3 / 50
3
「クリストファー殿下が倒れた……?」
リディアが邸に戻ると、父アレクサンダーは落ち着いた表情で迎え入れてくれた。だが、その瞳にはいつになく険しさが混じっている。
「ええ……王太子殿下は運ばれたきり、まだ人払いがされていて詳しい容態はわからないそうです」
「そうか。まったく、どうにも腑に落ちんな」
アレクサンダーは腕組みをしながら厳しい顔をしている。まるで何かを確信しているかのようだが、リディアにはその考えを汲み取る余裕がない。
「お父様、どういうことなの?」
「殿下の性格を知っていれば、あんな一方的な婚約破棄は考えにくい。しかも、式典当日に急に倒れられた。偶然にしては出来すぎている」
「お父様もそう思っていらしたのね。私も殿下がそんな身勝手をするとは思えなくて……」
心配そうに見つめるリディアの肩を、父は静かに叩く。今は情報が少なすぎる。誰かが背後で糸を引いているのか、それともクリストファー本人の意図なのか――どちらにしても、不透明だ。
「しばらくは、殿下の回復を待つしかあるまい。下手に動いて真相を見誤るのも良くない」
「……わかりました」
リディアは父の言葉に同意しながらも、やはり心のどこかがざわついて仕方ない。一刻も早くクリストファーの本意を確かめたい気持ちが強くなるばかりだ。
――その夜。王妃マリアから、リディアに内密の手紙が届いた。
「『安心して待つように。クリストファーが回復したら、必ずあなたと話をさせます』……王妃様も、何か疑っているのかしら」
王妃は幼い頃からリディアを可愛がってくれた人物だ。親がいない時も積極的に教育を施し、宮廷での振る舞いを教えてくれた。そんな彼女がわざわざリディア宛に手紙を寄越すということは、何か重要な意図があるはずだ。
「王妃様……」
淡い月光の差し込む部屋で、リディアは王宮を想う。その暗闇の向こうにいるクリストファーは、今どんな状態なのだろうか。熱が下がり、起き上がることができるのだろうか――そう考えると眠気など吹き飛んでしまう。
「一体、どうして……」
決して小さくない不安を抱えたまま、リディアは窓辺で夜が更けるのをじっと待ち続けるのだった。
リディアが邸に戻ると、父アレクサンダーは落ち着いた表情で迎え入れてくれた。だが、その瞳にはいつになく険しさが混じっている。
「ええ……王太子殿下は運ばれたきり、まだ人払いがされていて詳しい容態はわからないそうです」
「そうか。まったく、どうにも腑に落ちんな」
アレクサンダーは腕組みをしながら厳しい顔をしている。まるで何かを確信しているかのようだが、リディアにはその考えを汲み取る余裕がない。
「お父様、どういうことなの?」
「殿下の性格を知っていれば、あんな一方的な婚約破棄は考えにくい。しかも、式典当日に急に倒れられた。偶然にしては出来すぎている」
「お父様もそう思っていらしたのね。私も殿下がそんな身勝手をするとは思えなくて……」
心配そうに見つめるリディアの肩を、父は静かに叩く。今は情報が少なすぎる。誰かが背後で糸を引いているのか、それともクリストファー本人の意図なのか――どちらにしても、不透明だ。
「しばらくは、殿下の回復を待つしかあるまい。下手に動いて真相を見誤るのも良くない」
「……わかりました」
リディアは父の言葉に同意しながらも、やはり心のどこかがざわついて仕方ない。一刻も早くクリストファーの本意を確かめたい気持ちが強くなるばかりだ。
――その夜。王妃マリアから、リディアに内密の手紙が届いた。
「『安心して待つように。クリストファーが回復したら、必ずあなたと話をさせます』……王妃様も、何か疑っているのかしら」
王妃は幼い頃からリディアを可愛がってくれた人物だ。親がいない時も積極的に教育を施し、宮廷での振る舞いを教えてくれた。そんな彼女がわざわざリディア宛に手紙を寄越すということは、何か重要な意図があるはずだ。
「王妃様……」
淡い月光の差し込む部屋で、リディアは王宮を想う。その暗闇の向こうにいるクリストファーは、今どんな状態なのだろうか。熱が下がり、起き上がることができるのだろうか――そう考えると眠気など吹き飛んでしまう。
「一体、どうして……」
決して小さくない不安を抱えたまま、リディアは窓辺で夜が更けるのをじっと待ち続けるのだった。
あなたにおすすめの小説
[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・
青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。
婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。
「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」
妹の言葉を肯定する家族達。
そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。
※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。
ある王国の王室の物語
朝山みどり
恋愛
平和が続くある王国の一室で婚約者破棄を宣言された少女がいた。カップを持ったまま下を向いて無言の彼女を国王夫妻、侯爵夫妻、王太子、異母妹がじっと見つめた。
顔をあげた彼女はカップを皿に置くと、レモンパイに手を伸ばすと皿に取った。
それから
「承知しました」とだけ言った。
ゆっくりレモンパイを食べるとお茶のおかわりを注ぐように侍女に合図をした。
それからバウンドケーキに手を伸ばした。
カクヨムで公開したものに手を入れたものです。
私の手からこぼれ落ちるもの
アズやっこ
恋愛
5歳の時、お父様が亡くなった。
優しくて私やお母様を愛してくれたお父様。私達は仲の良い家族だった。
でもそれは偽りだった。
お父様の書斎にあった手記を見た時、お父様の優しさも愛も、それはただの罪滅ぼしだった。
お父様が亡くなり侯爵家は叔父様に奪われた。侯爵家を追い出されたお母様は心を病んだ。
心を病んだお母様を助けたのは私ではなかった。
私の手からこぼれていくもの、そして最後は私もこぼれていく。
こぼれた私を救ってくれる人はいるのかしら…
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 作者独自の設定です。
❈ ざまぁはありません。
『婚約破棄だ』と王子が告げた瞬間、王城の花が枯れ、泉が涸れ、空が曇った——令嬢に宿る精霊の加護を、誰も知らなかった
歩人
ファンタジー
公爵令嬢エレオノーラは、生まれつき大精霊の加護を宿していた。
しかし本人も、それが自分の力だとは知らなかった。
王城の庭園が四季を問わず花で溢れていたのも、泉が枯れなかったのも、
王都に災害が起きなかったのも——全てエレオノーラの存在がもたらす精霊の恩恵だった。
王子に「地味で退屈な女」と婚約破棄され、王城を去った瞬間——
花が萎れ、泉が涸れ、空が曇り始めた。
追放されたエレオノーラが辺境の荒野に足を踏み入れると、枯れた大地に花が咲き乱れた。
そのとき初めて、彼女は自分の中にある力に気づく。
(完結)私はもう他人です!
青空一夏
恋愛
マリアの両親は平民で、ピナベーカリーというパン屋を経営している。一歳違いの妹ソフィアはピンクブロンドにピンクの大きな瞳の愛らしい女の子で、両親に溺愛されていた。マリアも妹を可愛がっており、幼いころの姉妹仲はとても良かった。
マリアが学園に通う年齢になった頃、小麦粉の値上げでピナベーカリーの経営がうまくいかず、マリアは学園に行くことができない。同じ街のブロック服飾工房に住み込みで働くことになった。朝早く実家のパン屋を手伝い、服飾工房に戻って夜まで針仕事。 お給料の半分は家に入れるのだが、マリアはそれを疑問にも思わなかった。
その1年後、ソフィアが学園に通う年齢になると、ピナベーカリーが持ち直し、かなりパンが売れるようになった。そのためソフィアは裕福な子女が通う名門ルクレール女学園の寮に行くことになった。しかし、ルクレール女学園の学費は高く、マリアは給料を全部入れてくれるように頼まれた。その時もマリアは妹の幸せを自分のものとして捉え、両親の言うとおりにそれを受け入れる。
マリアは家族思いで誠実。働き者なところをブロック服飾工房のオーナーであるレオナードに見初められる。そして、レオナードと結婚を誓い合い、両親と妹と引き合わせたところ・・・・・・
これは、姉妹格差で我慢させられてきた姉が、前世の記憶を取り戻し、もう利用されないと、自分の人生を歩もうとする物語です。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
処刑台の皇妃、回帰して復讐を誓う ~冷酷公爵と偽りの婚約者~ おまえたちは許さない!
秦江湖
ファンタジー
皇妃エリアーナは、夫である皇帝アランと、たった一人の親友イザベラの策略により、無実の罪で処刑される。
民衆に罵られ、アランの冷酷な目とイザベラの嘲笑を「始まりの景色」として目に焼き付けながら絶命した彼女は、しかし、処刑の記憶を持ったまま三年前の過去に回帰する。
「おまえたちは許さない」
二度目の人生。
エリアーナの目的はただ一つ、自分を陥れた二人への完璧な復讐。
彼女はまず、アラン(皇太子)からの婚約内示を拒絶。そして、アラン最大の政敵である「北の冷血公爵」ルシアン・ヴァレリウスに接触する。
1周目で得た「未来の知識」を対価に、エリアーナはルシアンに持ちかける。
「貴方様には帝国の覇権を。わたくしには復讐の舞台を。そのための『契約婚約』を――」
憎悪を糧に生きる皇妃と、氷の瞳を持つ公爵。
二人の偽りの婚約の行く末は……
虐げられた人生に疲れたので本物の悪女に私はなります
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
伯爵家である私の家には両親を亡くして一緒に暮らす同い年の従妹のカサンドラがいる。当主である父はカサンドラばかりを溺愛し、何故か実の娘である私を虐げる。その為に母も、使用人も、屋敷に出入りする人達までもが皆私を馬鹿にし、時には罠を這って陥れ、その度に私は叱責される。どんなに自分の仕業では無いと訴えても、謝罪しても許されないなら、いっそ本当の悪女になることにした。その矢先に私の婚約者候補を名乗る人物が現れて、話は思わぬ方向へ・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています