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turning point
仕事のオファー ②
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ミドリ・カミノクラ。アーネストやショーティの月学園での同期であり、現在も細々とアーネストと親睦のある人物でもあり、そして現在は月学園での教官が所有する研究所の主席研究員であり、アーネストほど華々しくはなくともその名は世界中の研究機関には知れ渡っている人物であった。
その彼が、地球を離れるということが可能なのだろうかと思う。テラ・フォーミングの一端を担っているミドリにしてみれば、最新情報はルナⅡというコンピューターに届けられるにしても、研究の成果の実際を確認するために火星に行くことを希望していたが政府に却下されたと零していた。ミドリの教官も反対していたと聞く。
それはそうだろうと思う。以前ならばとにかく、今ミドリは世界的に展開している研究も幾つか抱えており、しかもリーダー的ポジションなのだ。
「いやぁ、スイのプロジェクト、一つ完璧に終わらせちゃったらしく……」
「え……、終わらせたのですか………?」
「そう…。ヨハネがスイに受け持っている内の一つでも終わらせたら火星行きも考えるなんて言ってたらしく…」
ヨハネ・デウェルナー。ミドリの学園時代の恩師で現在の上司の科学者である。それこそ天才的な。けれども彼は最近ミドリを表舞台に立たせ自身は黒子に徹しようとしていた。
「その上火星のテラ・フォーミングでスイに直接見てほしい案件もあるとかで……」
「誰がですか?」
「………地球政府…」
天は彼に味方したらしい。
この時期に課題を終えたミドリがいて、また火星でミドリを呼ぶ用件があり。
「それで?地球政府の回答は?」
「今回の火星行きは些細な事故も起こすことなかれ。防ぎきれ」
カナン効果がここまで波及したかと呆れるアーネストであったが、一方で頭の中は目まぐるしく計算していた。地球政府としてもここでミドリ・カミノクラという有望な博士を失うわけにはいかない。別に他の人間の生命を軽んじるわけではないが、テラ・フォーミングには欠かせない人物である。どうあろうと守ろうとするだろう。
「ミドリを運ぶのは?」
「月軍だ。威信にかけても連れ帰るよう命令されている」
「期間は?」
「半年。それ以上は絶対に不可とヨハネに釘を刺されている」
今回のからくりが見えた気がした。
「まさかショーティに白羽の矢が立ったのは、ミドリの知己だからですか?」
「それだけじゃないぞ。絶対にそれだけじゃないが……それもある」
「ショーティには伝えてないんですね?」
「当たり前。絶対に言わない」
ショーティは自分にとってチャンスになればそんなことは笑い飛ばして実をとるだろうから、そこまで禁止する必要はないだろうが。
ただ今回スポットが当たっているのは、ミドリだった。ミドリを安全かつ迅速に火星―地球間を移行させることが目的で、そこには精神的配慮もあるのだろう。火星へは今は民間機も計画的に出ているが、軍の宇宙船の方が最新で安全である。半面軍だからこそ内装は軍仕様であり、一般人向きではないのである。そこを知己でフォローすることで少しでも彼の安寧を図ろうとしているのだろう。
ショーティは…ミドリの安息になるのかな……?
ミドリにとってカナン以外は似たり寄ったりだろう。だったらカナンの方がと言いそうになったが、彼はジャーナリストではない。しかし宇宙パイロット。操縦席にずっといられたらミドリのお守りはできないといったところか。
「ミドリには図書館さえ開放すれば、そこから出てきませんよ?」
「そうは言っても応対するこっちの身にもなってくれ。下手したらスイの不快はこっちの失態になるんだから」
そんな不平はミドリは言わないだろうに…。そう思い、レオンもそう考えていることはわかった。しかしこれが預かる『立場』なのだろう。
しかし…と再度思案する。
これだけ軍が万全を期しているのだ。事故の確率は格段に下がるし、ショーティは精神安定剤?も兼ねているなら基本行動はミドリと一緒だろう。それだけでもショーティの安全は確保される。それに…と思う。前回のミドリの火星の時もカナンは行ったのだ。一民間人が、火星に行った……。ありえないことができるのが、カナン・フィーヨルドである。また今回もミドリのもとにいくのだろうなと安易に想像でき、その底力に呆れるやら羨ましいやらである。
アーネストは、クスリと笑った。
それでも、僕には僕のやり方があるだろうと。
「やな笑いだなぁ」
「そうですか?ショーティに真実を伝えていない人に言われたくはありませんね」
「別にスイ一人のために全てが動いているわけじゃない。今が火星の広告を打つにもいい時期で」
「一石二鳥には変わりありませんよね?」
アーネストは、にっこりとそう告げる。
「……………」
画面のレオンの瞳が揺らいだ。
その彼が、地球を離れるということが可能なのだろうかと思う。テラ・フォーミングの一端を担っているミドリにしてみれば、最新情報はルナⅡというコンピューターに届けられるにしても、研究の成果の実際を確認するために火星に行くことを希望していたが政府に却下されたと零していた。ミドリの教官も反対していたと聞く。
それはそうだろうと思う。以前ならばとにかく、今ミドリは世界的に展開している研究も幾つか抱えており、しかもリーダー的ポジションなのだ。
「いやぁ、スイのプロジェクト、一つ完璧に終わらせちゃったらしく……」
「え……、終わらせたのですか………?」
「そう…。ヨハネがスイに受け持っている内の一つでも終わらせたら火星行きも考えるなんて言ってたらしく…」
ヨハネ・デウェルナー。ミドリの学園時代の恩師で現在の上司の科学者である。それこそ天才的な。けれども彼は最近ミドリを表舞台に立たせ自身は黒子に徹しようとしていた。
「その上火星のテラ・フォーミングでスイに直接見てほしい案件もあるとかで……」
「誰がですか?」
「………地球政府…」
天は彼に味方したらしい。
この時期に課題を終えたミドリがいて、また火星でミドリを呼ぶ用件があり。
「それで?地球政府の回答は?」
「今回の火星行きは些細な事故も起こすことなかれ。防ぎきれ」
カナン効果がここまで波及したかと呆れるアーネストであったが、一方で頭の中は目まぐるしく計算していた。地球政府としてもここでミドリ・カミノクラという有望な博士を失うわけにはいかない。別に他の人間の生命を軽んじるわけではないが、テラ・フォーミングには欠かせない人物である。どうあろうと守ろうとするだろう。
「ミドリを運ぶのは?」
「月軍だ。威信にかけても連れ帰るよう命令されている」
「期間は?」
「半年。それ以上は絶対に不可とヨハネに釘を刺されている」
今回のからくりが見えた気がした。
「まさかショーティに白羽の矢が立ったのは、ミドリの知己だからですか?」
「それだけじゃないぞ。絶対にそれだけじゃないが……それもある」
「ショーティには伝えてないんですね?」
「当たり前。絶対に言わない」
ショーティは自分にとってチャンスになればそんなことは笑い飛ばして実をとるだろうから、そこまで禁止する必要はないだろうが。
ただ今回スポットが当たっているのは、ミドリだった。ミドリを安全かつ迅速に火星―地球間を移行させることが目的で、そこには精神的配慮もあるのだろう。火星へは今は民間機も計画的に出ているが、軍の宇宙船の方が最新で安全である。半面軍だからこそ内装は軍仕様であり、一般人向きではないのである。そこを知己でフォローすることで少しでも彼の安寧を図ろうとしているのだろう。
ショーティは…ミドリの安息になるのかな……?
ミドリにとってカナン以外は似たり寄ったりだろう。だったらカナンの方がと言いそうになったが、彼はジャーナリストではない。しかし宇宙パイロット。操縦席にずっといられたらミドリのお守りはできないといったところか。
「ミドリには図書館さえ開放すれば、そこから出てきませんよ?」
「そうは言っても応対するこっちの身にもなってくれ。下手したらスイの不快はこっちの失態になるんだから」
そんな不平はミドリは言わないだろうに…。そう思い、レオンもそう考えていることはわかった。しかしこれが預かる『立場』なのだろう。
しかし…と再度思案する。
これだけ軍が万全を期しているのだ。事故の確率は格段に下がるし、ショーティは精神安定剤?も兼ねているなら基本行動はミドリと一緒だろう。それだけでもショーティの安全は確保される。それに…と思う。前回のミドリの火星の時もカナンは行ったのだ。一民間人が、火星に行った……。ありえないことができるのが、カナン・フィーヨルドである。また今回もミドリのもとにいくのだろうなと安易に想像でき、その底力に呆れるやら羨ましいやらである。
アーネストは、クスリと笑った。
それでも、僕には僕のやり方があるだろうと。
「やな笑いだなぁ」
「そうですか?ショーティに真実を伝えていない人に言われたくはありませんね」
「別にスイ一人のために全てが動いているわけじゃない。今が火星の広告を打つにもいい時期で」
「一石二鳥には変わりありませんよね?」
アーネストは、にっこりとそう告げる。
「……………」
画面のレオンの瞳が揺らいだ。
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