気付いたら、ゲーム世界の顔グラも無いモブだった

玄月白兎

文字の大きさ
17 / 19
第一章

第十六話

しおりを挟む
「……先に待っているとか言ってたんだけどな。しょうがない、待つか」

 冒険者ギルドにある机を一通り見て回るが、サーニャの姿は無い。時刻は約束した時間通りのそれ。そもそも事前にいると言っていたのだから異常事態ではあるが、フリートは少し席を外したのだろうと座って待つことにした。
 だが、来ない。
 知り合いの冒険者たちと話しつつ時間を潰していたが、外を見れば空が赤み始めている。流石に遅刻でもここまで酷いものはないだろう。

ーー……、遅いな。いや、何かあったのか? もうここまで来たらおそらく来ないだろうし、孤児院にまた行ってみるか。

 そう思ってフリートが席を立った瞬間ギルドの扉が勢いよく開け放たれた。
 中にいた冒険者たちの視線が一斉に入り口に向かう。
 ヴァンだ。

「ここにいたか! フリート、貧民街でーー」
「ーーッ。分かった、すぐに行くぞ!!」

 全部を聞く前に立ち上がった。普段の敬語も忘れ、フリートは冒険者ギルドの外へ出ていく。
 ヴァンもそれに続き、そしてようやくギルドに静寂が戻る。残されたのは唖然とした冒険者だけ。一つの騒乱が始まろうとしていることに彼らはまだ気づいていない。
 最もそれは関係者であるフリートも、事件の犯人ですら、思っていなかったことなのだろう。


   * * *


「マジかよ……」

 斜陽が空を煌々と染める中、貧民街の一角では炎が辺りを赤く染め上げていた。場所は貧民街中層部。
 貧民街は確かに治安が悪い。帝国の衛兵も容易に立ち入れない場所であるため犯罪者が集まり、もし仮に衛兵による強引な調査が入ったとしたらかなりの数の犯罪者が捕まる事だろう。だがそんな貧民街でもある一定のラインというものは存在する。
 抵抗力のない孤児の住まう孤児院への放火。
 これは明らかにそのラインを超えるものだ。様々なトラブルはあったかもしれない。孤児院とはいえ土地の上に建っているのだから、孤児院の管理者は土地代の支払い等でそこら一帯をまとめる集団との関りが多少はあったはずだ。
 だが彼らはあくまで抵抗力の無い弱者だ。それを悪と見なす精神性はないかもしれないが、それをすることによる信頼の低下には多少気を配るだろう。

ーークソ、サーニャはどうなった!? 巻き込まれたのか!?

 辺りには野次馬が集まっている。

「ヴァンさん、サーニャらしき人を見なかったか聞いていきましょう。あっち側からお願いします。俺はこっちから聞いていきますので、何かわかったら報告を」
「了解だ」

 聞いていくうちに少しずつ情報が整理されていく。
 事件発生は午後四時程。唐突に孤児院が燃え出したのだとか。多くの野次馬は燃え上がってから見に来た者だったが、何人目かでようやくその前から孤児院を見ていた人がいた。
 孤児院の前に立っているボロ屋に住んでいる男だ。

「男が複数人で囲んでいた?」
「ああそうだ。多分奥にいる荒くれ達じゃねえかな。人っ子一人逃さねえ、みたいな囲みっぷりだったぜ。そんでバレると不味いから家からこっそり覗いてたんだけどよ、ちょっと経ってから火の手が上がり始めてたちまちこれだ。まあボロ孤児院なんてよく燃えそうだしな」

ーー犯罪者たちが囲んでいた? 闇ギルドの連中かな。ゲームでは途中関わることがあるが、確か一部貴族と裏でつながってるんだよな……。

「その囲んでいた男たちはどうしたんだ? 今はいないみたいだが」

 どう見ても不審な集団である。放火の犯人であるのはほぼ間違いないだろうと、フリートはその行方を聞く

「あー、火の手が上がってすぐ退散してってたな。やっぱ中にも数人入ったらしくてそいつらも出てきてたな。ああ、そういえばああいう連中には。一緒に若え女の子が出てきたときにゃーー」
「それ、どんな女だった? 白髪に黒目で小柄。そんなだったりしなかったか!?」

 急に焦ったような声を出し捲し立てるフリートに思わず男がたじろぐ。
 早く答えろ、と言わんばかりのフリートの表情。それに押されるようにして男は急かされるようにして答えた。

「あ、ああ。確かそんなだった。知り合いだったのか? だとしたら少し意外だな。アンタ貧民街に住んでるわけでもないだろうに、あんな連中の仲間と知り合いだなんてな。なんだ、そいつに会いに来たのか? だったら貧民街の深層の方に奴らは向かってたぜ」

 意外だと言う驚きと僅かな蔑みをもって男がフリートを笑う。自分より裕福な暮らしをするものが犯罪者に関わっていることに優越感を感じているのだろう。
 自分は苦しくても犯罪に関わらないのにお前は関わってるのか、と。
 生憎今のフリートに相手の表情を伺う余裕はない。というか、言い方は悪くなるが情報を出してくれた男にもうこれ以上の興味はなかった。礼もそこそこに急いでヴァンを見つけ、得た情報を伝える。

「深層に居るらしいです。はやく行きましょう」
「……待て。深層はここと比にならないほど危険だぞ。入ったことはないが、聞く限りでは俺だけで守りきれるかわからん」

 剣聖と呼ばれたヴァンに敵う人間などそう多くはいない。だが、人の悪意というのは武力が生み出す破壊力を容易に超えるものだ。
 例え何十もの人をヴァンが切り捨てようと、悪意を持ってすればほんの小さな罠で命を落とし得る。

ーー確かになんの用意もせず向かうのは危ない。しかし、だからといって時間もない。クソ、どうする? ……いや、まずは敵の目的を考えよう。奴らは何故サーニャを狙った?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

異世界転生特典『絶対安全領域(マイホーム)』~家の中にいれば神すら無効化、一歩も出ずに世界最強になりました~

夏見ナイ
ファンタジー
ブラック企業で過労死した俺が転生時に願ったのは、たった一つ。「誰にも邪魔されず、絶対に安全な家で引きこもりたい!」 その切実な願いを聞き入れた神は、ユニークスキル『絶対安全領域(マイホーム)』を授けてくれた。この家の中にいれば、神の干渉すら無効化する究極の無敵空間だ! 「これで理想の怠惰な生活が送れる!」と喜んだのも束の間、追われる王女様が俺の庭に逃げ込んできて……? 面倒だが仕方なく、庭いじりのついでに追手を撃退したら、なぜかここが「聖域」だと勘違いされ、獣人の娘やエルフの学者まで押しかけてきた! 俺は家から出ずに快適なスローライフを送りたいだけなのに! 知らぬ間に世界を救う、無自覚最強の引きこもりファンタジー、開幕!

ブラック企業で心身ボロボロの社畜だった俺が少年の姿で異世界に転生!? ~鑑定スキルと無限収納を駆使して錬金術師として第二の人生を謳歌します~

楠富 つかさ
ファンタジー
 ブラック企業で働いていた小坂直人は、ある日、仕事中の過労で意識を失い、気がつくと異世界の森の中で少年の姿になっていた。しかも、【錬金術】という強力なスキルを持っており、物質を分解・合成・強化できる能力を手にしていた。  そんなナオが出会ったのは、森で冒険者として活動する巨乳の美少女・エルフィーナ(エル)。彼女は魔物討伐の依頼をこなしていたが、強敵との戦闘で深手を負ってしまう。 「やばい……これ、動けない……」  怪我人のエルを目の当たりにしたナオは、錬金術で作成していたポーションを与え彼女を助ける。 「す、すごい……ナオのおかげで助かった……!」  異世界で自由気ままに錬金術を駆使するナオと、彼に惚れた美少女冒険者エルとのスローライフ&冒険ファンタジーが今、始まる!

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

唯一無二のマスタースキルで攻略する異世界譚~17歳に若返った俺が辿るもう一つの人生~

専攻有理
ファンタジー
31歳の事務員、椿井翼はある日信号無視の車に轢かれ、目が覚めると17歳の頃の肉体に戻った状態で異世界にいた。 ただ、導いてくれる女神などは現れず、なぜ自分が異世界にいるのかその理由もわからぬまま椿井はツヴァイという名前で異世界で出会った少女達と共にモンスター退治を始めることになった。

【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。 この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。 ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。 少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。 更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。 そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。 少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。 どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。 少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。 冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。 すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く… 果たして、その可能性とは⁉ HOTランキングは、最高は2位でした。 皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°. でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )

ガチャと異世界転生  システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!

よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。 獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。 俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。 単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。 ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。 大抵ガチャがあるんだよな。 幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。 だが俺は運がなかった。 ゲームの話ではないぞ? 現実で、だ。 疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。 そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。 そのまま帰らぬ人となったようだ。 で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。 どうやら異世界だ。 魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。 しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。 10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。 そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。 5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。 残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。 そんなある日、変化がやってきた。 疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。 その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。

処理中です...