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その輝きは誰のため
苦手意識…?
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scene.1
『“アーネストって、うわぁ、こいつめちゃくちゃ嫌いだ。話もしたくない!って人、いないの?”』
金の波打つ髪を持つ愛らしい表情には似つかわしくないほどに顔をしかめ、百面相よろしく問い掛けたキャサリン・マクリラールの言葉が脳裏をよぎった。それはつい先日、顔を見せた時の出来事であったが、アーネストはそんなことを思い出すほどこの人物と相対したくないのだと、ふと気付く。
とはいえ別段仕事のつながりがあるとか、生活上になんら欠かせない人物ではないのでさほど気にならないのではあるが。ただ。
「この間は世話になったな」
少し癖のあるイントネーションと有色人種の独特な雰囲気をかもし出しながらコーヒースタンドから出てきたジャック・ニクスの姿にアーネストは歩を止めるつもりはなかったが、ついと立ち止まった。
そのまま3ヶ月ほど前のことを言っているのだろうか、と思う。
本来彼はパートナーであるショーティの知り合いだ。彼がこうして話し掛けたいのもアーネストではなくショーティの方だろうと踏んでいる。そのショーティと彼が最近また接点を持ったのかもしれないが、それはアーネストの与り知らぬところだ。
しかし、何が楽しいのか彼は見かけたアーネストに声をかけてきた。
「たかだか3ヶ月前なのに、随分淋しい反応だな」
まるで独り言のように告げるジャックに、ちらりと視線を走らせる。何を告げたいのか探るためだったがそんな素振りはもちろん外には見せない。そして別段彼が何を告げようが関係はないのだと思うと、それもやめて軽く息をつくと、
「その節はショーティがお世話になりました。……それでは、」と口を開いた。しかし、
「そういや。…さすがにセンスがいいな」
主語のない呼びかけは、彼が軽く耳を指さしていることで内容を把握する。けれどそれもどうでもいいことだった。彼と友好を深めるつもりはないのだ。それは好き嫌い以前の問題で、ただ苦手なのだと今更ながらに自覚する。そして何が苦手なのかを問い詰める必要もないことをアーネストは知っていた。そのため軽い会釈と笑みで歩き去ろうとしたが、
「前はピアス自体倦厭してたが。……シルバーのピアスなんて緩すぎて左耳落っことして皆で爆笑」
以前、ビデオで見た幼いショーティの姿が一瞬脳裏に浮かぶが、それよりも何よりもピアスを倦厭していた事にアーネストはジャックを見た。
学生時代からずっとショーティの耳にはピアスがあった。確かにTPOで変えるなどまめなところを見たことはない。しかし、別段嫌がっている素振りは見たことがなかった。
石の良さだけではない性能にも、自分の耳に存在することに、“いいね”と見せた笑み。
幼さを幾分残し、けれど誘うように、“どう?”と問うてきた楽しそうな笑みがアーネストの脳裏で揺れる。
≪ああ、そうか≫
そしてアーネストは思った。
以前と今を比べてしまうからこの男は苦手なのかもしれない、と。
当時の友人たちの中で、唯一ショーティが苦手意識をもっているのではと捉えてしまったジャックの存在。特に何があったと聞いたわけではないが、どこか他のメンバーとは違う印象がはっきりとアーネストの中に残っていた。そしてそれはいまだに払拭できないのだが、ショーティ本人がどうでもいい、と言っている存在を気にするほど暇ではない。
そもそもタイプが違うので、これから先も一緒に仕事をすることもないだろう。
「そういや、昔のガラス玉はどうした?……もう捨てちまったか。そういうところははっきりしてるからな。…っと、そうだ。ちょうどいい。伝えといてくれるか?例の件もな、気が向いたら頼むと。お前さんの口から出れば、少しは気が変わるかもしれねぇ」
「それは無理でしょう?」
理由はあえて口にしなかった。にこりと、ただ笑みを携えて告げるアーネストに、ジャックは一瞬言葉に詰まったような表情を見せてから、
「いつも忘れそうになるぜ。アーネスト……アナザーという人物をな」
笑みをつくる口元にシガーを咥える。どうやらジャックもショーティが人の言葉で動く人物でないことを思い出したようだった。更に言うなら、アーネストがそのような伝言をするはずもないことを。アーネストとしても危険の付きまとうジャックとの仕事は、ショーティが好んで受ける仕事ならばまだしも、NOを突きつけているのなら余計と認められない。危険なことには踏み込んで欲しくないと思う。なので軽い会釈のようにも取れる姿勢でジャックに背を向けると、アーネストは歩き出した。後方の気配もどこか歩き出すようなものを察し、アーネストはふとショーティの言葉を思い出す。
『ああ、そんなのただ構いたいだけだから気にしないで。軽く無視しとけばいいよ。なんかさ、アーネストって人気あるんだよね。ゴールドマンといいジャックだって。今はもうアーネスト狙ってるよ』
ショーティが気にするほど他人の興味が自分に向いているとは思っていないアーネストである。だからこそ思う。
「今も、まだ、かもしれないよ、ショーティ」
ジャックはショーティを手に入れたがっている。
『“アーネストって、うわぁ、こいつめちゃくちゃ嫌いだ。話もしたくない!って人、いないの?”』
金の波打つ髪を持つ愛らしい表情には似つかわしくないほどに顔をしかめ、百面相よろしく問い掛けたキャサリン・マクリラールの言葉が脳裏をよぎった。それはつい先日、顔を見せた時の出来事であったが、アーネストはそんなことを思い出すほどこの人物と相対したくないのだと、ふと気付く。
とはいえ別段仕事のつながりがあるとか、生活上になんら欠かせない人物ではないのでさほど気にならないのではあるが。ただ。
「この間は世話になったな」
少し癖のあるイントネーションと有色人種の独特な雰囲気をかもし出しながらコーヒースタンドから出てきたジャック・ニクスの姿にアーネストは歩を止めるつもりはなかったが、ついと立ち止まった。
そのまま3ヶ月ほど前のことを言っているのだろうか、と思う。
本来彼はパートナーであるショーティの知り合いだ。彼がこうして話し掛けたいのもアーネストではなくショーティの方だろうと踏んでいる。そのショーティと彼が最近また接点を持ったのかもしれないが、それはアーネストの与り知らぬところだ。
しかし、何が楽しいのか彼は見かけたアーネストに声をかけてきた。
「たかだか3ヶ月前なのに、随分淋しい反応だな」
まるで独り言のように告げるジャックに、ちらりと視線を走らせる。何を告げたいのか探るためだったがそんな素振りはもちろん外には見せない。そして別段彼が何を告げようが関係はないのだと思うと、それもやめて軽く息をつくと、
「その節はショーティがお世話になりました。……それでは、」と口を開いた。しかし、
「そういや。…さすがにセンスがいいな」
主語のない呼びかけは、彼が軽く耳を指さしていることで内容を把握する。けれどそれもどうでもいいことだった。彼と友好を深めるつもりはないのだ。それは好き嫌い以前の問題で、ただ苦手なのだと今更ながらに自覚する。そして何が苦手なのかを問い詰める必要もないことをアーネストは知っていた。そのため軽い会釈と笑みで歩き去ろうとしたが、
「前はピアス自体倦厭してたが。……シルバーのピアスなんて緩すぎて左耳落っことして皆で爆笑」
以前、ビデオで見た幼いショーティの姿が一瞬脳裏に浮かぶが、それよりも何よりもピアスを倦厭していた事にアーネストはジャックを見た。
学生時代からずっとショーティの耳にはピアスがあった。確かにTPOで変えるなどまめなところを見たことはない。しかし、別段嫌がっている素振りは見たことがなかった。
石の良さだけではない性能にも、自分の耳に存在することに、“いいね”と見せた笑み。
幼さを幾分残し、けれど誘うように、“どう?”と問うてきた楽しそうな笑みがアーネストの脳裏で揺れる。
≪ああ、そうか≫
そしてアーネストは思った。
以前と今を比べてしまうからこの男は苦手なのかもしれない、と。
当時の友人たちの中で、唯一ショーティが苦手意識をもっているのではと捉えてしまったジャックの存在。特に何があったと聞いたわけではないが、どこか他のメンバーとは違う印象がはっきりとアーネストの中に残っていた。そしてそれはいまだに払拭できないのだが、ショーティ本人がどうでもいい、と言っている存在を気にするほど暇ではない。
そもそもタイプが違うので、これから先も一緒に仕事をすることもないだろう。
「そういや、昔のガラス玉はどうした?……もう捨てちまったか。そういうところははっきりしてるからな。…っと、そうだ。ちょうどいい。伝えといてくれるか?例の件もな、気が向いたら頼むと。お前さんの口から出れば、少しは気が変わるかもしれねぇ」
「それは無理でしょう?」
理由はあえて口にしなかった。にこりと、ただ笑みを携えて告げるアーネストに、ジャックは一瞬言葉に詰まったような表情を見せてから、
「いつも忘れそうになるぜ。アーネスト……アナザーという人物をな」
笑みをつくる口元にシガーを咥える。どうやらジャックもショーティが人の言葉で動く人物でないことを思い出したようだった。更に言うなら、アーネストがそのような伝言をするはずもないことを。アーネストとしても危険の付きまとうジャックとの仕事は、ショーティが好んで受ける仕事ならばまだしも、NOを突きつけているのなら余計と認められない。危険なことには踏み込んで欲しくないと思う。なので軽い会釈のようにも取れる姿勢でジャックに背を向けると、アーネストは歩き出した。後方の気配もどこか歩き出すようなものを察し、アーネストはふとショーティの言葉を思い出す。
『ああ、そんなのただ構いたいだけだから気にしないで。軽く無視しとけばいいよ。なんかさ、アーネストって人気あるんだよね。ゴールドマンといいジャックだって。今はもうアーネスト狙ってるよ』
ショーティが気にするほど他人の興味が自分に向いているとは思っていないアーネストである。だからこそ思う。
「今も、まだ、かもしれないよ、ショーティ」
ジャックはショーティを手に入れたがっている。
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