16 / 24
16話
しおりを挟む
ポチに全てを打ち明け、彼の力強い誓いを得てから、数日が過ぎた。
フウカの心は、まだ完全に晴れたわけではなかったが、分厚い暗雲の向こうに、確かな光が差し込んでいるのを感じていた。
もう、一人ではない。
その事実が、フウカを、かろうじて立たせていた。
そんなある日の午後、ポチが、またしてもロイゼフ公爵邸を訪れた。
しかし、その日の彼は、いつもの王子としての威厳ある姿ではなく、驚くほど簡素で、動きやすそうな平民の服を身につけていた。
「ポチ様……? そのお姿は……」
庭園で、フウカは目を丸くする。
上質な生地ではあるが、装飾の一切ないシャツとズボン。銀髪は、フード付きの外套で巧みに隠されている。
それでも、彼の規格外の美貌と気品は、隠しようもなく滲み出てしまっていたが。
「少し、息抜きをしないか、フウカ」
ポチは、悪戯っぽく微笑んだ。
「お忍びで、城下町へ行こう。君の気分転換にもなるはずだ」
「城下町へ……?」
フウカは、戸惑った。
両親のことで頭がいっぱいの今、自分が楽しんでいいものだろうか。
そんなフウカの葛藤を見透かすように、ポチは、彼女の手をそっと取った。
「君は、ずっと気を張り詰めすぎている。一度、家のことを忘れて、外の空気を吸うことも大切だ。それに……私は、君の笑顔が見たい」
その、あまりにも優しい声と、まっすぐな眼差しに、フウカは、断ることができなかった。
彼が、自分のために、ここまで考えてくれている。
その気持ちに応えたいと、心から思った。
フウカもまた、侍女に手伝ってもらい、目立たない、簡素な街娘のワンピースに着替えた。
二人で、裏門からこっそりと屋敷を抜け出す。
その、ちょっとした冒険のような行為に、フウカの心は、久しぶりに、微かな高揚感を覚えていた。
***
城下町は、活気に満ち溢れていた。
石畳の道を、人々が行き交い、あちこちの店先から、威勢のいい呼び込みの声が聞こえてくる。
果物を売る店、焼きたてのパンの香ばしい匂いが漂う店、色とりどりの布地が並ぶ店。
その全てが、普段、屋敷の中だけで過ごしているフウカにとっては、新鮮で、刺激的だった。
「わあ……」
フウカは、子供のように、きょろきょろと辺りを見回した。
その、無邪気な姿を、ポチは、隣で、愛おしそうに見つめている。
「何か、気になるものでもあったか?」
「あの……飴細工のお店……。あんなに綺麗な鳥の形を、お砂糖で……」
フウカが、目を輝かせて指差す。
ポチは、すぐにその店へ向かうと、フウカが欲しがった鳥の飴細工だけでなく、蝶や花の形をしたものまで、全種類を買い占めてしまった。
「ポチ様! こんなにたくさん……!」
「君が、喜ぶ顔が見たいからな」
彼は、こともなげに言ってのける。
その後も、フウカが少しでも興味を示したもの――リボンの髪飾り、香りの良い石鹸、道端で売っていた焼き栗――を、ポチは次から次へと買い与えた。
フウカが慌てて止めようとしても、「これは、未来の私の妃への、ささやかな贈り物だ」などと言って、全く聞く耳を持たない。
その、徹底した溺愛ぶりに、フウカは、困惑しながらも、胸の奥が温かくなるのを感じていた。
広場では、何やら人だかりができていた。
覗いてみると、木の人形を的にして、矢を射る遊戯の屋台だった。
一番大きな人形を倒せば、景品として、巨大なクマのぬいぐるみがもらえるらしい。
「フウカ。あれが欲しいか?」
ポチが、フウカの視線の先にある、そのぬいぐるみを見て尋ねた。
フウカは、慌てて首を横に振る。
「い、いえ! そんな、滅相も……!」
けれど、その大きなクマの、つぶらな瞳から、目が離せないでいた。
ポチは、そんなフウカの様子を見て、ふっと笑うと、屋台の主人に銀貨を一枚渡した。
「私が、挑戦しよう」
王子である彼が、弓の扱いに長けているのは、当然のことだった。
フウカは、きっと、彼なら簡単にあの人形を射抜いてしまうのだろうと、そう思っていた。
しかし。
ピュン、と放たれた矢は、人形のはるか手前で、力なく地面に落ちた。
「……おや?」
ポチが、不思議そうな顔をする。
屋台の主人が、にやにやと笑っていた。
どうやら、この遊戯の弓は、わざと歪ませてあり、まっすぐには飛ばないようにできているらしい。
「もう一度だ」
ポチは、負けず嫌いの血が騒いだのか、再び矢を構えた。
しかし、結果は同じ。
三度目、四度目と挑戦するが、矢は、ことごとく的を外れていく。
普段の、完璧で、クールな王子の姿からは、想像もつかない光景だった。
真剣な顔で、おもちゃの弓と格闘しているその姿は、どこか滑稽で、そして、とても人間味に溢れていた。
それを見ていたフウカの口から、くすっ、と、小さな笑い声が漏れた。
それは、ここ数日、忘れていた、心からの笑いだった。
その笑い声に、ポチが、はっとしたように振り返る。
そして、フウカが笑っているのを見て、彼は、弓を置いた。
その顔には、悔しさではなく、満足そうな、優しい笑みが浮かんでいた。
「……どうやら、私の負けのようだな」
彼はそう言うと、結局、屋台の主人にこっそり金貨を数枚握らせて、その巨大なクマのぬいぐるみを、強引に手に入れてしまった。
「さあ、君の騎士だ」
そう言って、大きなぬいぐるみをフウカに手渡す。
フウカは、その、少し強引で、けれど、優しさに満ちた行動に、笑いながら、それを受け取った。
***
二人は、人混みを離れ、街を流れる、穏やかな川のほとりまでやってきた。
フウカは、大きなクマのぬいぐるみを膝に抱え、ベンチに腰を下ろす。
「……ありがとうございました、ポチ様。今日、とても、楽しかったです」
フウカが、心からの感謝を告げると、ポチは、優しく微笑んだ。
「君が、笑ってくれて、よかった」
彼は、フウカの隣に座ると、その髪に優しく触れた。
「フウカ。君のご両親の件だが、少し、分かったことがある」
その言葉に、フウカは、はっとして顔を上げる。
「君のお父上は、君のお母上を、深く愛している。だが、同時に、その完璧すぎる彼女に対して、強い劣等感を抱いておられるようだ。それが、彼の心を苦しめている」
ポチは、静かに分析を述べた。
「君のお母上もまた、君のお父上を、深く愛している。だが、彼女は、その愛情の示し方が、あまりにも不器用で、そして、強すぎる。その強さが、知らず知らずのうちに、君のお父上を追い詰めてしまっているのかもしれない」
それは、フウカが、心のどこかで、薄々感じていたことだった。
「二人は、互いを深く愛しているのに、その愛の形が、少しだけ、すれ違ってしまっているだけなんだ」
ポチは、フウカの手を、再び、優しく握った。
「だから、大丈夫だ。必ず、解決策はある。私が、君と一緒に見つけ出す」
その、力強い言葉と、温かい手の温もりに、フウカは、涙が滲むのを感じた。
この人と出会えて、本当によかった。
フウカは、そっと、自分の手を、ポチの手に重ねた。
それは、言葉にならない、誓いだった。
あなたの隣で、わたくしも、戦います。
そう、誓うように。
夕暮れの光が、二人を優しく包み込んでいた。
フウカの心は、まだ完全に晴れたわけではなかったが、分厚い暗雲の向こうに、確かな光が差し込んでいるのを感じていた。
もう、一人ではない。
その事実が、フウカを、かろうじて立たせていた。
そんなある日の午後、ポチが、またしてもロイゼフ公爵邸を訪れた。
しかし、その日の彼は、いつもの王子としての威厳ある姿ではなく、驚くほど簡素で、動きやすそうな平民の服を身につけていた。
「ポチ様……? そのお姿は……」
庭園で、フウカは目を丸くする。
上質な生地ではあるが、装飾の一切ないシャツとズボン。銀髪は、フード付きの外套で巧みに隠されている。
それでも、彼の規格外の美貌と気品は、隠しようもなく滲み出てしまっていたが。
「少し、息抜きをしないか、フウカ」
ポチは、悪戯っぽく微笑んだ。
「お忍びで、城下町へ行こう。君の気分転換にもなるはずだ」
「城下町へ……?」
フウカは、戸惑った。
両親のことで頭がいっぱいの今、自分が楽しんでいいものだろうか。
そんなフウカの葛藤を見透かすように、ポチは、彼女の手をそっと取った。
「君は、ずっと気を張り詰めすぎている。一度、家のことを忘れて、外の空気を吸うことも大切だ。それに……私は、君の笑顔が見たい」
その、あまりにも優しい声と、まっすぐな眼差しに、フウカは、断ることができなかった。
彼が、自分のために、ここまで考えてくれている。
その気持ちに応えたいと、心から思った。
フウカもまた、侍女に手伝ってもらい、目立たない、簡素な街娘のワンピースに着替えた。
二人で、裏門からこっそりと屋敷を抜け出す。
その、ちょっとした冒険のような行為に、フウカの心は、久しぶりに、微かな高揚感を覚えていた。
***
城下町は、活気に満ち溢れていた。
石畳の道を、人々が行き交い、あちこちの店先から、威勢のいい呼び込みの声が聞こえてくる。
果物を売る店、焼きたてのパンの香ばしい匂いが漂う店、色とりどりの布地が並ぶ店。
その全てが、普段、屋敷の中だけで過ごしているフウカにとっては、新鮮で、刺激的だった。
「わあ……」
フウカは、子供のように、きょろきょろと辺りを見回した。
その、無邪気な姿を、ポチは、隣で、愛おしそうに見つめている。
「何か、気になるものでもあったか?」
「あの……飴細工のお店……。あんなに綺麗な鳥の形を、お砂糖で……」
フウカが、目を輝かせて指差す。
ポチは、すぐにその店へ向かうと、フウカが欲しがった鳥の飴細工だけでなく、蝶や花の形をしたものまで、全種類を買い占めてしまった。
「ポチ様! こんなにたくさん……!」
「君が、喜ぶ顔が見たいからな」
彼は、こともなげに言ってのける。
その後も、フウカが少しでも興味を示したもの――リボンの髪飾り、香りの良い石鹸、道端で売っていた焼き栗――を、ポチは次から次へと買い与えた。
フウカが慌てて止めようとしても、「これは、未来の私の妃への、ささやかな贈り物だ」などと言って、全く聞く耳を持たない。
その、徹底した溺愛ぶりに、フウカは、困惑しながらも、胸の奥が温かくなるのを感じていた。
広場では、何やら人だかりができていた。
覗いてみると、木の人形を的にして、矢を射る遊戯の屋台だった。
一番大きな人形を倒せば、景品として、巨大なクマのぬいぐるみがもらえるらしい。
「フウカ。あれが欲しいか?」
ポチが、フウカの視線の先にある、そのぬいぐるみを見て尋ねた。
フウカは、慌てて首を横に振る。
「い、いえ! そんな、滅相も……!」
けれど、その大きなクマの、つぶらな瞳から、目が離せないでいた。
ポチは、そんなフウカの様子を見て、ふっと笑うと、屋台の主人に銀貨を一枚渡した。
「私が、挑戦しよう」
王子である彼が、弓の扱いに長けているのは、当然のことだった。
フウカは、きっと、彼なら簡単にあの人形を射抜いてしまうのだろうと、そう思っていた。
しかし。
ピュン、と放たれた矢は、人形のはるか手前で、力なく地面に落ちた。
「……おや?」
ポチが、不思議そうな顔をする。
屋台の主人が、にやにやと笑っていた。
どうやら、この遊戯の弓は、わざと歪ませてあり、まっすぐには飛ばないようにできているらしい。
「もう一度だ」
ポチは、負けず嫌いの血が騒いだのか、再び矢を構えた。
しかし、結果は同じ。
三度目、四度目と挑戦するが、矢は、ことごとく的を外れていく。
普段の、完璧で、クールな王子の姿からは、想像もつかない光景だった。
真剣な顔で、おもちゃの弓と格闘しているその姿は、どこか滑稽で、そして、とても人間味に溢れていた。
それを見ていたフウカの口から、くすっ、と、小さな笑い声が漏れた。
それは、ここ数日、忘れていた、心からの笑いだった。
その笑い声に、ポチが、はっとしたように振り返る。
そして、フウカが笑っているのを見て、彼は、弓を置いた。
その顔には、悔しさではなく、満足そうな、優しい笑みが浮かんでいた。
「……どうやら、私の負けのようだな」
彼はそう言うと、結局、屋台の主人にこっそり金貨を数枚握らせて、その巨大なクマのぬいぐるみを、強引に手に入れてしまった。
「さあ、君の騎士だ」
そう言って、大きなぬいぐるみをフウカに手渡す。
フウカは、その、少し強引で、けれど、優しさに満ちた行動に、笑いながら、それを受け取った。
***
二人は、人混みを離れ、街を流れる、穏やかな川のほとりまでやってきた。
フウカは、大きなクマのぬいぐるみを膝に抱え、ベンチに腰を下ろす。
「……ありがとうございました、ポチ様。今日、とても、楽しかったです」
フウカが、心からの感謝を告げると、ポチは、優しく微笑んだ。
「君が、笑ってくれて、よかった」
彼は、フウカの隣に座ると、その髪に優しく触れた。
「フウカ。君のご両親の件だが、少し、分かったことがある」
その言葉に、フウカは、はっとして顔を上げる。
「君のお父上は、君のお母上を、深く愛している。だが、同時に、その完璧すぎる彼女に対して、強い劣等感を抱いておられるようだ。それが、彼の心を苦しめている」
ポチは、静かに分析を述べた。
「君のお母上もまた、君のお父上を、深く愛している。だが、彼女は、その愛情の示し方が、あまりにも不器用で、そして、強すぎる。その強さが、知らず知らずのうちに、君のお父上を追い詰めてしまっているのかもしれない」
それは、フウカが、心のどこかで、薄々感じていたことだった。
「二人は、互いを深く愛しているのに、その愛の形が、少しだけ、すれ違ってしまっているだけなんだ」
ポチは、フウカの手を、再び、優しく握った。
「だから、大丈夫だ。必ず、解決策はある。私が、君と一緒に見つけ出す」
その、力強い言葉と、温かい手の温もりに、フウカは、涙が滲むのを感じた。
この人と出会えて、本当によかった。
フウカは、そっと、自分の手を、ポチの手に重ねた。
それは、言葉にならない、誓いだった。
あなたの隣で、わたくしも、戦います。
そう、誓うように。
夕暮れの光が、二人を優しく包み込んでいた。
12
あなたにおすすめの小説
冷遇妃マリアベルの監視報告書
Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。
第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。
そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。
王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。
(小説家になろう様にも投稿しています)
地味な私では退屈だったのでしょう? 最強聖騎士団長の溺愛妃になったので、元婚約者はどうぞお好きに
reva
恋愛
「君と一緒にいると退屈だ」――そう言って、婚約者の伯爵令息カイル様は、私を捨てた。
選んだのは、華やかで社交的な公爵令嬢。
地味で無口な私には、誰も見向きもしない……そう思っていたのに。
失意のまま辺境へ向かった私が出会ったのは、偶然にも国中の騎士の頂点に立つ、最強の聖騎士団長でした。
「君は、僕にとってかけがえのない存在だ」
彼の優しさに触れ、私の世界は色づき始める。
そして、私は彼の正妃として王都へ……
皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜
百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。
「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」
ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!?
ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……?
サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います!
※他サイト様にも掲載
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました
蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。
そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。
どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。
離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない!
夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー
※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。
※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
愛する夫が目の前で別の女性と恋に落ちました。
ましゅぺちーの
恋愛
伯爵令嬢のアンジェは公爵家の嫡男であるアランに嫁いだ。
子はなかなかできなかったが、それでも仲の良い夫婦だった。
――彼女が現れるまでは。
二人が結婚して五年を迎えた記念パーティーでアランは若く美しい令嬢と恋に落ちてしまう。
それからアランは変わり、何かと彼女のことを優先するようになり……
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる