残響鎮魂歌(レクイエム)

葉羽

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11章

対峙の刻

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祖父の声が混じったレコードの音声を手がかりに、葉羽は朔也の真の目的を理解し始めていた。朔也は単なる復讐鬼ではなかった。彼は、50年前の事件の真相を歪曲し、自身の姉を殉教者として祭り上げ、新たな宗教団体を設立しようとしていたのだ。レコードは、そのためのプロパガンダとして加工されていた。そして、黒曜と星良は、その計画の邪魔になる存在として排除された。

「朔也先生…あなたは真実を捻じ曲げている!」葉羽は研究室のドアに向かって叫んだ。「あなたの姉は、儀式の中で殺されたただの犠牲者ではない!彼女は、あなたの祖父と同じように、儀式から逃れようとしていたんだ!」

葉羽の言葉は、研究室のスピーカーを通して、朔也に届いた。しばらくの沈黙の後、ドアのロックが解除され、朔也が現れた。彼の顔は歪み、目は狂気的な光を放っていた。

「黙れ!お前は何も分かっていない!」朔也は叫んだ。「私の姉は、邪教の儀式によって殺された聖女だ!私は、彼女の無念を晴らし、真実を世界に伝えるために、この計画を実行したのだ!」

「それは真実ではない!レコードの音を聞けば分かるはずです!あなたの姉は、儀式から逃れようとしていた!彼女は犠牲者だった!」葉羽は必死に訴えた。

朔也は嘲笑した。「騙されるな、葉羽。お前は、私の計画を邪魔するために送り込まれたスパイだろう?黒曜と同じように、お前も排除してやる!」

朔也は、音響発生装置のスイッチを入れた。研究室全体に、不快な音が響き渡る。50年前の事件の記憶が、葉羽の脳裏に押し寄せてくる。頭痛、吐き気、幻覚。時間音響学の攻撃は、容赦なく葉羽の精神を蝕んでいく。

しかし、葉羽は抵抗した。彼は祖父の声を思い出し、真実を掴もうと必死にもがく。50年前の記憶の中で、彼は白いワンピースの女性が逃げようとする姿を目撃する。彼女は、必死に助けを求めていた。そして、その声は、葉羽の心に届いた。

「私は…逃げたい…」

それは、50年前の被害者女性の心の声だった。葉羽はその声に導かれるように、記憶の迷宮を彷徨う。そして、ついに、事件の真相を掴んだ。

50年前の事件は、新興宗教の儀式ではなく、単なる金銭トラブルだった。黒曜の父親と葉羽の祖父は、ある詐欺事件に関与しており、その被害者である女性を口封じのために殺害したのだ。そして、朔也の姉は、その場に居合わせただけの、全くの無関係の人物だった。

「朔也先生、あなたの姉は、事件に巻き込まれただけの、ただの被害者だったんです!彼女は、あなたの復讐の対象ではない!」葉羽は叫んだ。

朔也は、葉羽の言葉に動揺した。彼の狂気的な表情が、わずかに崩れる。

「…そんなはずはない…私の姉は…聖女…だったはず…」

葉羽は、朔也に近づき、静かに言った。「朔也先生、もう終わりにしましょう。あなたの復讐は、間違っている。真実を受け止め、過去から解放されるべきです」

朔也は、葉羽の言葉に耳を傾け、静かに涙を流した。彼の復讐劇は、終わりを告げた。しかし、時間音響学がもたらした傷跡は、深く、そして長く、彼らの心に残り続けるだろう。
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