気付いたら、ゲーム世界の顔グラも無いモブだった

玄月白兎

文字の大きさ
18 / 19
第一章

第十七話

しおりを挟む
ーー現在のサーニャを闇ギルドが狙う価値があるとは思えない。彼女は今のところ唯のフリーの密偵だ。才能は当然あるのだろうが、貴族に仕えているわけでもないし名前が売れているわけでもない。

 だが現にサーニャは攫われており、そこになにか原因があるのは確かだ。
 闇ギルドはその名前の通り組織である。個人が動くものではなく集団が動くもの。勿論実際の運営をやっているのは一部の人間だが、下の者の考えが運営に及ぼす影響も皆無ではない。
 集団である以上、理由のない犯罪など基本的にありえない。誘拐などならなおさらだ。いきあたりばったりの犯行など組織の行うことではない。

ーーサーニャに保護者はいなかったはずだ。まあ強いて言うなら孤児院の院長なんだろうが、せいぜいそれぐらい。身代金目当ての誘拐ではないだろう。とすると、孤児院と闇ギルドの間に因縁でもあったのか?

 目撃者の男が、集団はサーニャ一人を連れて行ったと言っていたのを思い出す。
 孤児院は燃えていて、孤児院から連れられたのはサーニャ一人。他の孤児は逃げたか、あるいは、燃えたか。

ーーなんで燃やしたんだ? 証拠隠滅か、あるいは唯興が乗ったのか。

「クソッ……!」

ーー分からん! こうなったら闇ギルドまで行くしかッ!!

 思わず駆けだそうとするフリートの肩を、ヴァンがガチリと掴む。

「フリート」
「ヴァンさん、悪いけど手をどけてください。今なら場所は分かっているんです。だったらいかない理由はないでしょ」
「だがあそこは危険だ! あそこに行くぐらいならダンジョンの方がまだ安全だろう!」

 珍しく怒鳴り声がヴァンの口から洩れる。それほど無茶をしようとしているということなのだろう。
 実際帝都に住むものがフリートの行おうとしていることを見れば誰だって止めただろう。それほど危険なのだ。衛兵の詰め所がわざわざスラム近辺に数個あるといえばその危険度は分かるだろう。
 衛兵にとって犯罪者をまとめて監視できるメリットはあるが、警戒度はその分マックスだ。

「でも、それでも、このまま諦めるのは違うだろう。場所は分かってる。何をするかもハッキリしてる」
「だが、肝心の方法がなければ意味がないだろう!」

ーーそう、あとは方法だけ。闇ギルド内にいるサーニャを連れ出し、尚且バレないための方法。

 ゲーム知識、日本における知識、この世界に来てからの知識。その全てを用いてフリートは思考を走らせる。
 日本的思考でいくならばここは警察、この世界では衛兵に連絡するの一択だ。法を犯している相手なのだからそれが一番手っ取り早い。最も相手を逆上させて人質が危険になる可能性もあるが、この世界の衛兵はそれなりに強い。この作戦が成ればうまくいく可能性は十分にあると言えるだろう。
 だがここで他の知識が邪魔をする。
 というのも、そもそも衛兵が動くかがわからないという点だ。現代日本ならば基本的に警察は動く。誘拐ならばなおさらだろう。
 しかしこの世界では、というよりこの状況ではそれは異なる。
 貧民街は悪の巣窟だ。だが、放って置かれているのだ。触らぬ神に祟りなし。変に刺激しないように衛兵の抜き打ち調査等が入ることはない。
 つまり、本来衛兵にとっては関わりたくない場所であるスラムに来る可能性が低いのだ。むしろ何だかんだ言って時間稼ぎされる可能性が高い。ましてフリートは今学生の身。如何に貴族家といえど、即座に帝都の治安維持部隊である衛兵を動かせることはない。

ーーそもそもこれはゲームで存在している出来事なのかが問題だ。俺はほとんど関わっていないから恐らくゲームでも起きたことではあると思うんだが、昨日会っているという点で関わっていないとも言い切れない。……ええい、時間がない。ゲームでも起きた。そう仮定する。実際昨日一日でそう影響を及ぼしていることは無いだろう。こっちの方が確立が高い。

 仮定を元に推論を広げていく。
 ゲームでも起きたのならば、ゲームでは誰が救出したのか。フリートが最も知りたいことはこれだ。
 主人公ではない。サーニャは唯の貧民であることからして貴族階級の人間でもないだろうということは予測できる。そして貧民街のものは闇ギルドに逆らうことはしない。自分の住む場所がなくなるからだ。

「……。……誰も、助けられない……?」

ーー平民は助けない。貴族は助けない。貧民も助けない。だがゲームにおいて彼女はある貴族の部下だった。

 瞬間、脳でパチリと繋がる音がした。
 もしかして、とかあくまでそういう次元の一つの仮説。けれど何故だかフリートにはそれが真実なように感じられて。
 他に手立ては見つからなく、考える時間もありはしない。
 だから。

「ヴァンさん、闇ギルドへの殴り込みは止めます。……ただ、その代わり今から二ヵ所行きたいところが出来ました」
「……。何処だ?」

「衛兵詰め所。そして、ガイア子爵家帝都邸」

 サーニャが本来雇われるはずだった、その雇い主の家に。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

転生先は上位貴族で土属性のスキルを手に入れ雑魚扱いだったものの職業は最強だった英雄異世界転生譚

熊虎屋
ファンタジー
現世で一度死んでしまったバスケットボール最強中学生の主人公「神崎 凪」は異世界転生をして上位貴族となったが魔法が土属性というハズレ属性に。 しかし職業は最強!? 自分なりの生活を楽しもうとするがいつの間にか世界の英雄に!? ハズレ属性と最強の職業で英雄となった異世界転生譚。

ブラック企業で心身ボロボロの社畜だった俺が少年の姿で異世界に転生!? ~鑑定スキルと無限収納を駆使して錬金術師として第二の人生を謳歌します~

楠富 つかさ
ファンタジー
 ブラック企業で働いていた小坂直人は、ある日、仕事中の過労で意識を失い、気がつくと異世界の森の中で少年の姿になっていた。しかも、【錬金術】という強力なスキルを持っており、物質を分解・合成・強化できる能力を手にしていた。  そんなナオが出会ったのは、森で冒険者として活動する巨乳の美少女・エルフィーナ(エル)。彼女は魔物討伐の依頼をこなしていたが、強敵との戦闘で深手を負ってしまう。 「やばい……これ、動けない……」  怪我人のエルを目の当たりにしたナオは、錬金術で作成していたポーションを与え彼女を助ける。 「す、すごい……ナオのおかげで助かった……!」  異世界で自由気ままに錬金術を駆使するナオと、彼に惚れた美少女冒険者エルとのスローライフ&冒険ファンタジーが今、始まる!

【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。 この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。 ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。 少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。 更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。 そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。 少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。 どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。 少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。 冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。 すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く… 果たして、その可能性とは⁉ HOTランキングは、最高は2位でした。 皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°. でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )

異世界転生特典『絶対安全領域(マイホーム)』~家の中にいれば神すら無効化、一歩も出ずに世界最強になりました~

夏見ナイ
ファンタジー
ブラック企業で過労死した俺が転生時に願ったのは、たった一つ。「誰にも邪魔されず、絶対に安全な家で引きこもりたい!」 その切実な願いを聞き入れた神は、ユニークスキル『絶対安全領域(マイホーム)』を授けてくれた。この家の中にいれば、神の干渉すら無効化する究極の無敵空間だ! 「これで理想の怠惰な生活が送れる!」と喜んだのも束の間、追われる王女様が俺の庭に逃げ込んできて……? 面倒だが仕方なく、庭いじりのついでに追手を撃退したら、なぜかここが「聖域」だと勘違いされ、獣人の娘やエルフの学者まで押しかけてきた! 俺は家から出ずに快適なスローライフを送りたいだけなのに! 知らぬ間に世界を救う、無自覚最強の引きこもりファンタジー、開幕!

異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~

松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。 異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。 「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。 だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。 牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。 やがて彼は知らされる。 その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。 金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、 戦闘より掃除が多い異世界ライフ。 ──これは、汚れと戦いながら世界を救う、 笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。

異世界に転生した俺は英雄の身体強化魔法を使って無双する。~無詠唱の身体強化魔法と無詠唱のマジックドレインは異世界最強~

北条氏成
ファンタジー
宮本 英二(みやもと えいじ)高校生3年生。 実家は江戸時代から続く剣道の道場をしている。そこの次男に生まれ、優秀な兄に道場の跡取りを任せて英二は剣術、槍術、柔道、空手など様々な武道をやってきた。 そんなある日、トラックに轢かれて死んだ英二は異世界へと転生させられる。 グランベルン王国のエイデル公爵の長男として生まれた英二はリオン・エイデルとして生きる事に・・・ しかし、リオンは貴族でありながらまさかの魔力が200しかなかった。貴族であれば魔力が1000はあるのが普通の世界でリオンは初期魔法すら使えないレベル。だが、リオンには神話で邪悪なドラゴンを倒した魔剣士リュウジと同じ身体強化魔法を持っていたのだ。 これは魔法が殆ど使えない代わりに、最強の英雄の魔法である身体強化魔法を使いながら無双する物語りである。

処理中です...