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精霊の加護044 双子山と風の谷
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精霊の加護
Zu-Y
№44 双子山と風の谷
俺たちは客間から道場に移動することになった。多くの門人がいる中で、ビーチェさんとロレンツォが手合わせをすることになったのだ。
結構上位っぽい門人が審判に指名され、ビーチェさんとロレンツォが、スキル抜きの刀術のみで手合わせを始めた。
ふたりは互いに物凄く速い剣戟で一進一退、なかなか勝負がつかなかった。しかし一本は入らないものの、ビーチェさんが数太刀ほど浅いのを入れており、実戦ならビーチェさんの勝ちなのは明らかだった。
「それまでっ!引き分け。」道場主で筆頭師範のビーチェさんの御父上、ピエトロさんから終了の声が掛かった。
「姉貴、腕を上げたな。浅いのを数太刀貰ったから、実戦なら俺の負けだ。」
「若、実戦なら、スキルを使えますんで若の勝ちですよ。」審判をしてた門人が言った。このおべっか使いめ!しかもニヤッとした笑いから、ビーチェさんを舐めてることが伝わって来る。
「じゃぁ、僕とやる?スキルありでいいよ。」
「お嬢、失礼ですがスキルありでは勝負になりませんよ。」
「僕がお前程度に負ける訳ないだろっ。」ビーチェさんのこのひと言に、門人は明らかにムッとした。
「お嬢、手加減しませんよ。」
「じゃぁ、僕は少しだけ手加減して上げるよ。」
勝負にならなかった。ビーチェさんは、門人がスキルを発動しての連撃をまったく寄せ付けず、すべて余裕で受け流した。まったくかすりもしない。道場中が息を飲んで静まり返った。道場内に響くのは、門人の荒れた呼吸音のみ。
「えー?もう終わりなの?」
「おのれ、お嬢とてもはや容赦はぜんぞ。」
「僕はそれなりに容赦してやるよ。」
逆上した門人は、華麗と言う言葉とはまったく無縁の強引な連撃を再び繰り返したが、ビーチェさんはすべて華麗に受け流してしまった。汗ひとつ掻いてないし、息も穏やかだ。
「それまでっ!」ピエトロさんが止めた。
「くっそー!」やめの号令が掛かった後なのに、再び門人がビーチェさんに連撃を繰り出したと思ったら、門人の体は宙に浮いて、次の瞬間、壁に叩き付けられていた。
何のことはない、ビーチェさんがひと突き入れただけだ。もちろんスキルは使っていない。門人は完全に伸びていた。もろに鳩尾に入ったもんな。
「せっかくパパが止めてくれたのに。」ビーチェさんが肩をすくめている。
「ビーチェ、少しは手加減せよ。」
「パパ、見てたよね?手加減しまくりだよ。」
「姉貴、もう一戦やろうぜ。今度はスキルありで。」
「もういいわ、ロレン。それにビーチェもよ。」御母上が止めた。
「はーい、ママ。じゃぁロレン、そう言うことで、もう、おしまいっ。」
夕餉のとき、ビーチェさんの御父上、御母上、弟のロレンツォと、俺たちスピリタスで食卓を囲んでいた。いい塩梅に、皆、酒が進んでいる。
「そう言う訳で、今の僕の魔力量は1800なんだよ。だから初級スキルはどれも問題なく、連続で発動できるんだよね。」
「なぁ、姉貴、もう一戦やろうぜ。」
「ロレン、やめておけ。」しきりに再戦をしたがるロレンツォを、ピエトロさんが止めた。
「親父、何でだよ。」
「おめぇは跡取りだぞ。ビーチェに負けられちゃあ困るんだよ。」
「俺が姉貴に負けるって言うのかよ!」
「そうだ。昔ならいざ知らず、今のビーチェはスキルを連発できるんだぞ。大体、おめぇもそう思っているから勝負に拘ってるんだろうが?」
「姉貴に負けるとなんざ、思ってねぇよ。」ロレンツォはそっぽを向いた。そう思ってるんだな。苦笑
「まぁまぁ、あなたもロレンもその辺にしときなさいな。
それにしても、マルコさんから、ビーチェが冒険者に戻ったって手紙を貰ったときは驚いたけど、こう言うことなら納得だわ。ゲオルクさん、本当にありがとうね。
あら?あなた、何、苦虫を噛み潰したような顔をしてるのよ。」
エンマさんがピエトロさんに突っ込んだ。
「そんな顔してねぇよ。」
「してるわよ。それにビーチェはもう適齢期なんですからね。いい相手を見付けて来てよかったじゃないですか。」
「だってよう、ゲオルクは刀術の『と』の字も知らねぇんだぞ。うちの婿が務まる訳ないだろう。」
「なんで婿取りの話になってるのよ。うちの跡取はロレンで、ビーチェは嫁に出すのよ。いつまでもぐだぐだ言ってないで分別しなさいな。」
「でもよう。」
「大体ゲオルクさんには、あのマルコさんとジューリアさんが一目置いてるのよ。」
「くー、マルコの野郎、ぜってぇ俺をあざ笑ってやがる。あいつには娘がいねぇから、この身を切られるような思いが分からねぇんだ。」
「いや、お義父さん、マルコさんは、それはもうビーチェさんのことを…。」
「ゲオルク、てめぇこの野郎、お義父さんとか気安く呼ぶんじゃねぇ。
あ、痛ぇ!エンマ、いきなり何しやがる!」
エンマさんがピエトロさんの頭を引っ叩いていた。笑
「あんた、いい加減にしなっ。みっともないったらありゃしない!」
「そうだよ、親父。みっともねぇぜ。こんなじゃじゃ馬の姉貴を貰ってくれるんだからありがてぇじゃねえか!」
「ロレン、こんなじゃじゃ馬の姉貴とは何よ!僕に敵わないくせに。」
「なんだと!」
「いい加減におしっ!」エンマさんの一喝で、ピエトロさんも、ビーチェさんも、ロレンツォも黙ってしまった。一番強いのはエンマさんだな。笑
しかし、ビーチェさんの家族は、本当に刀術一辺倒だった。
俺が精霊魔術師だってビーチェさんが紹介しても「「「あっそ。」」」で終わりだった。こう言う反応は今まで見たことない。
精霊たちについても「「「へぇー。」」」で終わりだった。なんか超薄い反応で、拍子抜けである。苦笑
いっぺん精霊魔法をじかに見せた方がいいかもしれない。
翌朝、朝餉の席でピエトロさんが切り出した。
「ゲオルク、一晩考えたんだがよう、やっぱりビーチェを託すにゃ俺が見極めた男じゃなきゃなんねぇ。」
「あなた、いい加減に…。」
「うるせぇ!引っこんでろい。
でだ、せめてロレンと互角に渡り合えるくらいじゃなきゃ、許可できねぇ。言ってることは分かるな?」
もちろん分かる。こちらとしても、刀術しか頭にない連中に、精霊魔法を見せ付けるいいチャンスではあるが、とっとと風の谷のポリーナに行きたい。
「でもですねぇ。俺の得物は弓矢ですよ。あとは精霊魔法です。刀術なんてできませんよ。」
「いや、異種戦で構わねぇ。」
「しかしですねぇ、LアタッカーとSアタッカーじゃ、間合いが違い過ぎて、異種戦も減ったくれもないと思うんですが?」
「道場内でやってもらうから問題ねぇよ。」
「それだとLアタッカーの俺には間合いが近過ぎですよ。せめて庭にしませんか?」
「俺はいいよ。」ロレンツォが言った。
結局、朝餉の後、俺とロレンツォは庭で対峙している。
話の流れで、俺はロレンツォと勝負することになったんだが、手加減しなくても構わないだろうか?そもそも、距離が十分にあればLアタッカーはSアタッカーにはまず負けない。
「スキルも魔法もあり。降参か戦闘不能で決着。殺傷は禁止だ。いいな?」ピエトロさんのルール確認が済んだ。
「いいですよ。」「俺もOK。」
「では始め!」
ロレンツォがダッシュで間合いを詰めて来た。だがしかし…。
「ワラ、ツリ。」
『『はーい。』』
ロレンツォに顔に大量の水をぶっ掛け、ほんの一瞬だけ怯ませた隙に、地面から蔓を生やして拘束した。雁字搦めにされ、芋虫のように地面に転がってもがくロレンツォ。
「審判、判定!」俺が促すと、ピエトロさんが苦々しげに、
「え?あ、ああ、勝者、ゲオルク。」と宣言した。
「だから言ったじゃないですか。間合いが違い過ぎるって。」ピエトロさんがムスッとしている。返事、しねーし。
「くっそう、次は道場内で再戦だ!」悔しがるロレンツォ。
「やだよ、道場内じゃ間合いが近過ぎて俺には不利だ。」
「なんだとー!ゲオルク、てめぇ、勝ち逃げする気か?それと早くこの蔓、ほどけ!」ロレンツォは無駄にもがいている。
ビーチェさんが蔓を解きに行った。
「ロレン、諦めなよ。ゲオっちに敵う訳ないじゃん。僕だって敵わないんだよ。」
「え?姉貴も負けたのか?」
「負けてないよ。だって、戦ってないもん。でもゲオっちがリヴァイアサンを追っ払うところを見てたからね。僕が敵わないことぐらいは分かるよ。」
「「「リヴァイアサン?」」」ピエトロさんと、エンマさんと、ロレンツォがハモった。
「うん、ゲオっちの精霊たちが魔力を放出して威嚇したら、リヴァイアサンは一目散に逃げて行ったよ。そしたらそれまで荒れてた海が嘘みたいに静まったんだよねー。ちなみにその魔力の出どころはゲオっちだからね。」
「「「…。」」」ピエトロさんたち3人は絶句したままだ。笑
『ゲオルクー、補給ー。』『ワラもー。』
ツリとワラがたった今、使った魔力の補給をしに来た。ちゅーちゅー×2。
「あのー、誤解のないように言っときますが、今のが精霊への魔力の補給です。」
「「「…。」」」3人は絶句したままだった。苦笑
風の谷の北側の入口の村、ポリーナには、ラクシーサから馬車で半日。ラクシーサの中心街から、行商馬車が不定期に出てると言うので、俺たちは中心街に行った。ちなみに風の谷の南側は外洋に面した断崖だ。
行商馬車は昼に出ると言うので、乗せてもらうことにしたのだが、出発までしばらく時間があるから、それまでラクシーサの町を見て回ることにした。
南部群島が珊瑚環礁なだけあって、ラクシーサの特産品も珊瑚である。珊瑚は装飾品に加工されるが、能力補正が付与された珊瑚のブレスレットが売っていた。当然ここでもお姉様方に珊瑚のブレスレットをプレゼントするしかない!
リーゼさんは攻魔、ジュヌさんは回復、カルメンさんは支援、ベスさんは防御、ビーチェさんは疾風、そして俺は集中の能力補正が、それぞれ付与された珊瑚のブレスレットをお揃いで購入した。
日が暮れる頃、ポリーナに着いた。風の谷と言う割には風が吹いていないな、と思ったのだが、よくよく考えると朝と夕方は凪の時間帯だ。
風の谷は、吹き抜ける風を利用して風車を回し、様々な工作機器を動かしている。機織機による紡績、ふいごによる鍛冶、穀物の脱穀、製粉などを行っていて、言わばリシッチャ島の工業地帯である。
ポリーナに着く手前から紫色の精霊の数が増えていた。ポリーナにもあちこちに紫色の精霊がいる。小さな精霊なので簡単な思念の交換しかできないが、どれも友好的である。
俺たちはポリーナの宿屋に入った。例によって部屋割りは俺と精霊たちの部屋、お姉様方の女子部屋だ。
この村の工作機器は、風車が回る昼と夜に稼働するので、工員は二交代制となる。このため夜も店が開いていてそれなりに賑やかだ。村と言うよりは町に近い。夕餉は宿屋の近くの居酒屋で摂り、夜はお姉様方の女子部屋で宴会となった。
明日は風の谷を奥まで入る。最奥は島の南岸で断崖になってると言うので、風の精霊はその手前にいるかもしれない。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
設定を更新しました。R4/4/3
更新は火木土の週3日ペースを予定しています。
2作品同時発表です。
「射手の統領」も、合わせてよろしくお願いします。
https://kakuyomu.jp/works/16816927859461365664
カクヨム様、小説家になろう様にも投稿します。
Zu-Y
№44 双子山と風の谷
俺たちは客間から道場に移動することになった。多くの門人がいる中で、ビーチェさんとロレンツォが手合わせをすることになったのだ。
結構上位っぽい門人が審判に指名され、ビーチェさんとロレンツォが、スキル抜きの刀術のみで手合わせを始めた。
ふたりは互いに物凄く速い剣戟で一進一退、なかなか勝負がつかなかった。しかし一本は入らないものの、ビーチェさんが数太刀ほど浅いのを入れており、実戦ならビーチェさんの勝ちなのは明らかだった。
「それまでっ!引き分け。」道場主で筆頭師範のビーチェさんの御父上、ピエトロさんから終了の声が掛かった。
「姉貴、腕を上げたな。浅いのを数太刀貰ったから、実戦なら俺の負けだ。」
「若、実戦なら、スキルを使えますんで若の勝ちですよ。」審判をしてた門人が言った。このおべっか使いめ!しかもニヤッとした笑いから、ビーチェさんを舐めてることが伝わって来る。
「じゃぁ、僕とやる?スキルありでいいよ。」
「お嬢、失礼ですがスキルありでは勝負になりませんよ。」
「僕がお前程度に負ける訳ないだろっ。」ビーチェさんのこのひと言に、門人は明らかにムッとした。
「お嬢、手加減しませんよ。」
「じゃぁ、僕は少しだけ手加減して上げるよ。」
勝負にならなかった。ビーチェさんは、門人がスキルを発動しての連撃をまったく寄せ付けず、すべて余裕で受け流した。まったくかすりもしない。道場中が息を飲んで静まり返った。道場内に響くのは、門人の荒れた呼吸音のみ。
「えー?もう終わりなの?」
「おのれ、お嬢とてもはや容赦はぜんぞ。」
「僕はそれなりに容赦してやるよ。」
逆上した門人は、華麗と言う言葉とはまったく無縁の強引な連撃を再び繰り返したが、ビーチェさんはすべて華麗に受け流してしまった。汗ひとつ掻いてないし、息も穏やかだ。
「それまでっ!」ピエトロさんが止めた。
「くっそー!」やめの号令が掛かった後なのに、再び門人がビーチェさんに連撃を繰り出したと思ったら、門人の体は宙に浮いて、次の瞬間、壁に叩き付けられていた。
何のことはない、ビーチェさんがひと突き入れただけだ。もちろんスキルは使っていない。門人は完全に伸びていた。もろに鳩尾に入ったもんな。
「せっかくパパが止めてくれたのに。」ビーチェさんが肩をすくめている。
「ビーチェ、少しは手加減せよ。」
「パパ、見てたよね?手加減しまくりだよ。」
「姉貴、もう一戦やろうぜ。今度はスキルありで。」
「もういいわ、ロレン。それにビーチェもよ。」御母上が止めた。
「はーい、ママ。じゃぁロレン、そう言うことで、もう、おしまいっ。」
夕餉のとき、ビーチェさんの御父上、御母上、弟のロレンツォと、俺たちスピリタスで食卓を囲んでいた。いい塩梅に、皆、酒が進んでいる。
「そう言う訳で、今の僕の魔力量は1800なんだよ。だから初級スキルはどれも問題なく、連続で発動できるんだよね。」
「なぁ、姉貴、もう一戦やろうぜ。」
「ロレン、やめておけ。」しきりに再戦をしたがるロレンツォを、ピエトロさんが止めた。
「親父、何でだよ。」
「おめぇは跡取りだぞ。ビーチェに負けられちゃあ困るんだよ。」
「俺が姉貴に負けるって言うのかよ!」
「そうだ。昔ならいざ知らず、今のビーチェはスキルを連発できるんだぞ。大体、おめぇもそう思っているから勝負に拘ってるんだろうが?」
「姉貴に負けるとなんざ、思ってねぇよ。」ロレンツォはそっぽを向いた。そう思ってるんだな。苦笑
「まぁまぁ、あなたもロレンもその辺にしときなさいな。
それにしても、マルコさんから、ビーチェが冒険者に戻ったって手紙を貰ったときは驚いたけど、こう言うことなら納得だわ。ゲオルクさん、本当にありがとうね。
あら?あなた、何、苦虫を噛み潰したような顔をしてるのよ。」
エンマさんがピエトロさんに突っ込んだ。
「そんな顔してねぇよ。」
「してるわよ。それにビーチェはもう適齢期なんですからね。いい相手を見付けて来てよかったじゃないですか。」
「だってよう、ゲオルクは刀術の『と』の字も知らねぇんだぞ。うちの婿が務まる訳ないだろう。」
「なんで婿取りの話になってるのよ。うちの跡取はロレンで、ビーチェは嫁に出すのよ。いつまでもぐだぐだ言ってないで分別しなさいな。」
「でもよう。」
「大体ゲオルクさんには、あのマルコさんとジューリアさんが一目置いてるのよ。」
「くー、マルコの野郎、ぜってぇ俺をあざ笑ってやがる。あいつには娘がいねぇから、この身を切られるような思いが分からねぇんだ。」
「いや、お義父さん、マルコさんは、それはもうビーチェさんのことを…。」
「ゲオルク、てめぇこの野郎、お義父さんとか気安く呼ぶんじゃねぇ。
あ、痛ぇ!エンマ、いきなり何しやがる!」
エンマさんがピエトロさんの頭を引っ叩いていた。笑
「あんた、いい加減にしなっ。みっともないったらありゃしない!」
「そうだよ、親父。みっともねぇぜ。こんなじゃじゃ馬の姉貴を貰ってくれるんだからありがてぇじゃねえか!」
「ロレン、こんなじゃじゃ馬の姉貴とは何よ!僕に敵わないくせに。」
「なんだと!」
「いい加減におしっ!」エンマさんの一喝で、ピエトロさんも、ビーチェさんも、ロレンツォも黙ってしまった。一番強いのはエンマさんだな。笑
しかし、ビーチェさんの家族は、本当に刀術一辺倒だった。
俺が精霊魔術師だってビーチェさんが紹介しても「「「あっそ。」」」で終わりだった。こう言う反応は今まで見たことない。
精霊たちについても「「「へぇー。」」」で終わりだった。なんか超薄い反応で、拍子抜けである。苦笑
いっぺん精霊魔法をじかに見せた方がいいかもしれない。
翌朝、朝餉の席でピエトロさんが切り出した。
「ゲオルク、一晩考えたんだがよう、やっぱりビーチェを託すにゃ俺が見極めた男じゃなきゃなんねぇ。」
「あなた、いい加減に…。」
「うるせぇ!引っこんでろい。
でだ、せめてロレンと互角に渡り合えるくらいじゃなきゃ、許可できねぇ。言ってることは分かるな?」
もちろん分かる。こちらとしても、刀術しか頭にない連中に、精霊魔法を見せ付けるいいチャンスではあるが、とっとと風の谷のポリーナに行きたい。
「でもですねぇ。俺の得物は弓矢ですよ。あとは精霊魔法です。刀術なんてできませんよ。」
「いや、異種戦で構わねぇ。」
「しかしですねぇ、LアタッカーとSアタッカーじゃ、間合いが違い過ぎて、異種戦も減ったくれもないと思うんですが?」
「道場内でやってもらうから問題ねぇよ。」
「それだとLアタッカーの俺には間合いが近過ぎですよ。せめて庭にしませんか?」
「俺はいいよ。」ロレンツォが言った。
結局、朝餉の後、俺とロレンツォは庭で対峙している。
話の流れで、俺はロレンツォと勝負することになったんだが、手加減しなくても構わないだろうか?そもそも、距離が十分にあればLアタッカーはSアタッカーにはまず負けない。
「スキルも魔法もあり。降参か戦闘不能で決着。殺傷は禁止だ。いいな?」ピエトロさんのルール確認が済んだ。
「いいですよ。」「俺もOK。」
「では始め!」
ロレンツォがダッシュで間合いを詰めて来た。だがしかし…。
「ワラ、ツリ。」
『『はーい。』』
ロレンツォに顔に大量の水をぶっ掛け、ほんの一瞬だけ怯ませた隙に、地面から蔓を生やして拘束した。雁字搦めにされ、芋虫のように地面に転がってもがくロレンツォ。
「審判、判定!」俺が促すと、ピエトロさんが苦々しげに、
「え?あ、ああ、勝者、ゲオルク。」と宣言した。
「だから言ったじゃないですか。間合いが違い過ぎるって。」ピエトロさんがムスッとしている。返事、しねーし。
「くっそう、次は道場内で再戦だ!」悔しがるロレンツォ。
「やだよ、道場内じゃ間合いが近過ぎて俺には不利だ。」
「なんだとー!ゲオルク、てめぇ、勝ち逃げする気か?それと早くこの蔓、ほどけ!」ロレンツォは無駄にもがいている。
ビーチェさんが蔓を解きに行った。
「ロレン、諦めなよ。ゲオっちに敵う訳ないじゃん。僕だって敵わないんだよ。」
「え?姉貴も負けたのか?」
「負けてないよ。だって、戦ってないもん。でもゲオっちがリヴァイアサンを追っ払うところを見てたからね。僕が敵わないことぐらいは分かるよ。」
「「「リヴァイアサン?」」」ピエトロさんと、エンマさんと、ロレンツォがハモった。
「うん、ゲオっちの精霊たちが魔力を放出して威嚇したら、リヴァイアサンは一目散に逃げて行ったよ。そしたらそれまで荒れてた海が嘘みたいに静まったんだよねー。ちなみにその魔力の出どころはゲオっちだからね。」
「「「…。」」」ピエトロさんたち3人は絶句したままだ。笑
『ゲオルクー、補給ー。』『ワラもー。』
ツリとワラがたった今、使った魔力の補給をしに来た。ちゅーちゅー×2。
「あのー、誤解のないように言っときますが、今のが精霊への魔力の補給です。」
「「「…。」」」3人は絶句したままだった。苦笑
風の谷の北側の入口の村、ポリーナには、ラクシーサから馬車で半日。ラクシーサの中心街から、行商馬車が不定期に出てると言うので、俺たちは中心街に行った。ちなみに風の谷の南側は外洋に面した断崖だ。
行商馬車は昼に出ると言うので、乗せてもらうことにしたのだが、出発までしばらく時間があるから、それまでラクシーサの町を見て回ることにした。
南部群島が珊瑚環礁なだけあって、ラクシーサの特産品も珊瑚である。珊瑚は装飾品に加工されるが、能力補正が付与された珊瑚のブレスレットが売っていた。当然ここでもお姉様方に珊瑚のブレスレットをプレゼントするしかない!
リーゼさんは攻魔、ジュヌさんは回復、カルメンさんは支援、ベスさんは防御、ビーチェさんは疾風、そして俺は集中の能力補正が、それぞれ付与された珊瑚のブレスレットをお揃いで購入した。
日が暮れる頃、ポリーナに着いた。風の谷と言う割には風が吹いていないな、と思ったのだが、よくよく考えると朝と夕方は凪の時間帯だ。
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明日は風の谷を奥まで入る。最奥は島の南岸で断崖になってると言うので、風の精霊はその手前にいるかもしれない。
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設定を更新しました。R4/4/3
更新は火木土の週3日ペースを予定しています。
2作品同時発表です。
「射手の統領」も、合わせてよろしくお願いします。
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