時を喰らう館：天才高校生探偵、神藤葉羽の難解推理

４章

密室の悪夢

けたたましいサイレンの音と共に、パトカーが天堂家の洋館へと到着した。制服姿の警察官たちが館内へと入り、緊迫した空気が辺りを包み込んだ。雅也の血痕が付着したハンカチの発見は、単なる失踪事件を殺人事件へと変貌させた。

葉羽と彩由美は、応接間に待機させられ、事情聴取を受けた。二人は、雅也の居室で見つけた奇妙な時計と精油の香りのことについて、正直に警察に話したが、相手は半信半疑といった様子だった。

「時計が全て三日前の日付を指していた？　そんなバカな……」

ベテラン刑事の風間虎雄（かざま とらお）は、葉羽の言葉を鼻で笑った。彼は、筋骨隆々とした体格で、鋭い眼光を持つ、いかにも刑事といった風貌の男だった。

「でも、本当にそうだったんです。それに、雅也さんの部屋には、特殊な精油の香りが……」

葉羽は、必死に説明しようとしたが、風間は聞く耳を持たなかった。

「坊主、推理小説の読みすぎだ。現実は、そんな単純なもんじゃない」

風間は、葉羽を睨みつけ、部屋を出て行った。葉羽は、悔しさを噛み締めながら、拳を握りしめた。

捜査は難航し、雅也の行方は依然として不明のままだった。警察は、洋館の隅々まで捜索したが、有力な手がかりは見つからなかった。

その時、館の地下室から、悲鳴が上がった。駆けつけた警察官たちは、地下室の奥で、恐ろしい光景を目にした。

天堂雅也は、地下室の密室で、死体となって発見されたのだ。部屋は内側から厳重に施錠されており、一見すると自殺か事故死のようにも見えた。しかし、葉羽は、現場の状況に強い違和感を覚えた。

風間は、葉羽を現場に立ち入らせないように指示したが、葉羽は隙を見て、こっそり地下室へと侵入した。彩由美も、葉羽の後をついてきた。

地下室は、薄暗く、ひんやりとした空気が漂っていた。雅也の遺体は、床に横たわっており、顔は青白い。死因は、まだ特定されていなかった。

葉羽は、部屋の中を注意深く観察し始めた。ドアの鍵、窓の位置、部屋の構造――全てが、計算されたように配置されていた。まるで、何者かが意図的に、密室状態を作り出したかのように。

「これは……自殺でも事故でもない」

葉羽は、確信した。これは、巧妙に仕組まれた殺人事件なのだ。そして、犯人は、この密室トリックを使って、自身の犯行を隠蔽しようとしている。

葉羽は、床に散らばった書類に目を留めた。書類には、複雑な数式や図形がびっしりと書き込まれていた。葉羽は、それらが何らかの暗号ではないかと考え、解読を試みた。

彩由美は、葉羽の真剣な表情に、何も言わずに見守っていた。彼女は、葉羽の推理力を信じ、彼を支えようとしていた。

その時、葉羽は、壁に奇妙な痕跡があることに気づいた。それは、一見するとただの汚れのように見えたが、葉羽は、それが特殊な光を当てると浮かび上がる、幾何学的な模様であることを発見した。懐中電灯で模様を照らすと、壁には、複雑な図形が浮かび上がった。それは、まるで、犯人が残したメッセージのようだった。

「これは……一体何を意味するんだ？」

葉羽は、新たな謎に直面し、思考を巡らせた。密室トリック、謎の模様、そして消えた時間――これらのピースを繋ぎ合わせれば、きっと事件の真相が見えてくるはずだ。葉羽は、そう信じ、推理を続けた。事件は、ますます複雑さを増し、葉羽を深い闇へと引きずり込もうとしていた。