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ミラグロ王国の再建は、ケインズの指揮のもと、驚くべき速さで進められた。
エルツ王国からの経済支援を取り付け、破綻寸前だった国家財政を立て直す。
グレイフォードは、崩壊した国軍を再編し、悪化していた治安を回復させた。
フローラをはじめとする元貴族たちも、それぞれの専門知識を活かし、行政の機能を正常化させていった。
そして、アテルイは、その全ての中心にいた。
彼女は、具体的な政策に口を出すことはない。
ただ、そこにいて、微笑んでいるだけ。
しかし、彼女の存在そのものが、混乱していたミラグロの国民と貴族たちの心を一つにし、希望の象徴となっていたのだ。
人々は、彼女を『聖女』と呼び、心から敬愛した。
国の再建に、ある程度の目処がついた、ある日のこと。
アテルイは、誰にも告げず、一人で、ある場所へと向かった。
王宮の北の塔。
かつての王太子、アルフォンスが、幽閉されている場所である。
重い扉を開けると、そこは、薄暗く、埃っぽい、殺風景な部屋だった。
窓から差し込む光の中に、一人の男が、ぼんやりと座っていた。
豪華な装飾の服も、王族としての威厳も、全てを失った、ただの男。
それが、アルフォンスの現在の姿だった。
足音に気づいて顔を上げたアルフォンスは、そこに立つ人物がアテルイであると気づくと、驚愕に目を見開いた。
「……アテルイ……?」
彼は、椅子から転げ落ちるようにして、アテルイの足元に這い寄った。
「アテルイ!会いに来てくれたのか!ああ、私は、私は、ずっと君に会いたかった!」
彼は、アテルイのドレスの裾を掴み、子供のように泣きじゃくる。
「私が、馬鹿だった!私が、全て、間違っていた!どうか、許してくれ!そして、もう一度、私にチャンスをくれないか!もう一度、やり直そう、アテルイ!」
彼は、必死に許しを乞い、復縁を懇願する。
その姿は、あまりにも惨めで、哀れだった。
アテルイは、そんな彼を、静かに、ただ、静かに見下ろしていた。
その瞳には、かつて向けた軽蔑も、怒りも、そして憐れみさえも、浮かんでいなかった。
ただ、そこにある事実を、そのまま受け入れているかのような、凪いだ瞳。
しばらくの沈黙の後、彼女は、ゆっくりと口を開いた。
「殿下。お顔をお上げくださいな」
その声は、どこまでも穏やかだった。
「わたくし、殿下を、許すとか、許さないとか、そういうふうには、考えておりませんの」
「……え?」
「起きてしまったことは、もう、変えることはできませんわ。わたくしたちが、婚約者であったという事実も、そして、殿下が、わたくしとの婚約を破棄なさったという事実も」
彼女は、そっとアルフォンスの手を、自分のドレスから離させた。
「わたくしは、殿下を、恨んではおりませんのよ。むしろ、感謝しているくらいですわ」
「感謝……?」
「はい。もし、あの夜会のことがなければ、わたくしは、今も、あの息の詰まるような王宮で、感情を殺して生きていたことでしょう。新しいお友達と出会うことも、自分のお店を持つ喜びを知ることも、ありませんでした」
彼女は、ふわりと、微笑んだ。
それは、全てを乗り越えた者だけが浮かべられる、強く、そして優しい微笑みだった。
「あなたと婚失していた日々も、今となっては、悪いことばかりではなかったように思いますわ。たくさんのことを、学ばせていただきましたもの」
その言葉は、アルフォンスにとって、どんな罵倒よりも、深く心を抉った。
彼女は、もう、自分とは全く違う、遥か高みの世界へ行ってしまったのだ。
自分は、彼女の人生における、一つの「学び」でしかなかったのだ、と。
「……さようなら、殿下」
アテルイは、最後にもう一度、アルフォンスに微笑みかけると、静かに身を翻した。
「どうか、これからは、ご自分の犯した罪と、きちんと向き合って、お過ごしくださいませ」
それが、彼女が、かつての婚約者にかけた、最後の言葉だった。
扉が閉められ、部屋には、再び、アルフォンス一人が残された。
彼は、ただ、嗚咽を漏らし続けることしか、できなかった。
アテルイは、過去と、完全に決別した。
そして、彼女の心は、すでに、新しい未来へと、向かっていた。
陽光が降り注ぐ、エルツ王国の、愛しい人たちが待つ、あの場所へ。
エルツ王国からの経済支援を取り付け、破綻寸前だった国家財政を立て直す。
グレイフォードは、崩壊した国軍を再編し、悪化していた治安を回復させた。
フローラをはじめとする元貴族たちも、それぞれの専門知識を活かし、行政の機能を正常化させていった。
そして、アテルイは、その全ての中心にいた。
彼女は、具体的な政策に口を出すことはない。
ただ、そこにいて、微笑んでいるだけ。
しかし、彼女の存在そのものが、混乱していたミラグロの国民と貴族たちの心を一つにし、希望の象徴となっていたのだ。
人々は、彼女を『聖女』と呼び、心から敬愛した。
国の再建に、ある程度の目処がついた、ある日のこと。
アテルイは、誰にも告げず、一人で、ある場所へと向かった。
王宮の北の塔。
かつての王太子、アルフォンスが、幽閉されている場所である。
重い扉を開けると、そこは、薄暗く、埃っぽい、殺風景な部屋だった。
窓から差し込む光の中に、一人の男が、ぼんやりと座っていた。
豪華な装飾の服も、王族としての威厳も、全てを失った、ただの男。
それが、アルフォンスの現在の姿だった。
足音に気づいて顔を上げたアルフォンスは、そこに立つ人物がアテルイであると気づくと、驚愕に目を見開いた。
「……アテルイ……?」
彼は、椅子から転げ落ちるようにして、アテルイの足元に這い寄った。
「アテルイ!会いに来てくれたのか!ああ、私は、私は、ずっと君に会いたかった!」
彼は、アテルイのドレスの裾を掴み、子供のように泣きじゃくる。
「私が、馬鹿だった!私が、全て、間違っていた!どうか、許してくれ!そして、もう一度、私にチャンスをくれないか!もう一度、やり直そう、アテルイ!」
彼は、必死に許しを乞い、復縁を懇願する。
その姿は、あまりにも惨めで、哀れだった。
アテルイは、そんな彼を、静かに、ただ、静かに見下ろしていた。
その瞳には、かつて向けた軽蔑も、怒りも、そして憐れみさえも、浮かんでいなかった。
ただ、そこにある事実を、そのまま受け入れているかのような、凪いだ瞳。
しばらくの沈黙の後、彼女は、ゆっくりと口を開いた。
「殿下。お顔をお上げくださいな」
その声は、どこまでも穏やかだった。
「わたくし、殿下を、許すとか、許さないとか、そういうふうには、考えておりませんの」
「……え?」
「起きてしまったことは、もう、変えることはできませんわ。わたくしたちが、婚約者であったという事実も、そして、殿下が、わたくしとの婚約を破棄なさったという事実も」
彼女は、そっとアルフォンスの手を、自分のドレスから離させた。
「わたくしは、殿下を、恨んではおりませんのよ。むしろ、感謝しているくらいですわ」
「感謝……?」
「はい。もし、あの夜会のことがなければ、わたくしは、今も、あの息の詰まるような王宮で、感情を殺して生きていたことでしょう。新しいお友達と出会うことも、自分のお店を持つ喜びを知ることも、ありませんでした」
彼女は、ふわりと、微笑んだ。
それは、全てを乗り越えた者だけが浮かべられる、強く、そして優しい微笑みだった。
「あなたと婚失していた日々も、今となっては、悪いことばかりではなかったように思いますわ。たくさんのことを、学ばせていただきましたもの」
その言葉は、アルフォンスにとって、どんな罵倒よりも、深く心を抉った。
彼女は、もう、自分とは全く違う、遥か高みの世界へ行ってしまったのだ。
自分は、彼女の人生における、一つの「学び」でしかなかったのだ、と。
「……さようなら、殿下」
アテルイは、最後にもう一度、アルフォンスに微笑みかけると、静かに身を翻した。
「どうか、これからは、ご自分の犯した罪と、きちんと向き合って、お過ごしくださいませ」
それが、彼女が、かつての婚約者にかけた、最後の言葉だった。
扉が閉められ、部屋には、再び、アルフォンス一人が残された。
彼は、ただ、嗚咽を漏らし続けることしか、できなかった。
アテルイは、過去と、完全に決別した。
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陽光が降り注ぐ、エルツ王国の、愛しい人たちが待つ、あの場所へ。
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