ドラゴンディセンダント

ドクターわたる

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戦闘は否応なしに開始される―――鏡の国の葵―――⑮

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―――少し由良たちから数百メートルほど下の方・・・下層でジェニファーの受難はまだ続いている・・・。

全身・・・傷だらけだ・・・金髪は血と粉塵でよごれている。

先ほどの左肩の狙撃痕はすでに消えかけているようだ。ん?戦闘中にジェニファーは何か喋っている・・・。

「はぁはぁ・・・10歳の時・・・だったわけ。グランマに呼ばれて、あなたはその国へ行けば魔族に囲まれて死ぬ・・・なんて言われて。パパが怒ってた・・・」

ジュバッ!!!

強力な拡散型のマジックボールクラスターだ。
すばらしい反応速度で避けるが攻撃範囲が広すぎる・・・。
全ては・・・ジェニファーの能力では避けきれない。少し傷が増えている。

「こんな国、最初は嫌いだった・・・パパのお仕事で仕方なかったわけ・・・だけど」

ジュバッ!!!

もう一発だ・・・複合魔法の様で・・・相当な攻撃力だ。間一髪で避けている。

「この国はみんなが目が合うと・・・目を逸らす・・・弱っちい奴等ばっかだと思ってわけ・・・でもそうじゃなかった・・・」

「レマと会って・・・はじめてジェラシーを覚えたわけ・・・マーベラスだった彼女は・・・自分がコモンプレイスパーソンだったって思い知った・・・」
喋っては魔族の魔法攻撃を避ける・・・を繰り返している。

「桔梗と会って・・・フィアーを感じた・・・魔装ができないのは致命的・・・でも魂を揺さぶるほどの集中で・・・この手刀が届けば・・・」

「それから葵と会って・・・うぁ!!」
感知しても早すぎる斬撃が飛んできて避けきれなかったのだ。さらに傷が増える・・。

深くはないが傷だらけだ。

「ハァハァ・・・」

先ほど一緒に落ちた魔族は空中で一体仕留めて残りの手負いは谷底でジェニファーは倒した。
そこでさっき・・・奴に出会ってしまったのだ。

「ブルーディーモン!!!」

さすがのジェニファーも驚いたようだ・・・コイツに会うのは濃密な死を意味するからだ。

身長3.4mほど・・・強力な魔族・・・体はまるで古代のロボットのようなメタリックで不格好だが両手は3つずつ爪がある・・・一本80㎝程・・・頭は透明で横に長い目が一つある、身体は黄色と群青色の色彩だ。
ブルーデーモンとは昔の呼び名でいまはモデレートグレードにカテゴライズされて、要は中級魔族である。

なぜジェニファーにブルーデーモンと一目で分かったのか・・・授業を真面目に聞いていれば・・・この学園の生徒なら誰でも知っているわけで・・・知らないって?・・・いやだから真面目に聞いてればって言っているじゃないか・・・。

上級魔族はプラチナデーモン、中級がブルーデーモン、下級がブロンズデーモンと昔は呼ばれたのだ。
現在はハイグレード、モデレートグレード、ロウグレードとそれぞれ呼ばれる。

4000年間の戦闘の歴史でプラチナデーモンを人が・・・つまり召喚士が倒した事例は4件しかないのだ。
そしてブルーデーモンの中にもレベルに大きな差があるがジェニファーが相手をするのはかなり強力な個体だ。
QMで葵と麗良が倒した中級下位魔族3体よりはるかに強力、戦闘能力は中級魔族上位に位置する。

中級魔族は体内に魔晶石を持ち・・・この場所のように魔界に準じた場所では魔晶石の効果で不死身である・・・どんなバラバラにしても復活してしまう・・・体内の魔晶石を砕かない限り・・・。
葵たちが戦った中級魔族は魔界の外にいる・・・つまり少し弱体化しており・・・基本的に回復はできない。

魔界では魔晶石を体内に宿した魔族は事実上撃破不可能に近くなるのだ。
ここで重要なのが葵たちが最初に体育でやったサンドゴーレムとの実戦だ・・・体内のコアを見付ける必要があるわけだ。

計算すると・・・ジェニファーが戦っている中級魔族1体を安定して倒すには一般に数名のクラスAサマナーが3チームはいる計算となる。

「グランマの言ってた通りになりそうなわけ・・・なぁんてね・・・」

この辺りは少し岩の遮蔽物が多い・・・。
ここへ誘い込むつもりだったのか。

さっきジェニファーは魂を揺さぶる集中力と言っていた・・・その意味が段々分かってくる。

「1800戦よ・・・あたしが2年間でやったランク戦・・・才能がないなら・・・数で・・・数でダメなら・・・睡眠時間を削ればいいわけ・・・グランマの予言は外れる・・・」

素足で驚くべき俊敏性で避けては攻撃する。攻撃方法は右手の手刀のみ・・・。

手刀!手刀!手刀!・・・精度がどんどん上がっている・・・突く度に・・・。

敵の攻撃・・・爪を広げて回転させて突進、岩が紙のようにバラバラになる・・・目から赤い破壊光線、前方が消し飛ぶ・・・そして各種クラスター魔法・・・すべて攻撃範囲が広いが・・・ジェニファーはギリギリ掠るくらいの所で避けはじめている。

精度がさらに上がっていく・・・手刀は魔族の金属質の体幹の中央やや左上を正確につく。

何度も何度も・・・気が遠くなるほど繰り返す・・・。

避けては突く・・・。

ただそれだけ・・・。


―――ただただ集中して戦う・・・ジェニファーは無表情になり・・・機械のように一点を突く・・・。
クラスター魔法も魔族と密着し敵の巨体を上手に使って避けている。

一旦調子に乗ると木属性は自動回復があるため・・・ほとんどの怪我は治ってしまう・・・魔力以外はだ。

どう避けてどう突くかだけ・・・。

ジェニファーはそれのみに没頭した・・・。



――――――約1時間40分後・・・。

戦闘はまだ続いている。

ひたむきないい目で戦う・・・。
魔力を爪先に集中して右手の手刀を繰り出す・・・まるで命を絞るように・・・うん、いいファイターだジェニファー。集中力を切らさず・・・ノーミスでこの時間戦い続けるのはすさまじい。

ガチッ!!

おお!やった!
とうとう・・・とうとう中級魔族の前胸部にヒビだ・・・。

そして中級魔族は見たことない攻撃に入る・・・全身を振るわせて・・・。
詳しくわからないが範囲攻撃だ・・・自爆技か!?

“破魔覚醒五指弾”

今までの手刀と比べ物にならない貫通力で右腕を根元まで魔族の身体にねじ込む・・・。そして腕を引きずり出して・・・ジェニファーは振り向いて少し魔族から遠ざかる・・・外観は金属の光沢の様だったが風船がしぼむように皺皺になり音を立てて形を変えてしぼんでいく。

ブチャブチャブチャ!!

ブレザーはとうにない。バトルスーツもボロボロだが・・・右手には魔晶石が握られている・・・魔族の心臓でかつ脳でもあると言われている・・・引きずり出したのだ・・・。


そう・・・よく勝ったな中級魔族に一人で・・・ジェニファー・・・実力差を考えれば大したものだ。

そのままジェニファーは前のめりにだれも居ない岩だらけの地面に気持ちよさそうに倒れこんだ。
今は心地いいだろうが・・・めちゃくちゃ疲れていることに少しずつ気付いてきているだろう。

しかし・・・だ。魔族は3体で行動する・・・基本事項だ。
同時に生まれた残りのシスター2体が察知してくるだろうし今倒した魔族が作ったドーター達も来るだろう・・・。

魔晶石は命そのもの・・・召喚士にとっては魔装鎧のコア―――メインクリスタルとなるし。
魔装できないジェニファーのバトルスーツにもメインクリスタルとサブクリスタルがいくつか内臓されて魔術の発動を司っている。
魔族にとってはさらに重要で、シスターの魔族に奪われれば今やっと倒した魔族は復活し、ロウグレードのドーターに魔晶石を奪われて吸収されれば新たな中級魔族が誕生してしまう。
魔晶石は中級魔族ならまず体内で精製されている、下級魔族でも年を経ると魔晶石持ちが現れる、こういった下級魔族はオーソリティと呼ばれ知能、魔力が跳ね上がり自我も芽生える。


・・・あのジェニファーさん・・・魔晶石を光印魔術加工するか・・・隠すか・・・最悪捨てるかしないと・・・聞いてますか?

聞こえるわけがない上に疲労困憊でジェニちゃんは気絶?・・・眠っている。

敵地で寝ると・・・人生終わるぞ。

まあそれは仕方ない・・・。


あっという間に中級魔族が、ああ。
やってきた・・・眠っている場合では。
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