冷遇令嬢なのに、優遇人生を歩めるのですか?

桜井ことり

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シフォンが隣に立ってくれたことで、あからさまに嘲笑してくる者はいなくなった。
しかし、代わりに突き刺さるのは、嫉妬と好奇に満ちた視線の雨だ。ミロルは居心地の悪さに、俯いてしまう。

「どうした。顔色が悪い」

隣から、シフォンの低い声が聞こえる。

「い、いえ……わたくし、このような場所には慣れていないものですから」

「そうだろうな。お前は、あちらの方が似合っている」

シフォンが視線で示したのは、窓の外に広がる王城の庭園だった。月明かりに照らされた緑が、静かに揺れている。

(森……)

彼の言葉に、二人が出会ったあの場所が思い浮かび、ミロルの頬が少しだけ緩んだ。

その時、甲高い声が二人の間に割り込んできた。

「シフォン様、こちらにいらしたのですね!ずっと探しておりましたのよ」

振り返ると、燃えるような赤いドレスに身を包んだ、派手やかな顔立ちの令嬢が立っていた。侯爵家の令嬢、ベーラ・レンフィールドだ。

彼女はシフォンの腕に馴れ馴れしく絡みつくと、ミロルを頭のてっぺんから爪先まで見下ろし、蔑むように鼻を鳴らした。

「あら、こちらはどちら様?シフォン様、このような壁際で、地味な方とお話なさるなんて、あなたらしくもございませんわ」

あからさまな侮辱に、ミロルの顔から血の気が引いていく。

「ベーラ、放せ」

シフォンは腕を振り払い、不快感を隠そうともせずに言った。

「まあ、つれない方!わたくし、あなたと最初の一曲を踊りたくて……」

「断る」

「そんなことおっしゃらずに!」

ベーラが尚も食い下がろうとした時、別の令嬢たちが彼女に加勢した。

「そうですよ、シフォン様!こんな見たこともないような男爵令嬢よりも、わたくしたちと踊ってくださいまし!」
「その水色のドレス、古着屋ででも買われたのかしら?お可哀想に」

クスクスと響く笑い声。
ミロルは唇を噛み締め、俯いたまま動けなかった。悔しくて、情けなくて、涙が溢れそうになる。

その時だった。

「……黙れ」

地を這うような低い声が、響いた。
シフォンの声だった。その声には、今まで感じたことのないほどの、冷たい怒りが込められていた。

令嬢たちの笑い声が、ぴたりと止む。

シフォンは氷の視線で令嬢たちを一瞥すると、ミロルの方に向き直った。
そして、全ての者が見ている前で、優雅に片膝をつき、ミロルに手を差し伸べた。

「ミロル・グレイフィールド嬢」

「……はい」

「俺と、一曲踊っていただけるだろうか」

広間が、水を打ったように静まり返る。
誰もが信じられないという顔で、二人を見ていた。特に、ベーラの顔は怒りで真っ赤に染まっている。

ミロルは、目の前で跪くシフォンと、差し出された大きな手を見つめて、呆然としていた。

(わたくしを、誘ってくださっているの……?)

これは夢なのだろうか。

「……ミロル」

戸惑う彼女を、シフォンが真剣な瞳で見つめ、もう一度名を呼ぶ。
その瞳に吸い込まれるように、ミロルは、おそるおそる自分の手を彼の手に重ねた。

「……はい。喜んで」

シフォンは満足げに微笑むと、ミロルの手を優しく引き、エスコートして広間の中央へと歩き出した。
向けられる視線はもはや、侮蔑ではなく、驚愕と羨望の色を帯びていた。
ミロルは、シフォンに導かれるまま、夢見心地でワルツの調べに身を任せるのだった。
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