時を喰らう館:天才高校生探偵、神藤葉羽の難解推理

葉羽

文字の大きさ
3 / 17
3章

消えた富豪と歪んだ時間

しおりを挟む
黒瀬の案内で、葉羽と彩由美は天堂雅也の居室へと向かった。長い廊下を進むにつれ、空気はさらに重苦しくなり、彩由美は葉羽の腕にぎゅっとしがみついた。彼女のわずかな震えが、葉羽にも伝わってくる。

雅也の居室は、洋館の最上階に位置していた。重厚な扉を開けると、意外にも、部屋は整然としており、落ち着いた雰囲気が漂っていた。大きな窓からは、庭園の緑が一望でき、鳥のさえずりがかすかに聞こえる。しかし、その静けさの中に、葉羽は不自然な違和感を感じ取っていた。

「雅也様は、ここ数日、部屋にこもってばかりで……滅多に外には出られませんでした」

黒瀬は、神妙な面持ちでそう言った。彼の言葉は、単なる事実の報告ではなく、何かを隠蔽しようとするような、微妙な含みを感じさせた。

葉羽は、部屋の中を注意深く観察し始めた。調度品、書物、置物――一つ一つ丁寧に見ていくが、争った形跡は見当たらない。まるで、雅也が自ら姿を消したかのように、全てが静かに佇んでいた。

ふと、葉羽の視線は、部屋の壁にかかった時計に留まった。アンティーク調の重厚な時計は、時を刻む音を規則正しく響かせていたが、その針が示す時刻は、明らかに現実とずれていた。

「おかしい……」

葉羽は、呟いた。時計の針は、三日前の日付を指していたのだ。

「どうかしましたか、葉羽さん?」

彩由美が心配そうに尋ねた。彼女は、葉羽の異変に気づき、不安げな表情を浮かべていた。

葉羽は、他の時計も確認した。卓上時計、懐中時計、全てが同様に、三日前の日付を指していた。まるで、この部屋だけが、時間の流れから取り残されたかのように。

「これは……一体どういうことだ?」

葉羽は、深い思考の迷宮に迷い込んだ。単なる時計の故障だろうか? それとも、何か意図的な操作が行われたのだろうか?

その時、葉羽は、微かに漂う甘い香りに気づいた。それは、書斎で見つけた古書に記載されていた、特定の植物から抽出される精油の香りだった。人間の嗅覚に影響を与え、時間感覚を歪ませる効果があるという、あの香り。

「この香りは……」

葉羽は、香りの発生源を探し始めた。香りは、部屋の奥にあるクローゼットから漂ってきているようだった。クローゼットを開けると、中には、雅也の衣服が整然と並べられていた。そして、衣服の間に、小さな瓶が隠されていた。瓶の中には、あの精油が入っていた。

「やはり、これは偶然ではない……」

葉羽は、確信した。雅也の失踪、ずれた時計、そして精油の香り――これらは全て、何者かによって仕組まれた、巧妙な罠の一部なのだ。

その時、館の外から、騒がしい声が聞こえてきた。黒瀬が慌てた様子で部屋に駆け込んできた。

「大変です! お庭で、雅也様の血痕が付着したハンカチが見つかりました!」

黒瀬の言葉に、葉羽と彩由美は凍りついた。事態は、一気に緊迫の度を増した。まるで、見えない手が、二人を悪夢の深淵へと引きずり込もうとしているかのように。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

壊れていく音を聞きながら

夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。 妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪 何気ない日常のひと幕が、 思いもよらない“ひび”を生んでいく。 母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。 誰も気づきがないまま、 家族のかたちが静かに崩れていく――。 壊れていく音を聞きながら、 それでも誰かを思うことはできるのか。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...