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2019年 パート4
しおりを挟む荒川はずいぶんぬるくなったコーヒーを口に運びながら、目の前の女性を見た。全体的に印象が薄いのにもかかわらず、顔は整いスタイルがいい。見た目がこれだけよければ、記憶に強く刻まれるはずなのに、彼女の存在はまったくといっていいほど頭に残らない。ちょっと視線を顔からコップに移しただけで、どういう顔立ちだったのか忘れてしまう。いままでずっと他人の注目をあびないように生きてきたのかもしれない。彼女には存在感というものが欠如している。
「ここの喫茶店に入るのはずいぶん久しぶりな気がする。最後に来たのは高校生のときだったと思う。もう10年以上まえ。私もひどく歳をとったわ」
彼女は自分のことを香織と名乗った。ネットで出会ったときも香織と名乗っていたが、どうやらそれが本名らしい。
「あの事件に詳しいんですよね」
荒川は静かに言った。しかし、その声はひどく店内に響いた気がした。自分が喋るときだけ世界から音が消えたようだった。
「そうね、詳しいと思う。たぶん、誰よりも。私が知らないことなら誰も知らない。それくらいにね」
「どうしてそんなに詳しいんですか? あの事件があったとき、あなたはまだ大学生だったはず。普通の大学生なら、いくら近所で起きた事件といっても、そんなに詳しいとは思えないんですけど」
香織はすこし難しい顔をした。あるいはそう見えるだけかもしれない。
「どんなことでも、調べようと思えばだれでも調べることができる。世の中そういうものよ。所詮はみんな人間のやったことなんだから、人間だったら調べることができる」
「そうかもしれないですけど」
「むしろ私のほうが気になるけどね。あんな10年も前の事件に興味を示すなんて。まだ16歳の女の子が。たしかに奇妙な事件ではあるけれど」
香織はゆっくりとコーヒーを飲んだ。あまりにも動きが自然すぎて、まるでコーヒーを飲んでいないように感じた。不思議な人だと荒川は思った。
「まあ、あなたが興味を示す理由はすでに知ってるんだけれど」
「知っている?」
「ええ、もちろん」
コーヒーをテーブルに置くと、香織は少し笑った。
「あなたのことが気に入ったわ。儀式は辞めにしましょう」
「・・・・・・儀式」
その言葉は荒川をひどく緊張させる。つま先から頭のてっぺんまで。
「辞めるとはどういう意味ですか?」
「私は継いでるのよ。あの儀式をね。でも、あなたが気に入ったから、儀式はやめましょう。本当だったら、私はこのままあなたを拉致するつもりだったんだけれど、思ったより魅力的だったから。殺すには惜しい」
香織はすらすらと言葉を並べた。しかし、荒川にはまったく意味が通じなかった。いったいこの人は何を言ってい
るのだ? 儀式を継いでいる? 自分を殺すつもりだった?
「あなたは、いったい・・・・・・」
「私? あの儀式を継いでいるものよ。父からね。名前は宮野香織。儀式の首謀者だった宮野直樹のひとり娘」
荒川は頭の中が真っ白になった。
「心配しないで。もう儀式は終わりにするから。もうあなたは自由の身よ。呪いは解けた。あの事件のことはすっか
り忘れて、素敵な人生を生きなさい」
香織はそう言うと伝票をもって席を立った。
「それじゃあ、またどこかで」
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