視界迷宮の村 絶望の連鎖と歪む残像

１８章

共犯者の真実

日光寺晴玄の逮捕、そして事件の全容が明らかになった後も、葉羽の心には、一つの疑問が残っていた。それは、白樫銀次の動機についてだった。なぜ、彼は晴玄の共犯者になったのか。なぜ、彼は自ら命を絶ったのか。銀次は、村人たちから信頼の厚い人物だった。そんな彼が、なぜ、このような凶悪な事件に加担したのか、葉羽にはどうしても理解できなかった.

葉羽は、銀次の自宅を再び訪れた。家の中は、事件当時のまま、静まり返っていた. 彼は、銀次が生前に使っていた書斎に入った. 書斎の机の上には、彼の愛用していた万年筆と、読みかけの本が置かれていた. 葉羽は、銀次の人となりを知る手がかりを探し、彼の持ち物や書棚の本を一つずつ丁寧に調べていった.

書棚には、歴史書、哲学書、そして、推理小説などが並んでいた。銀次は、読書家だったようだ。葉羽は、銀次が読んでいた推理小説に目を留めた. それは、葉羽も愛読している作家の作品だった.

「銀次さんも、推理小説が好きだったのか…」

葉羽は、呟くように言った. 彼は、銀次との間に、奇妙な親近感を覚えた.

彼は、推理小説を開き、ページを捲った。すると、あるページに挟まれた一枚の栞に目が留まった。栞は、古びた紙でできており、そこには、小さな文字で何かが書かれていた.

葉羽は、栞を取り出し、文字を解読した。そこには、驚くべき内容が記されていた. それは、銀次が過去に犯したある罪の告白だった.

数十年前、銀次は、ある事件を起こしていた. 彼は、当時付き合っていた女性を、事故で死なせてしまったのだ。事故は、銀次の不注意によるものだった。しかし、彼は、その罪を隠蔽し、事故を装って処理した。

「これは…」葉羽は、栞を読み終え、息を呑んだ. 彼は、銀次が抱えていた闇の深さに、言葉を失った。

銀次は、罪の意識に苛まれ、苦悩の日々を送っていた。彼は、誰にも真実を打ち明けることができず、一人で苦しみを抱え込んでいた。

そして、晴玄は、銀次のこの弱みに付け込んだのだ。彼は、銀次の過去を暴き、彼を脅迫した. 彼は、銀次が自分の共犯者にならない限り、彼の罪を世間に公表すると脅したのだ.

銀次は、晴玄の脅迫に屈し、共犯者になることを承諾した. 彼は、自らの罪を隠蔽するために、晴玄の復讐計画に協力したのだ。

葉羽は、銀次が抱えていた苦悩を想像した. 彼は、愛する人を失い、罪の意識に苛まれ、そして、晴玄に脅迫されるという、三重苦を味わっていたのだ。

彼は、銀次が最後に残した言葉、「影に…操られて…」の意味を理解した. 銀次は、自らの罪の意識という「影」に操られ、晴玄の復讐計画という「影」に操られて、自ら命を絶ったのだ。

葉羽は、銀次の苦悩に、深い同情を覚えた. 彼は、銀次が被害者であると同時に、加害者でもあったことを理解した。彼は、銀次を責めることはできなかった.

彼は、銀次の書斎を出て、家の中を歩き回った. そして、彼は、銀次の寝室で、一枚の写真を見つけた. 写真には、若い頃の銀次と、彼の恋人と思われる女性が、笑顔で並んで写っていた.

葉羽は、写真を見つめながら、静かに呟いた。「銀次さん…あなたは、本当に、不幸な人だった。」

彼は、銀次の悲劇に、胸を締め付けられる思いだった. 銀次は、自らの罪によって、そして、晴玄の狂気によって、人生を狂わされてしまったのだ。

葉羽は、白銀館に戻り、彩由美に銀次の真実を語った. 彩由美は、銀次の悲劇に涙を流し、彼を哀れんだ.

「銀次さんは、本当に、可哀想な人だったのね…」彩由美は、涙を拭いながら言った。「彼は、ただ、幸せになりたかっただけなのに…」

「ああ。」葉羽は、静かに頷いた。「彼は、運命に翻弄され、悲劇的な最期を迎えてしまった。しかし、私は、彼の真実を明らかにすることで、彼の魂を救済したいと思っている。」

葉羽は、銀次の物語を書き記すことにした. 彼は、銀次の苦悩と後悔、そして、彼が抱えていた罪の意識を、詳細に書き記した。彼は、銀次が単なる悪人ではなく、弱い心を持った人間であったことを、世間に伝えたいと思ったのだ.

彼は、物語を書き終えると、それを新聞社に送った。物語は、大きな反響を呼び、多くの人々の心を揺さぶった。銀次は、生前、罪を隠蔽していたが、死後、彼の真実は明らかになった。そして、彼は、多くの人々の同情と哀れみを集めた.

葉羽は、銀次の真実を明らかにすることで、彼の魂を救済することができたと感じていた。彼は、銀次が安らかに眠れることを祈り、白髯村を後にした。