天才の孤独と推理の始まり

葉羽

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5章

消えた証拠

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第5章: 「消えた証拠」

隠された部屋の中で見つけた古いノートを手にした神藤葉羽は、静かにその内容を読み進めていた。彩由美の家族にまつわる何か重大な秘密が、このノートに記されていることは間違いなかった。しかし、その一文一文が謎めいていて、すぐには全貌を把握できない。ページをめくるごとに、葉羽の頭の中には無数の仮説と推理が飛び交った。

彩由美は葉羽の隣で心配そうに彼を見守っている。彼女自身、この隠し部屋の存在を知らなかったことに戸惑いを隠せないでいた。

「どう？何かわかった？」彩由美が恐る恐る聞いた。

「まだ断片的だが……」葉羽はノートの内容を読み上げた。「この家のかつての所有者、彩由美の祖父かもしれない人物が、何か重要な研究をしていた形跡がある。だが、研究内容についてはまだ詳しくは書かれていない。これだけでは不十分だ。」

葉羽は眉間にしわを寄せながら、さらにページをめくった。古びた手書きの文字は、ところどころ読みづらくなっていたが、一つのフレーズが彼の目を引いた。

**「鍵はすべての始まりだ」**

葉羽は目を見開いた。「鍵……やはりこの鍵が、何か大きなものに繋がっている。」

「どういうこと？」彩由美は困惑しながら葉羽を見つめる。

「おそらく、この鍵はただの物理的なドアを開けるためのものじゃない。もっと大きな、象徴的な意味を持っているはずだ。そしてそれに関連する何かが、この家にまだ隠されている可能性が高い。」葉羽の推理は確信に近づいていた。だが、その全貌を掴むにはまだ証拠が足りない。

「もう少しこの部屋を調べてみる必要があるな。」葉羽はノートを元の箱に戻し、部屋の隅々まで目を配り始めた。床や壁、天井に何か隠された仕掛けがないかを注意深く見て回った。

しかし、突然の異変が彼らを襲った。

部屋の中での調査を続ける中、葉羽はふと違和感を覚えた。先ほど見つけた書類やノートを入れていた箱の位置が、微妙に変わっていることに気づいたのだ。葉羽はすぐに箱に駆け寄り、中身を確認した。

「……ノートが……ない。」

「えっ？嘘でしょ？」彩由美は驚きの声を上げた。

先ほどまで葉羽が読んでいたはずの古いノートが、跡形もなく消えていた。代わりに、箱の中にはただの空白の紙が一枚残されているだけだった。

「どうして……？」葉羽は一瞬混乱した。だが、すぐに状況を冷静に分析しようと努めた。「誰かがこの部屋に侵入したのか？いや、それなら足音や痕跡が残るはずだ。何か別の仕掛けか……？」

葉羽は箱の中をさらに探った。箱の底や蓋に何か細工がないかを確認し、ようやく一つの発見をした。箱の底にわずかな傷がついており、それがまるで開閉可能な隠し扉のように見える。

「これだ……」葉羽は囁いた。そして、慎重にその傷の部分を押し込むと、箱の底がゆっくりと開いた。そこには何かが仕込まれていた――一見、普通の紙だが、葉羽はそれを手に取り、じっくりと見つめた。

「この紙……インクが消えている？」葉羽は驚愕した。

「インクが消えてる？」彩由美が疑問の声をあげた。

「そうだ。何らかの方法で、ノートに書かれていた内容が、この紙に移動している可能性がある。だが、普通の目では見えない仕組みだ……特殊なインクかもしれない。紫外線か、何か特別な光で照らさなければ、文字が浮かび上がらないんだろう。」

葉羽は、その紙を慎重に折りたたんでポケットにしまった。

「ここではこれ以上わからない。今はこの紙を持ち帰って、調べてみるしかないな。」葉羽は決然とそう言った。ノートが突然消えたことは大きな不安材料だが、それでも証拠はまだ残っている。今は冷静に行動するべき時だ。

「でも、なんでそんな仕掛けが……？」彩由美はまだ困惑している。

「おそらく、君の祖父か誰かが、この家に何か重要な秘密を隠したかったんだろう。だから、鍵やこのノートに関わる情報を誰にも見つからないように細工したんだ。」

「私の家族にそんな秘密があるなんて……信じられないよ。」彩由美の声には不安と驚きが入り混じっていた。

葉羽は彩由美の肩に手を置き、静かに言った。「君にとっては驚きかもしれないが、今は冷静に対処しよう。まだ真実はすべて解明されていない。それに、この鍵やノートに関することは、ただの過去の遺物じゃない。今、僕たちが関わっている『何か』と繋がっている。」

その時、彩由美の表情に一瞬の恐れが走った。「じゃあ、山下さんも……このことに関係してるの？」

「可能性は高い。彼がこの鍵に興味を持っているのは偶然じゃない。」葉羽はそう断言した。「山下は何か知っている。もしくは、僕たち以上に真相に近づいているのかもしれない。」

彩由美は震える声で言った。「でも……山下さんはそんな危険な人には見えなかったよ。私、信じていいと思ってたのに。」

葉羽は彩由美の目をじっと見つめた。「人を見た目だけで信じるのは危険だ。特に、今の状況では。彩由美、君も自分を守るために慎重に行動するんだ。僕が君を守るから、心配しないで。」

彩由美は深く息をつき、やっと少し落ち着いた様子を見せた。「わかった。葉羽くん、頼りにしてるよ。」

葉羽は再び暗い部屋を見回し、そして決心した。「今日は一旦ここまでにしよう。これ以上ここでの探索は危険だ。まず、この消えた証拠の正体を解き明かすために、家に戻って紙の謎を解明する必要がある。」

二人は部屋を後にし、元の家の一角に戻った。葉羽の中では、一つの大きなパズルが徐々に組み上がり始めていた。しかし、その全貌はまだ見えない。謎は深まるばかりだ――そして、葉羽はそのすべてを解明するために、さらなる覚悟を決めていた。

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