喪失

木蓮

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あ、待って、待ってください、ロイド様っ…』
『ミリア、待てない。もう、待たないよ』
『あっ、あん。あ、いや、やだ、だめ、ロイド様っ』

開かれたそこに、グッとロイド様が入り込んできた。

『は、あ、あん、んん…!』

その衝撃に呼吸が止まる。

『い、やぁ、あっ…』

体の奥に感じる圧迫感。痛みと衝撃で体が強張る。なぜこんな事になってしまっだだろう。もう、私は純潔ではなくなってしまった。

『あぁ、ミリア。愛してる。ようやく、君を我が手にする事ができた』

私が流した涙をロイド様が指先で拭う。

『ロイド…様。痛い、の。もう、い、やっ…』

痛みに泣きながら、ロイド様の胸を腕で押すけど、震える手では思う様に力が入らなくて。
ロイド様が胸を押す私の手を捉え、指先に優しく口付ける。

『痛みも苦しみも、愛おしさも。ミリアに与えるのはわたしだけだ』

指先から額に。額から目元に。唇が涙を啄む。頬や鼻先に触れるロイド様の唇。強引に私の純潔を奪った強引さとは正反対の繊細な口づけ。
少しずつ、体の奥の痛みが落ち着いてくる。その変わりに、なにか、言葉にならない何かが、わたしの身体を染めていく感覚。
怖い、怖い、怖い。自分が自分じゃ無くなってしまう様なそんな…。

『ミリア、あぁ、そんなに強く…。いけない子だ。そんなにわたしを狂わせたいのか』

そう耳元で囁いた後、ロイド様の唇が私の唇に触れた。触れるか触れないか、そんな口づけが、繰り返される内に少しずつ私を食う様な口づけに変わっていく。

純潔を奪われる前に散々口づけも奪われたけど、何もかも初めてだった私には、息継ぎもままならない。ロイド様の胸を押していた手も、もうとうにシーツの上に投げ出されている。力無く開く白くなった指先。

『ミリア…。すまない。もう私も限界だ。少しだけだ。すぐに、よくなる…』
『あ、いやぁ、ロイド様。痛いの、痛いっ…。ロイド様、もう許してっ…』

ロイド様の律動が私の身体を揺さぶる。痛みばかりの交わりだったはずなのに、少しずつ痛み以外の何かを感じる様になってきた。
『はぁ、あっ、あん。いや。あぁ、ううん』

何を言いたいのか、頭の中が徐々に白くなっていき、言葉にならない。

『ミリア。いいのか?そうか、ここがミリアの良いところか』
奥の一箇所。ロイド様が執拗にその場所を突く。


一瞬、目の前が真っ白になる。私の身体全身が強張り呼吸も止まる。

『っ………』

ロイド様が一瞬私を強く抱きしめる。力が抜けた後に私の中に広がる温かい何か。
....もう戻れない。前の私とは違う私になってしまったのだと、ロイド様に抱きしめられながら、そう感じていた......。


******************


『ロイド様、ご機嫌うるわしゅうございます』

東屋で読書をされているロイド様にカーテシーをする。

『あぁ、ミリアよく来たね。もう今日は学院の授業は終わったのかな?』

手にあった本を閉じて、ロイド様は私に優しく微笑まれる。
陽に生える黄金の髪。背中に流れる様な髪を枇榔度のリボンで纏めている。私を見つめる目は深い海の蒼。
吸い込まれそうになる瞳にハッと我に返る。

『はい。明日から学院の創立祭が開催されるので、準備の終わった生徒から帰宅を許されました』
『あぁ、そうか、もうそんな季節か』
『はい。わたくしのクラスは王国の歴史建造物の調査内容を取りまとめて掲示しましたので、後は明日を待つだけなのです』

クラスで創立祭の出し物を決める際には色々と紛糾した。
劇や踊り、刺繍などの販売、カフェなど。今城下で流行しているメイドカフェなるもので決定しかけたものの、アーレン殿下の

『わたし達は学生なのだから、学生らしい内容にするべきだと思うが、どうだろうか?』

ニッコリ笑みを浮かべているが、殿下の周りの空気が凍りつきそうな程の冷ややかさに、人気最下位の歴史建造物の調査内容の展示に急遽決まったのだった。

私の説明を聞いて、ロイド様がクククっと可笑しそうに笑われた。

『アーレンもまだまだだな』
『何がでございますか?』

私の問いかけにはお答えにならず、にっこり微笑まれるロイド様。

アーレン殿下は、ここバッハツアルト王国の王太子様。ロイド様はアーレン殿下の叔父、つまり現国王の王弟である。兄である国王陛下とは歳が離れていて、年の近いアーレン殿下にとっては兄の様な存在だ。ロイド様はアーレン殿下が生まれた時に王位継承権を放棄して、臣下に下り一領地を得てエッセン大公と呼ばれている。何故、そんな高貴な方と私が交流を持てているのか。私の父、ハイルドナ侯爵がロイド様と親友で、日頃から良くロイド様が我が家にいらっしゃるからだ。

『ロイド様、ではごゆっくりなされて下さいませ』
『うん?ミリアは?何時もの様に私に付き合ってはくれないの?』

不思議そうな表情をして、ロイド様が私を見つめてくる。

『ご一緒したいのは山々なのですが、アーレン殿下がナレッジ神殿にまつわる調査内容の資料を今回の展示に特別貸し出して下さるとの事で、これから取りにお邪魔するところなのです』
『そうか。王宮であればわたしの馬車を使うが良い』
『いえ、王宮ではなくて、リアナカル離宮です』
『リアナカル離宮?』

和かだったロイド様の表情がスッと変わる。

『はい。普段使っていない離宮なので、そちらに資料を置いているからと。アーレン殿下は公務があるので、先に行っていて欲しいとの事で』
『ミリアはリアナカル離宮が何処にあるか知っているの?』
『いえ、詳しくは…。アーレン殿下からは迎えの馬車を出すからとおっしゃていて』
『そうか』

少し考え込む様に俯いたロイド様。何か、いわくのある離宮なのかしら。

『丁度わたしも今日は予定もない。そなたと同道しよう』

アーレン殿下が差し向けた王家の馬車にロイド様も乗り込む。

『これを』

お供していた従者に1通の封書を手渡す。従者はうなずくと、そのままロイド様の乗ってきた馬車に乗り込み王宮の方角に向かった。

『ロイド様、今のは?』
『陛下にちょっとしたお願いごとをね』
『陛下にですか?』
『そう、陛下に、ね』
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