残響鎮魂歌(レクイエム)

葉羽

文字の大きさ
9 / 15
9章

音の迷宮

しおりを挟む
朔也の研究室に到着した葉羽は、待合室で蒼白な顔をした朔也と対面した。星良は病院に搬送されたが、意識不明の重体だという。

「星良さんが…一体どうして…」葉羽は絞り出すように尋ねた。

朔也は深くため息をつき、重々しい口調で言った。「おそらく、黒曜さんと同じように…時間音響学の影響で…」

葉羽は愕然とした。彼の予想は的中していた。星良は、50年前の事件の記憶と共鳴し、精神を崩壊させられたのだ。そして、犯人は間違いなく、この男――雲母朔也だ。

「朔也先生、あなたは…一体なぜ…」葉羽は朔也を問い詰めた。彼の声は怒りと悲しみで震えていた。

朔也は静かに顔を上げ、葉羽を見つめた。彼の瞳には、狂気的光芒が宿っていた。

「なぜ?復讐のためさ!50年前、私の姉を殺した黒曜の父親、そしてその関係者たちに復讐するために!」朔也は声を張り上げた。「私は長年、この時を待っていた。時間音響学を研究し、復讐のための完璧な計画を練り上げてきたんだ!」

朔也の告白に、葉羽は言葉を失った。彼の目の前には、復讐に狂った男の姿があった。

「しかし、なぜ星良さんまで…」葉羽は絞り出すように尋ねた。

「彼女は…邪魔だったんだよ。黒曜に接触し、事件のことを調べ始めていた。私の計画の邪魔になる存在だった」朔也は冷酷な表情で言った。

葉羽は怒りで体が震えた。しかし、今は怒っている場合ではない。星良を救い、朔也の狂気を止めなければならない。

「朔也先生、もうこれ以上犠牲者を出さないでください!あなた自身も、苦しんでいるはずです!」葉羽は必死に訴えた。

しかし、朔也は耳を貸さない。「もう遅い。全ては決まっている。私の復讐は、必ず完遂される」

朔也は立ち上がり、奥の研究室へと消えていった。葉羽は後を追おうとしたが、その時、研究室のドアが自動的にロックされた。

「くそっ!」葉羽はドアを叩き、叫ぶ。「開けてください!朔也先生!」

しかし、ドアはびくともしない。葉羽は焦燥感に駆られ、周囲を見渡した。研究室の壁には、複雑な配線が張り巡らされている。そして、その配線は、全て一つの装置に繋がっている。それは、時間音響学を利用した音響発生装置だった。

葉羽は理解した。この研究室自体が、巨大な音響装置になっているのだ。朔也は、この装置を使って、星良に50年前の記憶を聞かせ、精神を崩壊させたのだ。そして、今、彼は次のターゲットを狙っている。

「一体、誰を…?」葉羽は考えを巡らせる。朔也の復讐の対象は、50年前の事件の関係者。そして、まだ生きている人物。それは…

その時、葉羽は閃いた。朔也の次のターゲットは、自分自身だ。朔也は、葉羽が50年前の事件の真相に近づいていることを知っており、彼を排除しようとしているのだ。

葉羽は背筋に冷たいものを感じた。彼は音の迷宮に閉じ込められた。そして、その迷宮の出口は、朔也の狂気を止めることだけが、唯一の道だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

隣の家の幼馴染と転校生が可愛すぎるんだが

akua034
恋愛
隣に住む幼馴染・水瀬美羽。 毎朝、元気いっぱいに晴を起こしに来るのは、もう当たり前の光景だった。 そんな彼女と同じ高校に進学した――はずだったのに。 数ヶ月後、晴のクラスに転校してきたのは、まさかの“全国で人気の高校生アイドル”黒瀬紗耶。 平凡な高校生活を過ごしたいだけの晴の願いとは裏腹に、 幼馴染とアイドル、二人の存在が彼の日常をどんどんかき回していく。 笑って、悩んで、ちょっとドキドキ。 気づけば心を奪われる―― 幼馴染 vs 転校生、青春ラブコメの火蓋がいま切られる!

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

【完結】『80年を超越した恋~令和の世で再会した元特攻隊員の自衛官と元女子挺身隊の祖母を持つ女の子のシンクロニシティラブストーリー』

M‐赤井翼
現代文学
赤井です。今回は「恋愛小説」です(笑)。 舞台は令和7年と昭和20年の陸軍航空隊の特攻部隊の宿舎「赤糸旅館」です。 80年の時を経て2つの恋愛を描いていきます。 「特攻隊」という「難しい題材」を扱いますので、かなり真面目に資料集めをして制作しました。 「第20振武隊」という実在する部隊が出てきますが、基本的に事実に基づいた背景を活かした「フィクション」作品と思ってお読みください。 日本を護ってくれた「先人」に尊敬の念をもって書きましたので、ほとんどおふざけは有りません。 過去、一番真面目に書いた作品となりました。 ラストは結構ややこしいので前半からの「フラグ」を拾いながら読んでいただくと楽しんでもらえると思います。 全39チャプターですので最後までお付き合いいただけると嬉しいです。 それでは「よろひこー」! (⋈◍>◡<◍)。✧💖 追伸 まあ、堅苦しく読んで下さいとは言いませんがいつもと違って、ちょっと気持ちを引き締めて読んでもらいたいです。合掌。 (。-人-。)

処理中です...