その辺にある悪意

江波広樹

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2009年 パート4

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 宮野は公園の駐車場にいた。この季節でも昼間の車内は熱い。エアコンを入れるが喉が渇く。近くに自動販売機があったが、できる限り目立ちたくはなかった。目の前を人が通るときは携帯で電話をかける振りをし、少し距離があるところを人が通るときはカバンをの中から煙草を取り出す振りをした。

 演技は得意ではなかったが、日頃やっていることをスムーズに行うのは得意だった。ひとつの空間に溶け込み、そこに自分が存在していることを他人に認識されないようにするのも彼が得意とすることだった。彼は自分の存在感を操ることができた。まるでテレビの明るさを調整するように。

 できる限り今から自分が行うことを意識しない。それが他人の注意を惹かれずに行動を起こすコツだった。宮野は人を殴るときも、人を殺すときも、それが他人に悟られないように、行動の寸前までまったく別のことを考える。殺す寸前まで娘のことを考えているときもあれば、殴る寸前まで妻のたるんだ体を考えていることもある。

 宮野は車の味気ない天井を眺め、そこに自分の心を投影しようとした。意識のなかで円グラフが現れ、善と悪の割合が表示される。もちろん比率は5対5だ。それ以外はありえない。人間はそのようにできているからだ。人間はそこら辺の電化製品や建物とは比べものにならないほど精密に作られている。

 腕に巻かれた安い腕時計を眺めた。時刻は14時過ぎ。そろそろ昼飯を食べ終えた子ども達が公園に遊びに来る頃だ。

 正直、子どもは誰でもよかった。女子でも男子でも、とくに違いはないだろう。小学生くらいなら大した力の差もないはずだ。娘を持つ親のほうが子どもの行動を厳しくチェックしている場合が多いから、できれば男子のほうがいいかもしれない。もちろん、すべては状況による。もしかしたら子ども達のあいだで急にゲームがはやって、みんな公園なんかでは遊ばずに家に集合しているかもしれない。可能性としては十分にありえる。子どもは常に変化している。一週間前と三週間前に軽く見に来たが、そのときはそれなりの数の子どもがいた。今日は良い天気だ。気温は低いが子どもならこれくらいは関係がない。台風でも友達の家に行ってしまうのが子どもというものだ。

 数分がたったとき、ひとつの女子の集団が公園に入ってきた。四人組のグループで小学4年生か5年生といったところだろう。徒歩できているから公園の近くに住んでいるはずだ。いまどきの子どもらしくみんながそれぞれにカラフルな携帯電話を手に持っている。宮野はすぐに視線をそらした。もちろん彼女たちはターゲットとしては論外だった。わざわざ複数人で来ている携帯持ちを選ぶ必要はない。子ども達は他にいくらでもいるのだ。

 宮野はそっと視線をバスケットコート付近に移した。公園のバスケットコートではブラジル人たちが稚拙な試合を行っていた。近くにブラジル大使館があるため、この地域ではやたらとブラジル人が多い。ベンチに二人の男子中学生が座っている。コートをとられてしまったせいでバスケができずにイライラしている様子だった。

 それからまた数分がたったとき、宮野の目にひとりの少女が写った。6歳くらいで、ひとりトイレの前でつまらなそうに石ころを蹴っていた。最初は親がトイレに行っているのを待っているのかと思ったが、どうやらそうではない様子だった。周囲に人はいない。トイレに行く姿を装えば怪しくもない。

 宮野はゆっくりと、できるだけ音を立てずに車から降りた。
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