婚約破棄された無能は王太子に拾われる

桜井ことり

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「……ロア、外を見てごらん。街が大変なことになっているよ」

王宮のテラスでアリステア殿下に促され、私は眼下の王都を見下ろした。
そこには、私の「悪役顔」での厳しい指導を乗り越えてきた国民たちの、活気に満ちた姿があった。

「あら。あちらの大工ギルドの皆さん、以前教えた『正しい腰の入れ方』を完璧にマスターしていますね。あんなに重い装飾を運んでいるのに、脊柱が一切曲がっていませんわ」

「そこかい? 彼らは君のために、王都中の石畳を磨き上げ、街中の側溝を殺菌し、式典のルートを『世界一衛生的な道』に作り変えているんだよ」

王都の広場では、私がかつて経口補水液で救った少年レオ君が、バルタス公爵と共に元気に指示を出していた。

「お姉ちゃんのために、みんなで最高の広場にするんだ! ほら、そこ! 掃除の手を休める時は、ちゃんと屈伸して血流を良くして!」

(……レオ君。私の教えを忠実に守って、なんと立派な健康優良児に……!)

孤児院の子供たちは、ロア直伝の「プロテインバー」で蓄えた体力で、色とりどりの薬草の花を街中に植えて回っている。
市場の商人たちは、ロアの結婚を祝して「一汁一菜・特製健康弁当」を無料で配布し、街全体の幸福度と基礎代謝を同時に引き上げていた。

「ロア様、見てください! ドレスの裾を汚さないよう、王宮前の階段は我々侍女隊が二十四時間体制で滅菌済みです!」

マーサ様を筆頭とする「ロア様親衛隊」も、かつてないほど規律正しく(そして血色良く)動いている。

「……殿下。私は、ただ皆さんに長生きしてほしかっただけなのですが。……これほどまでにシステマチックな健康都市が完成するとは、感無量ですわ」

「君が彼らに与えたのは、ただの知識じゃない。『自分を大切にする』という希望だ。……だから彼らは、君の幸せを自分のことのように願っているんだよ」

アリステア殿下は、私の背後からそっと手を回し、膨大な祝福の準備が進む街を見つめた。

「ロア。結婚式当日は、君が今まで診てきたすべての人々が、君の『美しすぎる健康体』を拝みに来る。……正直、嫉妬で私の血管がはち切れそうだが、今回ばかりは耐えてみせよう」

「殿下。血管をはち切れさせないための血管強化メニュー、式までにさらに追加しておきますね」

「……ああ。君の愛なら、いくらでも受けよう」

王都中が、ロアの「健康」という名の慈愛に包まれ、世界一健やかで幸福な結婚式へのカウントダウンが始まった。
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