病欠で婚約破棄が中止になったら、あれよあれよと溺愛されました

桜井ことり

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「リディア、顔色が良くないわ。少しは眠れたの?」

 

翌日、心配したエミリアが邸宅を訪ねてきた。リディアは夜をまともに眠れず、青ざめたままだ。

 

「ごめん、あまり寝られなくて……」

 

「それでも食事はとらなきゃ。これ、うちの厨房で作ったスープなの。飲んで」

 

エミリアは小さな籠から容器を取り出し、リディアの手に渡す。その温かさと香りに少しだけ心が落ち着く。

 

「ありがとう。いつも助けてもらってばかりね」

 

「困ったときはお互い様よ。……それで、殿下はまだ倒れたまま?」

 

「らしいの。王妃様の手紙に『回復を待って』とあったから、よほど状態が悪いのかも」

 

エミリアは少し考え込んでから、静かに口を開いた。

 

「リディア、あなた自身の気持ちはどうなの? もし殿下が目を覚まして婚約破棄を続行するって言ったら……受け入れるの?」

 

「……わからない。でも、理由をちゃんと聞いて、それでも納得できなかったら……私の方からもきっぱり断るかも」

 

正直、リディアにとって王太子殿下は大切な存在だ。だが一方的に婚約破棄を突きつけられ、理由すら明かされずに傷つくのは嫌だという思いが募る。自分が何も悪くないのに“捨てられる”形になるのは、屈辱でもあった。

 

「そう、リディアにも意地があるのね。だったら、その覚悟をしっかり持った方がいいわ。曖昧な気持ちでいたら周りに流されるだけよ」

 

「うん……ありがとう、エミリア」

 

友人の優しさと厳しさの両方に、リディアは少しだけ力を取り戻す。今はクリストファーの回復を待ち、その後に直接話し合うのが筋だろう。そして自分の将来は自分で決めなければ。

 

「殿下が元気になったら、絶対に話すわ。私がどんな思いでいたか、ちゃんと伝えて……それでもどうしても破棄したいなら、望むところよ」

 

まだ少し震える声だったが、それでもリディアの瞳には決意が宿り始めていた。
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