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復活の勇者
その壱、失われた仮面
しおりを挟む「本当に申し訳ございません!」
割と発展しているここらの地域では珍しくもないありふれたビルの中。
俺、仮崎 幻斗は上司である上沼さんに今必死に頭を下げていた。
「お前入社してから何回目だ!いい加減にしろ!」
「すいませんでした!」
顔を真っ赤にして激怒する上沼さんの顔には怒りと共になんだか悲壮感のようなものも含まれている気がする。
無理もない、原因は取引先の会社の重役に俺がぶちギレたこと……しかも今回はこの会社の親会社の幹部だ。
……正直、この会社はピンチかもしれない。
「……全く、どうしてお前はいつも相手が魔族だとそう短気なんだ……。」
「……。」
「もう魔族とヒト族の戦争は終わった。いつまで戦争気分なんだ?……10年前魔王は倒され、魔族とも和解し、今では二種族協力しあって急速に社会を発展させただろう?君も魔族差別は早く卒業した方がいい。」
「そうですね…。」
幻斗は腑に落ちないといった様相だ。
そんな彼を見て、上沼はため息をつく。
魔王はいない、これからは協力すべき。
……そんなことは分かっている。
でも、俺は許せない。許す資格がない。
幻斗は「失礼します」とだけ言い残し、上沼の席を離れた。
……そんな時だった、この世界を一変させるニュースが報道されたのは。
「……臨時ニュースです!ま、魔王が……復活しました!繰り返します!魔王が復活しました!」
オフィスの視線はそのニュースが流れた小さなテレビに集まった。
いや、このオフィスだけではない、きっとこの世界中が注目している。
当然、皆の顔は驚き一色だが……。
そんな中、少し落ち着きを取り戻したニュースキャスターは続ける。
「新たな魔王は反人間組織の一人と見られ、先代を凌ぐ力を持つと推測されます。既に新魔王軍は出来上がっていて、さらに拡大していくと予想されており、既に警察の手には負えないとのことです。
……となるとするべきことは一つです。
《6人の勇者》の再結集です!
勇者様!このニュースを見ているのならば始まりの丘にお集まり下さい!
ここからは始まりの丘から生中継でお伝えします。」
ニュースキャスターは興奮ぎみにそう言い放った。
それはそうだ、6人の勇者とは10年前魔王を倒した最強のと謳われる《心器使い》達なのだから。
最近は脚光を浴びることもなく全員がどんな暮らしをしているのかも定かではないが、今尚人々の希望であることは間違いない……。
すると早速一人目の勇者が現れた!
……えらく早いな。
叫びながら丘に向かって走ってくるのは、小柄な男性。
その背中には大剣、熱い闘志が宿ったその目は大きく見開かれている。
全ての逆境を力に変えてきた6人の勇者のリーダー、波野 剣だ。
心器は【剣 】、剣の勇者の二つ名を持つ男だ。
すると彼はカメラに向かって
「よし!一番乗りだな!お前ら早く来いよ!」
と恐らくかつての仲間にだろうが叫んだ。
そんな剣のすぐ後ろからもう一人、次は女性がやってきた。
格好からして魔導師だろう。
「ちょっ!剣!なんでおいていくの!?さっきまで一緒だったよね!?」
「あ、すまんすまんどうしても一番乗りがよくて……。」
ちょっと怒り気味に近づいて来るのは
魔法において右に出る者はいないと噂の世界最高の魔導師、魔野宮 彩歌だ。
心器は【杖】、当然彼女も6人の勇者の一人だ。
彼女は美しくなびく黒髪を少し乱しながらノロノロと走ってくる。
ともあれ6人の勇者の内の二人がそろった。
キャスター大興奮だ。
丘の上で二人はしばらく談笑すると突然顔つきがいたずらを思い付いた子供のようになった。
すると、何やら彩歌は胸の前で手を絡め、深呼吸するとゆっくりと
「我祈る、この世界に平穏を!」
……そのときだった。彼女の前にシンプルながらも威圧感を感じさせる木の杖が現れる。
………心器だ。
そのまま彼女は詠唱を始める。
幻斗は自分の体に嫌な汗が流れるのを感じた。
……この感じ、あれか。
詠唱を終えた彼女は大きな声で叫ぶ。
「魔王討伐ダヨ!全員集合ーーーっ!」
「センスが古いっ!」
剣のツッコミと同時位だろうか。
二人の目の前に四人の男女が降ってきた。
四人は呆れ顔をみせる。
……まさか、強制テレポートを使うとは。
上沼さん驚くだろうなあ。
俺はそんなことを考えながら勝手に連れてこられた丘の上を見渡した。
……俺は仮面の勇者としてここにいる。
「ふう~、久しぶりにしたけど案外上手くいくもんだね(笑)」
「「「「ざけんな!」」」」
とまあ、ぐだぐだっと剣・杖・鎧・弓・鞭そして仮面の6人の勇者は揃ったのだ。
ん?気のせいだろうか?何故か久しぶりに会った皆が不思議そうに俺を見ている。
訝しげな表情の俺に鞭の勇者である立花 結が戸惑い気味に聞いてきた。
「あの、すみませんが……だれですか?」
「は!?」
「それ俺も思った!こんなやついたっけ?」
剣も続く。
他のやつらも同じ事を思ったようだ、同意している。
「幻斗だよ、仮崎幻斗。」
「「「「「ないな!」」」」」
全員に否定された。
「お前みたいな普通の奴が幻斗なわけねーだろ!あいつなら絶対こういう時は派手に火柱とか立てて『我が力を解放するときが来たようだな』とか言いながら来るに決まってる!」
「……はうっ!」
「そうだよ!だって魔王戦ですらだっさい黒いコート着てきた幻斗くんだよ!?スーツな訳ないじゃん!」
「ぐええ!」
「はは!言えてるな!自称《神の使い》とか《闇の抹殺者》とかダサいこと言ってた仮崎だもんな!こんなサラリーマンなわけがな……」
「やめろおおおおおおおおおっ!!!」
俺はあまりの恥ずかしさにその場で塞ぎ混んだ。
すると皆はハッとして……
「「「「「お前厨二病卒業したの!?!?!?」」」」」
「そうだよ!」
……そういうことだ。
ー上沼sideー
「急に仮崎がいなくなった!?
……って画面にいるうううう!!!
え?うそ?あいつって仮面の勇者だったの!!!」
上沼はその日高血圧で倒れた。
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