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一年後。シルヴァーナ王国、王宮のテラス。
柔らかな春の日差しが降り注ぐ中、私は新しい妃、リリアンヌとして、穏やかな日々を送っていた。
「リリアンヌ、こちらの書類なんだが、少し意見を聞かせてくれないか?」
隣で書類に目を通していた夫、カイが、難しい顔で私に話しかけてくる。
「まあ、カイ様。それは、治水事業に関する予算案ですわね。拝見いたします」
私は、ごく自然にその書類を受け取り、目を通し始めた。
ヴァイス王国で培った知識と経験は、この国でも大いに役立っていた。私はもう、誰かの言う通りに動く「完璧な淑女」ではない。自分の頭で考え、自分の意見を述べ、愛する夫を、そしてこの国を支える、対等なパートナーだった。
そんな私を、この国の王も、国民も、温かく受け入れてくれた。「聡明で心優しい、隣国からの薔薇姫」などと呼ばれているのは、少し照れくさいけれど。
「なるほど…。この第三項の予算、少し過大に見積もられすぎてはいませんこと? 去年の実績と比較しても、不自然ですわ。担当の侯爵は、確か…」
「ああ、金遣いが荒いことで有名な、あのオヤジか。なるほどな、少し締め上げる必要がありそうだ。助かったよ、リリアンヌ」
カイは、私の頭を優しく撫でた。この何気ない日常が、私にとって、何物にも代えがたい宝物だった。
私たちは、しばらく、他愛もない話をしながら、お茶を楽しんでいた。
ふと、カイが遠くの空を見つめ、どこか楽しげに口笛を吹き始めたのが、私の目に留まった。その横顔は、幸せそのものといった表情だ。
私は、カップをことりとソーサーに置くと、いたずらっぽく微笑んだ。
「カイ様」
「ん、なんだ?」
「最近、なんだか、妙に楽しそうでいらっしゃいますわね」
私は、最高の淑女の笑みを、にっこりと彼に向ける。
「ところで」
カイの動きが、ぴたりと止まった。その顔には、既視感(デジャブ)に襲われたような、引きつった表情が浮かんでいる。
私は、ゆっくりと、一言一句、慈しむように言葉を紡いだ。
「浮気相手は、どちら様ですの?(にっこり)」
その瞬間、カイは椅子から転げ落ちそうになるほど、盛大に吹き出した。
「ぶはっ! おま、お前なあ!」
彼は、涙を流しながら、腹を抱えて笑い転げている。
「するわけないだろう! 天地がひっくり返っても、あり得ないね!」
カイは立ち上がると、私を後ろから優しく抱きしめた。
「俺の愛する人は、昔も、今も、そしてこれからも、世界でただ一人。この、意地悪で、最高に賢くて、たまらなく愛おしい、俺の奥さんだけだよ」
彼の腕の中で、私は、心からの笑い声を上げた。
もう、そこに、仮面をつけた令嬢はいなかった。
愛する人の隣で、心の底から笑う、一人の幸せな女性がいるだけ。
私たちの幸せな笑い声が、シルヴァーナの青く澄み渡った空に、どこまでも響き渡っていった。
**【完】**
柔らかな春の日差しが降り注ぐ中、私は新しい妃、リリアンヌとして、穏やかな日々を送っていた。
「リリアンヌ、こちらの書類なんだが、少し意見を聞かせてくれないか?」
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私は、ごく自然にその書類を受け取り、目を通し始めた。
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「ああ、金遣いが荒いことで有名な、あのオヤジか。なるほどな、少し締め上げる必要がありそうだ。助かったよ、リリアンヌ」
カイは、私の頭を優しく撫でた。この何気ない日常が、私にとって、何物にも代えがたい宝物だった。
私たちは、しばらく、他愛もない話をしながら、お茶を楽しんでいた。
ふと、カイが遠くの空を見つめ、どこか楽しげに口笛を吹き始めたのが、私の目に留まった。その横顔は、幸せそのものといった表情だ。
私は、カップをことりとソーサーに置くと、いたずらっぽく微笑んだ。
「カイ様」
「ん、なんだ?」
「最近、なんだか、妙に楽しそうでいらっしゃいますわね」
私は、最高の淑女の笑みを、にっこりと彼に向ける。
「ところで」
カイの動きが、ぴたりと止まった。その顔には、既視感(デジャブ)に襲われたような、引きつった表情が浮かんでいる。
私は、ゆっくりと、一言一句、慈しむように言葉を紡いだ。
「浮気相手は、どちら様ですの?(にっこり)」
その瞬間、カイは椅子から転げ落ちそうになるほど、盛大に吹き出した。
「ぶはっ! おま、お前なあ!」
彼は、涙を流しながら、腹を抱えて笑い転げている。
「するわけないだろう! 天地がひっくり返っても、あり得ないね!」
カイは立ち上がると、私を後ろから優しく抱きしめた。
「俺の愛する人は、昔も、今も、そしてこれからも、世界でただ一人。この、意地悪で、最高に賢くて、たまらなく愛おしい、俺の奥さんだけだよ」
彼の腕の中で、私は、心からの笑い声を上げた。
もう、そこに、仮面をつけた令嬢はいなかった。
愛する人の隣で、心の底から笑う、一人の幸せな女性がいるだけ。
私たちの幸せな笑い声が、シルヴァーナの青く澄み渡った空に、どこまでも響き渡っていった。
**【完】**
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