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エリアーヌとラインハルトがバッハツアルトの王宮へ着いたのは、昼を少し過ぎた時間だった。
立王太子の祝賀の宴は夕方から開催予定だった為、客間に案内されて、遅めの昼食を摂り、そこから宴へ参加する為の正装に取りかかった。ともに連れてきていた侍女の手を借りて、用意してきたドレスに袖を通す。
淡いブルーから徐々に深い蒼にグラデーションが変わっていく、エリアーヌの美しさを際立出せるようなドレスだった。
『ハルト、どうかしら?似合う?』
エリアーヌはラインハルトの目の前で、ターンしてくるっと回って見せる。その姿はとても大陸一の美姫とは想像できなく、恋人の前で無邪気に振る舞う可愛い女性としか見えなかった。
『似合う以外の言葉があると?あるならば聞いてみたいよ、お姫様』
『あら、そうねぇ。君の為にある様なドレスだね、とか?私の瞳の色を身につけてくれているのだね、とか?』
笑ってラインハルトを揶揄う。
『確かに。エリアーヌの言う通りだ。わが女神。身にまとうドレスが私の瞳の色だなんて、なんて光栄なのだろう。わが女神の愛を賜るなら、この身を全て捧げても推しくわない』
エリアーヌの前に膝まづいて、手を取りラインハルトが愛を乞う。
『ハルト……。もう、私の負けだわ。それ以上揶揄わないで』
うっすら頬を染めて恥じらうエリアーヌの姿に、同じ部屋にいた侍女や警備の騎士などが当てられて倒れそうになっていた。
時が過ぎ、宴の時間になった。王の間にて、バッハツアルト国王ご夫妻と、今回の主役のディラン王太子に祝いの挨拶をし、ホールでラインハルトと二人でダンスを踊る。ただ、それだけの予定だった。明日にはナレントに戻り、いつもの日常が待っているはずだった。
『両陛下様、王太子様。ご機嫌麗しゅうございます。ナレント国王に変わりまして、第一王女エリアーヌ・ナレントと婚約者のプレドニア公爵家嫡男ラインハルトより、心からお祝いを申し上げます』
『心からの祝いの言葉、御礼申し上げる。ナレント国王には宜しくお伝えください。心ばかりの料理をお楽しみください』
『畏まりました』
エリアーヌはカーテシーで両陛下や王太子への挨拶を終える。後はラインハルトとダンスを踊れば、父上の名代は果たせる。幾分かホッとして、次の祝いの挨拶を待っている他国の大使に場所を譲ろうとした時、ディラン王太子から、突然声をかけられた。
『エリアーヌ王女と一緒にいらっしゃった方は婚約者との事だが、いささか身分が釣り合わぬのでは?』
ディラン王太子の言葉に、その場の空気が凍りつく。他国の王族に向かって些か不躾な物言いである。
『エリアーヌ王女は大陸一の美姫と名高いお方。公爵家の嫡男とは言え…。他国の王族との縁組でも不足はないのでは?』
ディラン王太子が挑発的にエリアーヌを見つめる。ディラン王太子は、黒い髪に碧眼の意志の強そうな目をした美丈夫だった。
幼い頃から帝王学を学び、バッハツアルトの騎士団にも身を置き、国内でも一二を争う剣豪との呼び名も高かった。
これまで多くの国から、王女や令嬢との縁組を乞われていたが、どんな美姫にも興味を示さず、婚約者もまだ居ないままだった。
『恐れながら、王太子殿下。わたくしの婚約者は、幼き頃より共に過ごし、我兄や妹にも慕われている、わたくしには勿体無いぐらいの素晴らしい方です。王女としてのわたくしではなく、わたくし自身を慈しんでくれる、わたくしにはかけがえのない方ですから』
凛とした態度を崩さず、優雅な立ち振る舞いでエリアーヌは王太子に立ち向かう。
『すまない、エリアーヌ王女。我息子が失礼な事を申した。ディラン、わざわざ祝いに来てくださった賓客に対する言葉では無いのでは無いか?』
国王陛下がディラン王太子を静かに見つめる。言葉にはしないが、場の空気が冷たく重くなってきた。
『…………。申し訳ありません、エリアーヌ王女。言葉が過ぎました。祝いの美酒に少し酔ったのかもしれません』
『………いえ、王太子様も立太子の儀式から宴とお忙しく、お疲れにななったのでしょう。お気になさらずに』
場を収める為に、エリアーヌは謝意を受け止める。エリアーヌの胸のうちは怒りで荒れ狂っていたが。
『では、陛下の御前を失礼させて頂きます』
ラインハルトに手を取られ、その場を辞去する。背中にピリピリした視線を感じ、エリアーヌは振り返り視線の主を確認する。ディラン王太子がじっとエリアーヌを見つめていた。
『ハルト……』
ディラン王太子の視線がエリアーヌの体を縛る様な感覚に囚われる。言いようの無い不安がエリアーヌの身を震わせた。ラインハルトの腕に縋りついたエリアーヌの様子に、ラインハルトは驚いた。
『エリアーヌ、どうした?』
『なにか嫌な感じがするの。早くナレントに帰りたい』
エリアーヌを見つめるディランの目が、視線が怖いと、ラインハルトに訴える。
ラインハルトが振り返ると、ディラン王太子と視線がぶつかる。互いにそらす事なく見つめるが、別の賓客がディラン王太子に祝いの言葉を述べた為、視線が逸された。
『エリアーヌ、体調不良と言う事で、ナレントにすぐ戻ろう。ここは余り良いところじゃ無い様だ』
立王太子の祝賀の宴は夕方から開催予定だった為、客間に案内されて、遅めの昼食を摂り、そこから宴へ参加する為の正装に取りかかった。ともに連れてきていた侍女の手を借りて、用意してきたドレスに袖を通す。
淡いブルーから徐々に深い蒼にグラデーションが変わっていく、エリアーヌの美しさを際立出せるようなドレスだった。
『ハルト、どうかしら?似合う?』
エリアーヌはラインハルトの目の前で、ターンしてくるっと回って見せる。その姿はとても大陸一の美姫とは想像できなく、恋人の前で無邪気に振る舞う可愛い女性としか見えなかった。
『似合う以外の言葉があると?あるならば聞いてみたいよ、お姫様』
『あら、そうねぇ。君の為にある様なドレスだね、とか?私の瞳の色を身につけてくれているのだね、とか?』
笑ってラインハルトを揶揄う。
『確かに。エリアーヌの言う通りだ。わが女神。身にまとうドレスが私の瞳の色だなんて、なんて光栄なのだろう。わが女神の愛を賜るなら、この身を全て捧げても推しくわない』
エリアーヌの前に膝まづいて、手を取りラインハルトが愛を乞う。
『ハルト……。もう、私の負けだわ。それ以上揶揄わないで』
うっすら頬を染めて恥じらうエリアーヌの姿に、同じ部屋にいた侍女や警備の騎士などが当てられて倒れそうになっていた。
時が過ぎ、宴の時間になった。王の間にて、バッハツアルト国王ご夫妻と、今回の主役のディラン王太子に祝いの挨拶をし、ホールでラインハルトと二人でダンスを踊る。ただ、それだけの予定だった。明日にはナレントに戻り、いつもの日常が待っているはずだった。
『両陛下様、王太子様。ご機嫌麗しゅうございます。ナレント国王に変わりまして、第一王女エリアーヌ・ナレントと婚約者のプレドニア公爵家嫡男ラインハルトより、心からお祝いを申し上げます』
『心からの祝いの言葉、御礼申し上げる。ナレント国王には宜しくお伝えください。心ばかりの料理をお楽しみください』
『畏まりました』
エリアーヌはカーテシーで両陛下や王太子への挨拶を終える。後はラインハルトとダンスを踊れば、父上の名代は果たせる。幾分かホッとして、次の祝いの挨拶を待っている他国の大使に場所を譲ろうとした時、ディラン王太子から、突然声をかけられた。
『エリアーヌ王女と一緒にいらっしゃった方は婚約者との事だが、いささか身分が釣り合わぬのでは?』
ディラン王太子の言葉に、その場の空気が凍りつく。他国の王族に向かって些か不躾な物言いである。
『エリアーヌ王女は大陸一の美姫と名高いお方。公爵家の嫡男とは言え…。他国の王族との縁組でも不足はないのでは?』
ディラン王太子が挑発的にエリアーヌを見つめる。ディラン王太子は、黒い髪に碧眼の意志の強そうな目をした美丈夫だった。
幼い頃から帝王学を学び、バッハツアルトの騎士団にも身を置き、国内でも一二を争う剣豪との呼び名も高かった。
これまで多くの国から、王女や令嬢との縁組を乞われていたが、どんな美姫にも興味を示さず、婚約者もまだ居ないままだった。
『恐れながら、王太子殿下。わたくしの婚約者は、幼き頃より共に過ごし、我兄や妹にも慕われている、わたくしには勿体無いぐらいの素晴らしい方です。王女としてのわたくしではなく、わたくし自身を慈しんでくれる、わたくしにはかけがえのない方ですから』
凛とした態度を崩さず、優雅な立ち振る舞いでエリアーヌは王太子に立ち向かう。
『すまない、エリアーヌ王女。我息子が失礼な事を申した。ディラン、わざわざ祝いに来てくださった賓客に対する言葉では無いのでは無いか?』
国王陛下がディラン王太子を静かに見つめる。言葉にはしないが、場の空気が冷たく重くなってきた。
『…………。申し訳ありません、エリアーヌ王女。言葉が過ぎました。祝いの美酒に少し酔ったのかもしれません』
『………いえ、王太子様も立太子の儀式から宴とお忙しく、お疲れにななったのでしょう。お気になさらずに』
場を収める為に、エリアーヌは謝意を受け止める。エリアーヌの胸のうちは怒りで荒れ狂っていたが。
『では、陛下の御前を失礼させて頂きます』
ラインハルトに手を取られ、その場を辞去する。背中にピリピリした視線を感じ、エリアーヌは振り返り視線の主を確認する。ディラン王太子がじっとエリアーヌを見つめていた。
『ハルト……』
ディラン王太子の視線がエリアーヌの体を縛る様な感覚に囚われる。言いようの無い不安がエリアーヌの身を震わせた。ラインハルトの腕に縋りついたエリアーヌの様子に、ラインハルトは驚いた。
『エリアーヌ、どうした?』
『なにか嫌な感じがするの。早くナレントに帰りたい』
エリアーヌを見つめるディランの目が、視線が怖いと、ラインハルトに訴える。
ラインハルトが振り返ると、ディラン王太子と視線がぶつかる。互いにそらす事なく見つめるが、別の賓客がディラン王太子に祝いの言葉を述べた為、視線が逸された。
『エリアーヌ、体調不良と言う事で、ナレントにすぐ戻ろう。ここは余り良いところじゃ無い様だ』
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