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夜会の熱気が最高潮に達した頃。
アリステア殿下が、私の手を引いて会場中央の階段へと上がった。
一段高い場所から見下ろすと、貴族たちの顔色がよく見える。
(……あら。あちらの伯爵家のご子息、さっきからシャンパンを飲みすぎです。肝臓が悲鳴を上げていますよ。後でウコンの粉末を投げつけてあげたい……)
私がそんな「慈愛(物理)」に満ちた視線を送っていると、アリステア殿下が静かに手を挙げた。
一瞬で、会場が水を打ったような静寂に包まれる。
「皆に報告がある。……我が国にとって、これ以上ない慶事だ」
殿下の声が、魔法で増幅されて会場の隅々まで響き渡った。
(……殿下。そんなに喉に負担をかけなくても、私の耳なら隣でしっかり聞こえています。声帯の結節が心配ですわ)
「私の隣にいるロア・エル・アヴィール。彼女は、前婚約者から不当な扱いを受け、その高潔な魂を傷つけられた。だが、私は以前から彼女の真の姿を知っていた」
殿下は、私の腰をグイと引き寄せた。
密着。
あまりの密着度に、私の大胸筋が殿下の強靭な上腕二頭筋を感知する。
「彼女は誰よりも慈しみ深く、献身的で、そして……私、アリステア・ヴァン・クリスティアが、生涯をかけて愛し抜くと決めた唯一の女性だ」
会場から、地鳴りのような「おおお……!」というどよめきが上がった。
「ここに宣言する。ロア・エル・アヴィールを、我が国の第一王太子妃候補として正式に認定し、本日をもって私の全面的な保護下に置く。……彼女に不敬を働く者は、私への反逆とみなし、相応の報いを受けてもらう」
殿下の瞳が、黄金の炎のように揺らめき、会場全体を圧射した。
それは、愛の告白というよりは「獲物へのマーキング」に近い、圧倒的な支配の宣言だった。
(……大変。殿下の眼圧が上がっていそうです。それに、会場の皆さんの血圧も急上昇しています。これは集団的な高血圧パニックの引き金になりかねませんわ!)
私は焦った。
このままでは、感動のあまり脳血管を詰まらせる貴族が続出してしまう。
私は殿下の腕の中で、精一杯の「和らげる微笑み」を会場に振りまいた。
……つもりだった。
だが、私の顔は緊張と「健康への使命感」で、これまでにないほど「冷酷な処刑人」のように引き締まっていた。
「……ひっ! ロア様が、我々を睨んでいらっしゃる!」
「『余計な口を叩いたら消す』という無言の圧力か……。なんて恐ろしいお方だ!」
「あんなに美しいのに、あんなに怖いなんて……。まさに王者の風格だわ!」
(……なぜでしょう。皆さんが一様に青ざめて、姿勢を正しています。……あ、もしかして私の無言の指導が伝わって、背筋を伸ばしてくれたのかしら!?)
私は嬉しくなり、さらにグッと表情を険しくして(本人は満足している)、深く頷いて見せた。
「……ロア、そんなに怖がらせないであげてくれ。彼ら、今にも失禁しそうな者もいるぞ」
アリステア殿下が、私の耳元でおかしそうに囁いた。
「怖がらせてなどいません。皆さんの体幹が整うように、視覚的な刺激を送っているだけです」
「ふふ、君は本当に面白い。……皆、聞いた通りだ。ロアは私のものだ。……以上だ、宴を楽しめ」
殿下はそう締めくくると、私をお姫様抱っこで抱え上げ、驚愕に包まれる会場を颯爽と退場した。
「で、殿下! まだ皆さんに『深呼吸の重要性』を説いていません!」
「それは明日、官報に載せておいてあげるから。……今は、私だけの『健康指導』に集中してくれ」
「私だけの? ……あ、殿下、もしかしてどこか痛むのですか!? マッサージですか!? それともお灸!?」
「……愛のムチ、かな」
殿下の瞳に、夜の帳(とばり)よりも深い情熱が宿る。
こうして、私は正式に「王太子が最も溺愛する悪役令嬢(自称:健康指導員)」として、国中の注目を浴びることになったのである。
アリステア殿下が、私の手を引いて会場中央の階段へと上がった。
一段高い場所から見下ろすと、貴族たちの顔色がよく見える。
(……あら。あちらの伯爵家のご子息、さっきからシャンパンを飲みすぎです。肝臓が悲鳴を上げていますよ。後でウコンの粉末を投げつけてあげたい……)
私がそんな「慈愛(物理)」に満ちた視線を送っていると、アリステア殿下が静かに手を挙げた。
一瞬で、会場が水を打ったような静寂に包まれる。
「皆に報告がある。……我が国にとって、これ以上ない慶事だ」
殿下の声が、魔法で増幅されて会場の隅々まで響き渡った。
(……殿下。そんなに喉に負担をかけなくても、私の耳なら隣でしっかり聞こえています。声帯の結節が心配ですわ)
「私の隣にいるロア・エル・アヴィール。彼女は、前婚約者から不当な扱いを受け、その高潔な魂を傷つけられた。だが、私は以前から彼女の真の姿を知っていた」
殿下は、私の腰をグイと引き寄せた。
密着。
あまりの密着度に、私の大胸筋が殿下の強靭な上腕二頭筋を感知する。
「彼女は誰よりも慈しみ深く、献身的で、そして……私、アリステア・ヴァン・クリスティアが、生涯をかけて愛し抜くと決めた唯一の女性だ」
会場から、地鳴りのような「おおお……!」というどよめきが上がった。
「ここに宣言する。ロア・エル・アヴィールを、我が国の第一王太子妃候補として正式に認定し、本日をもって私の全面的な保護下に置く。……彼女に不敬を働く者は、私への反逆とみなし、相応の報いを受けてもらう」
殿下の瞳が、黄金の炎のように揺らめき、会場全体を圧射した。
それは、愛の告白というよりは「獲物へのマーキング」に近い、圧倒的な支配の宣言だった。
(……大変。殿下の眼圧が上がっていそうです。それに、会場の皆さんの血圧も急上昇しています。これは集団的な高血圧パニックの引き金になりかねませんわ!)
私は焦った。
このままでは、感動のあまり脳血管を詰まらせる貴族が続出してしまう。
私は殿下の腕の中で、精一杯の「和らげる微笑み」を会場に振りまいた。
……つもりだった。
だが、私の顔は緊張と「健康への使命感」で、これまでにないほど「冷酷な処刑人」のように引き締まっていた。
「……ひっ! ロア様が、我々を睨んでいらっしゃる!」
「『余計な口を叩いたら消す』という無言の圧力か……。なんて恐ろしいお方だ!」
「あんなに美しいのに、あんなに怖いなんて……。まさに王者の風格だわ!」
(……なぜでしょう。皆さんが一様に青ざめて、姿勢を正しています。……あ、もしかして私の無言の指導が伝わって、背筋を伸ばしてくれたのかしら!?)
私は嬉しくなり、さらにグッと表情を険しくして(本人は満足している)、深く頷いて見せた。
「……ロア、そんなに怖がらせないであげてくれ。彼ら、今にも失禁しそうな者もいるぞ」
アリステア殿下が、私の耳元でおかしそうに囁いた。
「怖がらせてなどいません。皆さんの体幹が整うように、視覚的な刺激を送っているだけです」
「ふふ、君は本当に面白い。……皆、聞いた通りだ。ロアは私のものだ。……以上だ、宴を楽しめ」
殿下はそう締めくくると、私をお姫様抱っこで抱え上げ、驚愕に包まれる会場を颯爽と退場した。
「で、殿下! まだ皆さんに『深呼吸の重要性』を説いていません!」
「それは明日、官報に載せておいてあげるから。……今は、私だけの『健康指導』に集中してくれ」
「私だけの? ……あ、殿下、もしかしてどこか痛むのですか!? マッサージですか!? それともお灸!?」
「……愛のムチ、かな」
殿下の瞳に、夜の帳(とばり)よりも深い情熱が宿る。
こうして、私は正式に「王太子が最も溺愛する悪役令嬢(自称:健康指導員)」として、国中の注目を浴びることになったのである。
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