気付いたら、ゲーム世界の顔グラも無いモブだった

玄月白兎

文字の大きさ
19 / 19
第一章

第十八話

しおりを挟む
「ガイア子爵? なぜだ? 子爵の邸宅は帝都の反対側だぞ。スラムからは一番遠い」

 ヴァンが怪訝な声でフリートに応じる。慌てすぎて変なことを言い出したと思っているのか、少し諫めるような響きも感じられる。
 もっともな意見だ。仮に他の貴族に頼るというのならばわざわざ遠い貴族の元に行く必要はない。というかそもそも伯爵家が子爵を頼ること自体がまずないことだ。もし頼るならこちらから呼び寄せる。

ーーまあ、疑問に思うよな。だが今は言い訳を考える時間も勿体ない。

「すいませんね、ヴァンさん。正直これはやりたくないんですが、今は時間が惜しい。ーーこれは、主からの命令だ。ガイア邸に向かい人の出入りを見張れ。今すぐにだ」

 下手に出る時間すらも惜しくて、フリートは傲慢に命令する。本人も気づいていないことであるが、ここで簡潔な説明をしない辺りかなり焦っているということだろう。
 これはある意味貴族らしい態度であり、そして普段のフリートであればまずしないような態度だ。正直言って平民出身のヴァンにしてみれば嫌な態度とみられても仕方がないものであるのだが、それでも眉一つ動かさずヴァンは頷いた。

「承知した。ーー我が主の、思うがままに」

 それは忠義の士のような一言。己が身体、己が剣技のみに生きるヴァンらしい言葉だ。
 そう一例と共に溢し、即座に駆け出していく。おそらく指示通りガイア邸に向かったのだろう。

ーーさあ、これでもう後には戻れない。サーニャの為にも、ヴァンさんからの信頼の為にも。

 スラムには似合わない大き目な道。サーニャがいるであろう深層に続くそこに背を向け、フリートは衛兵の詰め所へと歩を進めた。頭の中は不安と焦りでごった返している。けれどもその足取りは、ただ真っ直ぐに。


   * * *


 ガタッ、と何かにぶつかって、サーニャはぼお、と目を覚ました。
 しばらく意識が覚醒したばかりでほおけていたサーニャだが、数度の瞬きと共に頭を覚醒させたところで、異常事態にようやく気付いた。

ーーどこ、ここは……?

 地面の質感から言っておそらくは室内だろう。それだけの情報を得てから、サーニャはゆっくりと床から身を起こした。
 暗く、辺りは見渡せない。最も貧民出身のサーニャにとって光の無い場所というのは慣れたものである。目が暗闇に慣れるまでを待とうと、サーニャはひとまず浮かんだ疑問を頭の中でつぶやいた。

ーーどうして私はこんな所で寝ていたの? 孤児院に帰って、あの子たちと話をしていたはずなのに……。

 闇ギルドの用いた睡眠薬の副作用により記憶が混濁しているが、サーニャには当然分からないことである。故にただ混乱だけが彼女の脳を駆け抜けていく。
 圧倒的な情報不足。故に彼女は部屋を探索しようとして、

「おや、もうお目覚めですかァ? シーフを語るだけあって薬物耐性はそこそこらしい。まァ、薬を防げない時点で合格とは言えないがね」

 ふと、声が掛けられた。
 高めの男の声。変に間延びした口調からは狂気が漏れ出ており、聞いたものを恐怖させるような響きがある。きっとイカれた眼をしているに違いない、と、暗闇に感謝しつつサーニャは一歩後ずさりをした。
 ともかく、これで何らかの事件に巻き込まれたことは確定的。いくら貧民街出身で無名のサーニャとはいえ、それぐらいの推察は容易にできた。

ーー状況は分からないけれど、ここにいるとよくないことは分かった。じゃあ、あとは、

「ーーどうやって逃げようか。……よもや、こんなことを思っているわけではないだろうねェ? もし、まさかないとは思うがもし仮にそうだとしたらお笑いものだよ君ィ。知らないところに連れてこられたというのに、拘束がないことを疑問に思わなかったのかね? クヒヒッ、逃げられるわけがないから。だから拘束をしなかったに決まっているだろう?」

 ニヤリ、と嗤う気配。
 それに応じるようにカツ、カツと正面から足音がサーニャに向かっていくが、金縛りにかかったかのように彼女の体は動かない。
 シーフとして、恐怖に対する耐性はそれなりにあるはずだ。まして金縛りになるなどあり得るはずもない。
 だが、現に。彼女の体はピクリとも動かない。

「え、あれ……? ねえ、動いてよ! なんで、……なんで……?」
「ハハハァッ!! だから言っただろう? 決して逃げられはしないと。……なァに、大したことをするわけではないさ。君はちょっとの間目を瞑り、それが終わったらあとは何も考えなくていいのだからねェ」

 悪魔の足音がサーニャの耳を震わせる。けれども、身体は動かない。
 目が覚めてから時間が経ったことで、闇の中を瞳が見通し始める。けれど見えるのは光ではなく、あくまで闇に浮かぶ何かである。
 具体的に言うならばそれは、少しずつ近づいてくる狂気に染まった男の笑みであった。

「ひっ……!!」

 カツーー、カツーー。
 足音が徐々に大きくなってゆく。
 そしてーー。

「さァ、永い眠りに就くがいい。なァに、安心したまえ。君はこれから大いに人の役に立てるのだ。これほど喜ばしいことは、そうそうあるまい?」

 身体は動かない。けれど男の手が近づくのを目がどうしようもなく捉えていて。
 男の手が、それが掴んでいる何かが、サーニャの首筋にゾワリと触れた。
 そしてーー。

 暗闇を貫くかん高い破砕音。
 同時に窓ガラスが割れ、部屋に光が差し込んだ。

ーーああ、なんだろう。酷く、眩しい……。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

ブラック企業で心身ボロボロの社畜だった俺が少年の姿で異世界に転生!? ~鑑定スキルと無限収納を駆使して錬金術師として第二の人生を謳歌します~

楠富 つかさ
ファンタジー
 ブラック企業で働いていた小坂直人は、ある日、仕事中の過労で意識を失い、気がつくと異世界の森の中で少年の姿になっていた。しかも、【錬金術】という強力なスキルを持っており、物質を分解・合成・強化できる能力を手にしていた。  そんなナオが出会ったのは、森で冒険者として活動する巨乳の美少女・エルフィーナ(エル)。彼女は魔物討伐の依頼をこなしていたが、強敵との戦闘で深手を負ってしまう。 「やばい……これ、動けない……」  怪我人のエルを目の当たりにしたナオは、錬金術で作成していたポーションを与え彼女を助ける。 「す、すごい……ナオのおかげで助かった……!」  異世界で自由気ままに錬金術を駆使するナオと、彼に惚れた美少女冒険者エルとのスローライフ&冒険ファンタジーが今、始まる!

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

転生先は上位貴族で土属性のスキルを手に入れ雑魚扱いだったものの職業は最強だった英雄異世界転生譚

熊虎屋
ファンタジー
現世で一度死んでしまったバスケットボール最強中学生の主人公「神崎 凪」は異世界転生をして上位貴族となったが魔法が土属性というハズレ属性に。 しかし職業は最強!? 自分なりの生活を楽しもうとするがいつの間にか世界の英雄に!? ハズレ属性と最強の職業で英雄となった異世界転生譚。

唯一無二のマスタースキルで攻略する異世界譚~17歳に若返った俺が辿るもう一つの人生~

専攻有理
ファンタジー
31歳の事務員、椿井翼はある日信号無視の車に轢かれ、目が覚めると17歳の頃の肉体に戻った状態で異世界にいた。 ただ、導いてくれる女神などは現れず、なぜ自分が異世界にいるのかその理由もわからぬまま椿井はツヴァイという名前で異世界で出会った少女達と共にモンスター退治を始めることになった。

ガチャと異世界転生  システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!

よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。 獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。 俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。 単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。 ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。 大抵ガチャがあるんだよな。 幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。 だが俺は運がなかった。 ゲームの話ではないぞ? 現実で、だ。 疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。 そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。 そのまま帰らぬ人となったようだ。 で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。 どうやら異世界だ。 魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。 しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。 10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。 そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。 5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。 残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。 そんなある日、変化がやってきた。 疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。 その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。

異世界転生特典『絶対安全領域(マイホーム)』~家の中にいれば神すら無効化、一歩も出ずに世界最強になりました~

夏見ナイ
ファンタジー
ブラック企業で過労死した俺が転生時に願ったのは、たった一つ。「誰にも邪魔されず、絶対に安全な家で引きこもりたい!」 その切実な願いを聞き入れた神は、ユニークスキル『絶対安全領域(マイホーム)』を授けてくれた。この家の中にいれば、神の干渉すら無効化する究極の無敵空間だ! 「これで理想の怠惰な生活が送れる!」と喜んだのも束の間、追われる王女様が俺の庭に逃げ込んできて……? 面倒だが仕方なく、庭いじりのついでに追手を撃退したら、なぜかここが「聖域」だと勘違いされ、獣人の娘やエルフの学者まで押しかけてきた! 俺は家から出ずに快適なスローライフを送りたいだけなのに! 知らぬ間に世界を救う、無自覚最強の引きこもりファンタジー、開幕!

異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~

松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。 異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。 「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。 だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。 牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。 やがて彼は知らされる。 その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。 金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、 戦闘より掃除が多い異世界ライフ。 ──これは、汚れと戦いながら世界を救う、 笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。

処理中です...