追放された凡人魔導士ですが、実は世界最強の隠しステ持ちでした〜気づかないうちに英雄扱いされて、美少女たちに囲まれていました〜

にゃ-さん

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第30話 凡人を名乗る世界最強と、ハーレムなその後 完

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空は今日も穏やかで、どこまでも青かった。  
王都の喧騒も、戦禍の名残もほとんど消え、街の人々の顔には笑顔しか残っていない。  
「平和って、こういうことを言うんだろうなぁ」  
そう呟きながら、エイルは市場をゆっくり歩いていた。  

背後から聞き慣れた声が飛んでくる。  
「ちょっとあんたっ! またみかん買い占めて!」  
振り向けば、リュナが両手に籠を抱えたまま耳をピンと立てていた。  
「買い占めてないって。三房だけだよ」  
「十分多い! しかも今日は王都視察の日でしょ!? 門で待つって言ったの誰?」  
「俺」  
「開き直るなあああ!」  

怒気を孕んだリュナをなだめるように、ミリアがひょっこり顔を出した。  
「まあまあ、そんなに怒らないで。今日は平和の祈念式。遅れたって、もう誰も戦わないのよ」  
そう言って、微笑みながらパン屋の手提げを差し出す。  
「それより、朝食買っておいたわ。リュナの分も」  
「うっ……優しい……けど甘やかさないで!」  

賑やかな二人を前に、エイルは苦笑した。  
「こうして朝から言い合いしてると、世界が平和になったって実感するよ」  
「そうね」ミリアが静かに頷く。「あなたがいなければ、この人たちの笑顔もなかったもの」  
「俺、一応凡人なんだけど」  
「凡人は世界なんて救えません」  

そんな短いやりとりのあと、三人は王都の中央広場へ向かった。  
そこではすでに人々の歓声が渦を巻いている。  
花びらが風に舞い、真新しい像が中央に立っていた。  
白衣を纏い、杖を掲げる男性の彫像――“白の守護者”を象ったものだ。  

「ほんっと、これ恥ずかしいんだよな……」  
像を見上げて首をすくめるエイルに、セレス王女が近づいてきた。  
「あなたの功績を形に残すのは当然のことよ。王国も、魔族連邦も、聖教会も、獣人の里も――すべてが賛成したわ」  
「全会一致の像とか、プレッシャーで胃に穴開くんだけど」  
「開いても治せるでしょ、あなたなら」  
「ぐうの音も出ません」  

セレスは小さく笑い、手を伸ばして彼の袖を直した。  
「でも、今日はあなたの日。少しだけ誇っていいのよ」  
「どう見ても今日一番目立ってるのセレスさんですよ」  
「王女なんだから当然でしょ」  

騒ぎを少し離れて見ていたルシアが、氷晶のような微笑を浮かべて近づいた。  
「人間の祝い事はいつも賑やかね。けれど……悪くないわ」  
「参加してくれるだけで十分。氷の国の女王がわざわざ来るなんて」  
「当然よ。だって、私の“契約者”の式典なのだから」  
その一言にリュナが瞬時に反応する。  
「ちょっ、それまだ言ってんの!?」  
「事実を述べただけ」  
「嘘つけぇ!」  

その騒ぎの後ろで、イルゼが書類を抱えて現れる。  
「あなたたち、式典前に揉め事起こさないでよ。これでも全世界に中継されてるんだから」  
「中継!? 嘘でしょ!?」  
「リュナ、今の発言ぜったい放送事故もの」  

周囲の笑いが広場に広がる。  
民の表情に恐怖はなく、緊張もない。  
それが何より嬉しいとエイルは思った。  

式典の開始を告げる鐘が鳴る。  
セレスが壇上に立ち、群衆に呼びかけた。  
「今日をもって、我々は“災厄の時代”に幕を下ろします。人も魔も、神も獣も――そのすべてが共に歩む新しい時代です!」  
人々の歓声が王都中を震わせた。  
その声に押されるように、エイルも壇上に上がる。  

群衆の視線が集まる。言葉を選ぶように深呼吸して、エイルは口を開いた。  
「俺は何度も言ってるけど、特別な人間じゃない。ただの凡人です。  
でも……少しでも誰かを助けられるなら、それでいいと思うようになりました。  
だからさ、みんなも助け合って生きてくれよ。世界を守るのは俺じゃなくて、みんなだ」  

その言葉に、拍手が鳴り響いた。  
やがて群衆から口々に声が上がる。  
「英雄様!」「凡人様!」「パンケーキ男ー!」  
「最後の呼び方誰だ!?」  
笑い声と歓声が混じり、空へと昇っていく。  

式典が終わるころには夕陽が沈み、空が朱に染まっていた。  
エイルは閑散とした広場の片隅でひとり座り込み、空を見上げていた。  
「ようやく、終わったんだな……」  
リュナが隣に腰を下ろす。  
「ほんと、お疲れ様。世界救って、国まとめて、ハーレムまで作って」  
「最後の要素いらないだろ」  
「でも事実」  
「……否定しづらいけどさ」  

ミリアがパンと手を叩く。  
「英雄がパンケーキ好きだなんて、いいじゃない。今夜はご褒美に、私が作ってあげる」  
「それはぜひお願いしたいね」  
「私も味見する!」リュナが尻尾を振る。  
「……甘すぎるものは苦手だけれど、頑張って一緒に焼くわ」ルシアがぽつりと呟く。  
「氷の女王がパンケーキ焼くとか、なんか神話になる気がする」  
「新しい伝説ってことでしょ」セレスが微笑む。  

彼の周囲には、いつの間にか笑顔が集まっていた。  
リュナの陽気な声、ミリアの慈しむような言葉、セレスの誇り高い眼差し、ルシアの静かな微笑み。  
それらすべてが、エイルにとって何よりの宝だった。  

「……俺さ」エイルがぽつりと言った。  
「本当は、勇者とか英雄とかより、“普通に生きる人間”でいたいだけなんだよ」  
「うん、知ってる」リュナが笑う。  
「でもあんた、世界一“普通じゃない凡人”よ」  
「まったくだわ」ミリアが頷く。  
セレスも柔らかく笑う。  
「それでも、あなたがここにいるだけで、世界はきっと救われるの」  

エイルは照れ臭そうに後頭部を掻いた。  
「まあ、そんなんでもいいか。明日からは俺、パン屋でもやろうかな」  
「いいわね! 焼きたてのパン、毎日食べられるなんて最高!」  
「ほんと、平和になった証拠だね」  

夜風が吹き抜け、広場の灯がひとつずつ消えていく。  
空には満天の星。  
エイルは肩を並べた仲間たちを見渡し、静かに笑った。  

「……今度こそ、この平和を長持ちさせようぜ」  
「任せときな!」リュナが尻尾を高く掲げる。  
「私も祈るわ」ミリアは手を組み、月に向かって小さく呟いた。  
「約束しましょう。これからもずっと、みんなで笑い続けるって」セレスが微笑む。  
ルシアも柔らかく頷く。  
「あなたが笑う限り、この地は凍らない。……私の氷がそう言ってる」  

遠くで鐘が鳴る。  
平和な夜の音。  
かつて世界を救った男は、今日も凡人らしく、大切な仲間たちと笑っている。  

どこまでものんびりと。  
まるで夢のような、けれど確かに現実の幸福の中で。  

そして――彼の物語は、静かに幕を下ろした。  

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