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翌朝、私はリュカ様の「趣味の結晶」とも言えるドレスに身を包まれていました。
深い夜空のような紺色のシルクに、これでもかと散りばめられた大粒の真珠。
「……リュカ様。このドレス、重すぎて歩くたびに床にめり込みそうですの。あと、この首元の宝石、絞首刑の準備か何かかしら?」
「お前が他の男に首筋を見せないための対策だ。文句があるなら、俺が一日中手で隠してやってもいいが?」
「余計に怪しまれますわよ。……はぁ、これから国王陛下にお会いするというのに、この格好では『私は略奪した財宝で着飾った悪女です』と宣伝しているようなものですわ」
鏡の中の私は、どこからどう見ても「隣国の公爵をたぶらかした稀代の不倫令嬢」そのものでした。
馬車に乗り込む際、ハンスさんがそっと耳打ちしてくれました。
「カリア様、ご安心を。我が国の国王陛下は、閣下に負けず劣らずの『変わり者』ですので。……あ、いえ、個性的と言い換えておきましょう」
「ハンスさん、今さら取り繕っても遅いですわよ」
王宮に到着すると、そこには衛兵がずらりと並び、物々しい雰囲気が漂っていました。
「リュカ・ヴァレンシュタイン、並びにカリア・ルーン・エメルト伯爵令嬢、入室!」
重厚な扉が開くと、そこには玉座に深く腰掛けた初老の男性がいました。
彼がこの国の王、ヴィルヘルム陛下。鋭い眼光で私を射抜くと、低く重厚な声で口を開きました。
「……貴様が、エメルトの不倫令嬢か。我が国最強の公爵を骨抜きにし、隣国の経済を一夜にして破綻させたという」
「は、はい。……不甲斐ない夫を捨て、こちらの公爵様に拾っていただいた罪深き女でございます」
私は精一杯の「悪女スマイル」を浮かべて跪きました。
ところが、陛下はしばらく私を凝視した後、いきなり玉座を叩いて爆笑し始めたのです。
「はっはっは! 素晴らしい! あの無能な隣国の王子から、実務の天才である貴様を奪ってくるとは! リュカ、よくやった! 勲章ものだぞ!」
「……えっ? 勲章?」
私が呆然としていると、陛下は玉座から降りてきて、私の手を取ってぶんぶんと振りました。
「カリア殿! 貴様が隣国でやっていた帳簿の管理術、噂には聞いていたぞ。貴様が消えたせいで、あちらの国境付近の物流が止まったそうではないか。愉快、実に愉快だ!」
「あの……私、不倫をして追放されたはずなのですけれど……」
「そんなもの、リュカが流したデマだろう? 貴様を合法的に拉致するためのな」
陛下の言葉に、私は隣で澄ましているリュカ様を仰ぎ見ました。
「リュカ様……。まさか、あの不倫現場の捏造、あなたも一枚噛んでいましたの?」
「俺はただ、エドワードが用意した睡眠薬を、より質の良いものに変えてやっただけだ。お前が苦しまずに眠れるようにな」
「……この、確信犯! 私の純情(?)を返しなさい!」
私がリュカ様の胸板をポカポカと叩いていると、陛下の後ろから王妃様まで現れました。
「あらあら、可愛い子。不倫だなんてそんなトゲのある言葉、この国では『真実の愛の引っ越し』と呼ぶことにしましょう」
「王妃様まで何を仰っているのですか!?」
「さあ、カリア殿。今日は貴様の『亡命成功』を祝して、大晩餐会だ! ついでに、リュカとの婚約も発表してしまおう!」
「えっ、今ここで!? 心の準備も、というか私の許可も……!」
「許可? 俺が許可した。文句があるなら、ベッドの上で聞こう」
リュカ様は私の腰を強引に引き寄せ、陛下の前で堂々と宣言しました。
「陛下、この女は我が公爵家の、そしてこの国の至宝となります。……手を出そうとする奴は、たとえ隣国の王族だろうと、俺が物理的に消去します」
どうやら私は、「悪女」として裁かれるどころか、国を挙げて「最強の略奪品」として歓迎されてしまったようです。
目の前で繰り広げられる豪華な宴の準備を見ながら、私は遠い空を見上げました。
……エドワード様。あなたが必死で守ろうとしたその権力、今この瞬間、私の「引っ越し」によって崩壊し始めているようですわよ。
深い夜空のような紺色のシルクに、これでもかと散りばめられた大粒の真珠。
「……リュカ様。このドレス、重すぎて歩くたびに床にめり込みそうですの。あと、この首元の宝石、絞首刑の準備か何かかしら?」
「お前が他の男に首筋を見せないための対策だ。文句があるなら、俺が一日中手で隠してやってもいいが?」
「余計に怪しまれますわよ。……はぁ、これから国王陛下にお会いするというのに、この格好では『私は略奪した財宝で着飾った悪女です』と宣伝しているようなものですわ」
鏡の中の私は、どこからどう見ても「隣国の公爵をたぶらかした稀代の不倫令嬢」そのものでした。
馬車に乗り込む際、ハンスさんがそっと耳打ちしてくれました。
「カリア様、ご安心を。我が国の国王陛下は、閣下に負けず劣らずの『変わり者』ですので。……あ、いえ、個性的と言い換えておきましょう」
「ハンスさん、今さら取り繕っても遅いですわよ」
王宮に到着すると、そこには衛兵がずらりと並び、物々しい雰囲気が漂っていました。
「リュカ・ヴァレンシュタイン、並びにカリア・ルーン・エメルト伯爵令嬢、入室!」
重厚な扉が開くと、そこには玉座に深く腰掛けた初老の男性がいました。
彼がこの国の王、ヴィルヘルム陛下。鋭い眼光で私を射抜くと、低く重厚な声で口を開きました。
「……貴様が、エメルトの不倫令嬢か。我が国最強の公爵を骨抜きにし、隣国の経済を一夜にして破綻させたという」
「は、はい。……不甲斐ない夫を捨て、こちらの公爵様に拾っていただいた罪深き女でございます」
私は精一杯の「悪女スマイル」を浮かべて跪きました。
ところが、陛下はしばらく私を凝視した後、いきなり玉座を叩いて爆笑し始めたのです。
「はっはっは! 素晴らしい! あの無能な隣国の王子から、実務の天才である貴様を奪ってくるとは! リュカ、よくやった! 勲章ものだぞ!」
「……えっ? 勲章?」
私が呆然としていると、陛下は玉座から降りてきて、私の手を取ってぶんぶんと振りました。
「カリア殿! 貴様が隣国でやっていた帳簿の管理術、噂には聞いていたぞ。貴様が消えたせいで、あちらの国境付近の物流が止まったそうではないか。愉快、実に愉快だ!」
「あの……私、不倫をして追放されたはずなのですけれど……」
「そんなもの、リュカが流したデマだろう? 貴様を合法的に拉致するためのな」
陛下の言葉に、私は隣で澄ましているリュカ様を仰ぎ見ました。
「リュカ様……。まさか、あの不倫現場の捏造、あなたも一枚噛んでいましたの?」
「俺はただ、エドワードが用意した睡眠薬を、より質の良いものに変えてやっただけだ。お前が苦しまずに眠れるようにな」
「……この、確信犯! 私の純情(?)を返しなさい!」
私がリュカ様の胸板をポカポカと叩いていると、陛下の後ろから王妃様まで現れました。
「あらあら、可愛い子。不倫だなんてそんなトゲのある言葉、この国では『真実の愛の引っ越し』と呼ぶことにしましょう」
「王妃様まで何を仰っているのですか!?」
「さあ、カリア殿。今日は貴様の『亡命成功』を祝して、大晩餐会だ! ついでに、リュカとの婚約も発表してしまおう!」
「えっ、今ここで!? 心の準備も、というか私の許可も……!」
「許可? 俺が許可した。文句があるなら、ベッドの上で聞こう」
リュカ様は私の腰を強引に引き寄せ、陛下の前で堂々と宣言しました。
「陛下、この女は我が公爵家の、そしてこの国の至宝となります。……手を出そうとする奴は、たとえ隣国の王族だろうと、俺が物理的に消去します」
どうやら私は、「悪女」として裁かれるどころか、国を挙げて「最強の略奪品」として歓迎されてしまったようです。
目の前で繰り広げられる豪華な宴の準備を見ながら、私は遠い空を見上げました。
……エドワード様。あなたが必死で守ろうとしたその権力、今この瞬間、私の「引っ越し」によって崩壊し始めているようですわよ。
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