私を婚約破棄して、どうされるおつもりですか?

桜井ことり

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エデンの書斎で、緊急の作戦会議が始まった。

「父の私兵は、少なくとも百名。まともにぶつかれば、アールクヴィストの兵力では、被害が大きすぎます」

私の分析に、エデンは厳しい顔で頷く。

「ああ。武力衝突は、絶対に避けなければならない。民を、これ以上危険に晒すわけにはいかない」

力攻めは、悪手。

ならば、攻めるべきは、父の権威、そのものだ。

私は、かねてより考えていた作戦を、二人に提示した。

「侯爵の陰謀を、公の場で白日の下に晒し、その権威を、根こそぎ失墜させるのです」

私の作戦は、三段階に分かれていた。

第一に、カイが斥候として、父の私兵が「盗賊団」に偽装して領内に潜伏している拠点を探り出し、その決定的な証拠――クライネルト家の紋章が入った武具などを、写真機で撮影してくること。

第二に、エデンが、国王、あるいは王家と繋がりの深い、中立的な大貴族へ極秘の使者を送り、父の反逆の企てを密告。証拠を元に、国王直属の調査騎士団の派遣を要請すること。

そして、第三段階。

「私が、父の元へ、直接向かいます」

「何!?」

エデンとカイが、同時に声を上げた。

「危険すぎる!」

「そうですわ。だからこそ、私が行くのです。私が父の注意を引きつけ、時間を稼いでいる間に、貴方たちは、外堀を埋める。……それが、最も確実な方法です」

私の決意が固いことを知ると、二人は、苦渋の表情で、その作戦を受け入れた。

その日の夜から、私たちは、それぞれの役割を果たすべく、動き出した。

カイは、闇に溶けるようにして、危険な偵察任務へと向かった。

エデンは、最も信頼できる側近を、王都への使者として送り出した。

そして、私は――。

数日後、たった一人で、クライネルト侯爵の城門をくぐった。

「クーシー様!?」

門番たちは、勘当されたはずの令嬢の突然の帰還に、度肝を抜かれている。

私が、父との面会を求めると、彼らは慌てて城の中へと駆け込んでいった。

通されたのは、かつて、何度も食事を共にした、あの広間。

玉座に座る父は、私の姿を認めると、その顔を怒りで真っ赤に染め上げた。

「どの面下げて戻ってきた、この裏切り者がァッ!」

「お久しぶりですわね、お父様」

私は、彼の怒声にも動じず、優雅にカーテシーを見せた。

「単刀直入に申し上げます。アールクヴィスト領への侵攻計画、そして、ガリア王国との関係を悪化させている全ての陰謀、今すぐ、すべておやめください」

「……!貴様、なぜそれを……!」

「おやめなさい、父上。その道を進めば、貴方も、そして、このクライネルト家も、破滅するだけです」

私の、最後の説得。

だが、欲望に目が眩んだ父には、その言葉は届かなかった。

「黙れ、小娘が!全ては、このクライネルト家を、さらに偉大にするためではないか!者ども、こいつを捕らえよ!」

父の号令で、兵士たちが私を取り囲む。

もはや、これまでか。

そう思った、その瞬間だった。

「そこまでだ、クライネルト侯爵!」

広間の扉が勢いよく開け放たれ、国王直属の騎士団が、雪崩れ込んできた。

その先頭に立つ騎士団長が、一枚の羊皮紙を高く掲げる。

「国家への反逆の容疑で、貴公を拘束する!」

時を同じくして、カイが命懸けで撮影してきた、私兵たちの装備の証拠写真が、騎士団長へと手渡された。

動かぬ証拠を突きつけられ、父は、その場に、崩れ落ちた。

「ば、かな……。この私が……」

彼の、長年にわたる権勢と、傲慢な野望が、音を立てて崩れ去っていく。

騎士たちに両腕を掴まれ、連行されていく父の姿を、私は、ただ、見つめていた。

その表情からは、喜びも、悲しみも、怒りさえも消え失せ、底なしの虚無だけが、広がっていた。

私が守りたかったのは、エデンの平和。

そのために、私は、自らの手で、自らが生まれた家を、終わらせたのだ。

その事実の重みが、ずしりと、私の両肩にのしかかっていた。
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