置は、その過ちの象徴であり、警告なのかもしれない。

葉羽は、この仮説を証明するために、さらなる研究が必要だと感じた。しかし、同時に、彼はある不安を抱えていた。もし、古代文明の技術が現代に蘇ったら…世界はどうなってしまうのだろうか?

その夜、葉羽は彩由美と二人で、星空を見上げていた。満天の星々に囲まれながら、葉羽は彩由美に、虚塔での出来事、そして古代文明の謎について語った。

「…もしかしたら、僕たちは、とんでもない秘密に触れてしまったのかもしれない…」

葉羽の言葉に、彩由美は静かに頷いた。

「…でも、葉羽君となら…どんな困難も乗り越えられる…信じて…」

彩由美の言葉に、葉羽は勇気づけられた。彼は彩由美の手を握り、星空を見上げた。

虚塔の事件は終わった。しかし、それは新たな謎の始まりでもあった。古代文明の謎、そして、人間の意識と精神世界の謎…葉羽は、これらの謎を解き明かすために、これからも探求を続けていくことを決意した。

そして、彼は彩由美と共に、未来へと歩み始めた。彼らの前には、未知なる世界が広がっている。希望と不安が入り混じる未来へと、二人は手を取り合って進んでいく。

二人の物語は、まだ始まったばかりなのだ。
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