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『理屈ではないのであろう。だから、難しい』
『父上?』
『お前から見たら、エリアーヌは気ごころの知れた妹だ。よく笑いよく怒り、淑女らしからぬ部分もある、どこにでもいる普通の妹だろう。私にとっても、同じようなものだ。エリアーヌをよく知る者は、皆そういうだろう。ただ、あの子の、うわべだけしか知らない人間にとっては、違う。立ち振る舞いも、才も、どこの王女とも令嬢にも引け劣らない美貌。あの美しさを手に入れたいと思う男がどれだけいるか』
『そういうものでしょうか』
『バッハツアルトのディラン王太子も同じような立場だったであろう。才能も容姿も生まれた時から約束された地位も。誰しもが羨望するその姿に。そんな王太子がエリアーヌを見たら、きっと何を置いても手に入れたいと望むだろう』
『父上、縁起でもない事を言わないでください。実際、バッハツアルトからは、何度断ってもエリアーヌの婚礼の申し出が来ていますし、このままにしておくのは危険です。幾ら友好国とはいえ、このまま捨て置く訳にもいきません』
短期間の間に何通も来た親書。ディラン王太子のエリアーヌへの執着は、考えられぬくらい強く、キルハイトは言い知れぬ不安を感じていた。
『そうだな。これまでは友好国としてあまりことを荒立てたくはなかったが、こうなってしまえば致し方ない。今度の返信には、これ以上エリアーヌの婚礼のついて申してくるのであれば、友好国の関係を破棄し、開戦もやむなしとしたためる』
『父上.....』
『ディラン王太子が国政を動かしていると言っても、開戦ともなれば話は別だ。国王もディラン王太子を諫めるであろう』
バッハツアルトから届いた親書を暖炉の中に投げ入れる。あっという間に火が親書を飲み込む。
『この事はエリアーヌには知らせぬ様に。後少しでラインハルトとの婚礼だ。あの子の顔を曇らせたくはない。幸せな花嫁になって欲しいからの』
『分かりました、父上。ラインハルトには如何しますか?』
『ラインハルトには、伝えておくように。ディラン王太子もそこまで馬鹿ではないだろうが、用心はしておくことに越したことはないからの』
『ハルト、お願いがあるの』
ラインハルトの執務室にエリアーヌがやってきた。いつもの明るいエリアーヌではなく、少し物思いに沈んでいる雰囲気が見て取れた。
『どうしたんだ、エリー。何かあったの?』
仕事の手を止めて、ラインハルトがエリアーヌの姿を見る。エリアーヌの手を見ると、一通の手紙を持っていた。
『カトリーヌから手紙が来たの。少し調子も良くなって今はシャレー湖で療養しているのだけど、でも、私の婚礼には参加は主治医から駄目だと言われたみたいで』
『シャレー湖か。王都からは少し距離があるからね。馬車を使っても2日以上。確かにカトリーヌの体力では難しいかもしれないね』
『あの子、私とハルトの婚礼を楽しみにしていて。でも、母上様にも今は体を治す事が大事と止められたみたいで。私も婚礼には来てもらいたかったんだけど...』
『エリアーヌ.....』
落ち込むエリアーヌを見て、ラインハルトが肩を抱き寄せる。エリアーヌもされるがままに身を寄せた。
『でも、カトリーヌの体が一番大事だから。それでね、婚礼には参加できないけど、お嫁に行く前に一度、姉妹だけでお話をしたいって、カトリーヌが』
『エリアーヌがシャレー湖に行くってことかい?』
『えぇ。婚礼の準備は殆ど終わっているし、1週間位王都から離れても、大丈夫だと思うの。降嫁してしまうと、これまで見たいに気軽にカトリーヌに会いに行く訳にはいかなくなるし。お願い、ハルト。カトリーヌに会いに行ってもいいでしょう?』
エリアーヌがラインハルトを見上げる。昔から、エリアーヌのお願いにラインハルトは一度も勝てた事はなかった。
『陛下とキルハイトはなんと?』
『ラインハルトが許可するのであれば致し方ないと』
(全くあの二人は、なんやかんや言ってエリアーヌには甘いのだから)
ラインハルトは胸の中で二人に文句を並べる。
『.....分かった。侍女と従者だけではなく、護衛の騎士も連れて行くんだよ。私も一緒に行ければよかったんだけど、今の時期は領地の収穫期と重なっていてどうにも時間が取れないんだ』
『分かっているわ。父上や兄上にも同じことを言われたもの。護衛の騎士は、近衛騎士団をつけると言われたし』
『なら安心かな。くれぐれも気をつけるんだよ。国内とはいえ、王都から離れると何が起こるかも分からないからね。婚礼まであと3か月。ずっと君を手に入れる為に耐えた私を愛おしく思ってくれているのなら、無事に帰ってきてくれるよね?』
『まぁ、ハルト。そんなの当たり前でしょ。私だって、どれだけハルトのお嫁さんになるのをどれだけ待ち望んでいたのか。カトリーヌをはげましたらすぐに帰ってくるわ。愛しているわ、私の愛しいハルト』
エリアーヌはそういうと、ラインハルトに抱き着いた。エリアーヌを腕の中に閉じ込めると、ラインハルトはエリアーヌに口づけをした。
最初はそっと。優しく触れる様な口づけが、次第に熱を帯びてどんどん深くなっていく。このまま、エリアーヌに深く溺れていけてたら。そんな事を思いながら、ラインハルトはエリアーヌを強く強く抱きしめた。
これがエリアーヌに最後に触れた時になるとは、その時のラインハルトにもエリアーヌにも想像は出来なかった。
『父上?』
『お前から見たら、エリアーヌは気ごころの知れた妹だ。よく笑いよく怒り、淑女らしからぬ部分もある、どこにでもいる普通の妹だろう。私にとっても、同じようなものだ。エリアーヌをよく知る者は、皆そういうだろう。ただ、あの子の、うわべだけしか知らない人間にとっては、違う。立ち振る舞いも、才も、どこの王女とも令嬢にも引け劣らない美貌。あの美しさを手に入れたいと思う男がどれだけいるか』
『そういうものでしょうか』
『バッハツアルトのディラン王太子も同じような立場だったであろう。才能も容姿も生まれた時から約束された地位も。誰しもが羨望するその姿に。そんな王太子がエリアーヌを見たら、きっと何を置いても手に入れたいと望むだろう』
『父上、縁起でもない事を言わないでください。実際、バッハツアルトからは、何度断ってもエリアーヌの婚礼の申し出が来ていますし、このままにしておくのは危険です。幾ら友好国とはいえ、このまま捨て置く訳にもいきません』
短期間の間に何通も来た親書。ディラン王太子のエリアーヌへの執着は、考えられぬくらい強く、キルハイトは言い知れぬ不安を感じていた。
『そうだな。これまでは友好国としてあまりことを荒立てたくはなかったが、こうなってしまえば致し方ない。今度の返信には、これ以上エリアーヌの婚礼のついて申してくるのであれば、友好国の関係を破棄し、開戦もやむなしとしたためる』
『父上.....』
『ディラン王太子が国政を動かしていると言っても、開戦ともなれば話は別だ。国王もディラン王太子を諫めるであろう』
バッハツアルトから届いた親書を暖炉の中に投げ入れる。あっという間に火が親書を飲み込む。
『この事はエリアーヌには知らせぬ様に。後少しでラインハルトとの婚礼だ。あの子の顔を曇らせたくはない。幸せな花嫁になって欲しいからの』
『分かりました、父上。ラインハルトには如何しますか?』
『ラインハルトには、伝えておくように。ディラン王太子もそこまで馬鹿ではないだろうが、用心はしておくことに越したことはないからの』
『ハルト、お願いがあるの』
ラインハルトの執務室にエリアーヌがやってきた。いつもの明るいエリアーヌではなく、少し物思いに沈んでいる雰囲気が見て取れた。
『どうしたんだ、エリー。何かあったの?』
仕事の手を止めて、ラインハルトがエリアーヌの姿を見る。エリアーヌの手を見ると、一通の手紙を持っていた。
『カトリーヌから手紙が来たの。少し調子も良くなって今はシャレー湖で療養しているのだけど、でも、私の婚礼には参加は主治医から駄目だと言われたみたいで』
『シャレー湖か。王都からは少し距離があるからね。馬車を使っても2日以上。確かにカトリーヌの体力では難しいかもしれないね』
『あの子、私とハルトの婚礼を楽しみにしていて。でも、母上様にも今は体を治す事が大事と止められたみたいで。私も婚礼には来てもらいたかったんだけど...』
『エリアーヌ.....』
落ち込むエリアーヌを見て、ラインハルトが肩を抱き寄せる。エリアーヌもされるがままに身を寄せた。
『でも、カトリーヌの体が一番大事だから。それでね、婚礼には参加できないけど、お嫁に行く前に一度、姉妹だけでお話をしたいって、カトリーヌが』
『エリアーヌがシャレー湖に行くってことかい?』
『えぇ。婚礼の準備は殆ど終わっているし、1週間位王都から離れても、大丈夫だと思うの。降嫁してしまうと、これまで見たいに気軽にカトリーヌに会いに行く訳にはいかなくなるし。お願い、ハルト。カトリーヌに会いに行ってもいいでしょう?』
エリアーヌがラインハルトを見上げる。昔から、エリアーヌのお願いにラインハルトは一度も勝てた事はなかった。
『陛下とキルハイトはなんと?』
『ラインハルトが許可するのであれば致し方ないと』
(全くあの二人は、なんやかんや言ってエリアーヌには甘いのだから)
ラインハルトは胸の中で二人に文句を並べる。
『.....分かった。侍女と従者だけではなく、護衛の騎士も連れて行くんだよ。私も一緒に行ければよかったんだけど、今の時期は領地の収穫期と重なっていてどうにも時間が取れないんだ』
『分かっているわ。父上や兄上にも同じことを言われたもの。護衛の騎士は、近衛騎士団をつけると言われたし』
『なら安心かな。くれぐれも気をつけるんだよ。国内とはいえ、王都から離れると何が起こるかも分からないからね。婚礼まであと3か月。ずっと君を手に入れる為に耐えた私を愛おしく思ってくれているのなら、無事に帰ってきてくれるよね?』
『まぁ、ハルト。そんなの当たり前でしょ。私だって、どれだけハルトのお嫁さんになるのをどれだけ待ち望んでいたのか。カトリーヌをはげましたらすぐに帰ってくるわ。愛しているわ、私の愛しいハルト』
エリアーヌはそういうと、ラインハルトに抱き着いた。エリアーヌを腕の中に閉じ込めると、ラインハルトはエリアーヌに口づけをした。
最初はそっと。優しく触れる様な口づけが、次第に熱を帯びてどんどん深くなっていく。このまま、エリアーヌに深く溺れていけてたら。そんな事を思いながら、ラインハルトはエリアーヌを強く強く抱きしめた。
これがエリアーヌに最後に触れた時になるとは、その時のラインハルトにもエリアーヌにも想像は出来なかった。
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