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78.怒りを露わに?
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ナシュカは風紀委員の権限で第一校舎の一室を教師に借りた。そこで二人と大事な話を行った。もっとも、内容は先ほどの動揺したことについてだ。
「……つまり、サエナリア様に言われたことと全く同じことをマリナ様が口にしたからナシュカは動揺したってわけか」
「ナシュカ様の心に響いた言葉を他の女性の口からも聞いたために驚かれたわけですね」
「……」
ナシュカが話したのは約二年半前のことだった。その頃に王太子カーズの婚約者が正式に決まったため、ナシュカはどんな人物か気になって会ってみることにしたらしい。仮にも次期王妃にして自分の義姉になるからには興味があった。その人物こそがサエナリアだったのだ。
「……カーズ兄さんの目を盗んでうまくサエナリア様と二人きりで話をしたんだ。彼女に我が国の次期王妃になる気分はどうなのかとかカーズ兄さんのことをどう思っているのかとか、ね。もちろん、父上母上にレフトン兄さんのことや僕のことをどう評価しているのかも聞いてみたんだ。そしたら僕のことをマリナ様が言ったように評価してくれたんだ」
『貴方は誰よりも家族や友人を愛し、多くの人に愛されているお方なのですから』
ナシュカは懐かしそうな寂しそうな顔で語る。その時に実の兄の婚約者だと分かっていながらサエナリアのことを意識するようになったらしい。それを聞いた二人は複雑な顔になった。いや、バイラに関しては少し悲しそうである。
「そんなにサエナリア様がきになるなら、いっそのことお前の婚約者にするように国王陛下に進言したらよかったんじゃないのか?」
「……カーズ殿下はサエナリアのことを驚くほど雑に扱っていたようですし、不可能ではない気がします」
二人はそんなことを言うがナシュカは力なく首を振った。
「それはだめだ。僕の婚約者だとサエナリア様は王妃になれない。サエナリア様は非常に有能な方だった。次期王妃にふさわしい。国のことを思うなら王太子の婚約者でいる方が望ましいんだ。……もっとも、それは叶わないだろうけどね」
「だったら、ナシュカが王太子に、」
「なれないよ。僕は周囲の人望が薄いからね」
「「っ!」」
ナシュカは諦めたような顔になった。その後すぐに笑顔になったが、二人は嫌な予感を感じた。
「僕は小柄で身体能力が低い。それは別にいいんだ。だけど僕のことを多くの人は冷酷無情と言う。僕なりに最善かつ最短で国のためになることを口にしたり実行してきただけなんだけどね。それを軽々しく行っていると思われた結果、周囲の人望は獲得できなかった。まあ、本当に僕が冷酷無情なのに僕自身が気付かないだけかもしれないんだけどね。そんな僕が王太子になっていいはずがないじゃないか。違うかい?」
「「…………!」」
二人に向けて笑顔でこんなことを言ってしまったナシュカ。その笑顔は普段と変わらない二人が今まで見てきたナシュカの笑顔だった。
だからこそ二人には、その事実がどうしても許せなかった。
「ふ、ふざけるな! 一体何を言い出すんだ!」
「そんな、そんなこと言わないでください!」
「えっ!?」
バートとバイラは激しい怒りを露わにした。ナシュカは二人が怒った姿を見たことがないため、何が起こったのか分からなかった。
「……つまり、サエナリア様に言われたことと全く同じことをマリナ様が口にしたからナシュカは動揺したってわけか」
「ナシュカ様の心に響いた言葉を他の女性の口からも聞いたために驚かれたわけですね」
「……」
ナシュカが話したのは約二年半前のことだった。その頃に王太子カーズの婚約者が正式に決まったため、ナシュカはどんな人物か気になって会ってみることにしたらしい。仮にも次期王妃にして自分の義姉になるからには興味があった。その人物こそがサエナリアだったのだ。
「……カーズ兄さんの目を盗んでうまくサエナリア様と二人きりで話をしたんだ。彼女に我が国の次期王妃になる気分はどうなのかとかカーズ兄さんのことをどう思っているのかとか、ね。もちろん、父上母上にレフトン兄さんのことや僕のことをどう評価しているのかも聞いてみたんだ。そしたら僕のことをマリナ様が言ったように評価してくれたんだ」
『貴方は誰よりも家族や友人を愛し、多くの人に愛されているお方なのですから』
ナシュカは懐かしそうな寂しそうな顔で語る。その時に実の兄の婚約者だと分かっていながらサエナリアのことを意識するようになったらしい。それを聞いた二人は複雑な顔になった。いや、バイラに関しては少し悲しそうである。
「そんなにサエナリア様がきになるなら、いっそのことお前の婚約者にするように国王陛下に進言したらよかったんじゃないのか?」
「……カーズ殿下はサエナリアのことを驚くほど雑に扱っていたようですし、不可能ではない気がします」
二人はそんなことを言うがナシュカは力なく首を振った。
「それはだめだ。僕の婚約者だとサエナリア様は王妃になれない。サエナリア様は非常に有能な方だった。次期王妃にふさわしい。国のことを思うなら王太子の婚約者でいる方が望ましいんだ。……もっとも、それは叶わないだろうけどね」
「だったら、ナシュカが王太子に、」
「なれないよ。僕は周囲の人望が薄いからね」
「「っ!」」
ナシュカは諦めたような顔になった。その後すぐに笑顔になったが、二人は嫌な予感を感じた。
「僕は小柄で身体能力が低い。それは別にいいんだ。だけど僕のことを多くの人は冷酷無情と言う。僕なりに最善かつ最短で国のためになることを口にしたり実行してきただけなんだけどね。それを軽々しく行っていると思われた結果、周囲の人望は獲得できなかった。まあ、本当に僕が冷酷無情なのに僕自身が気付かないだけかもしれないんだけどね。そんな僕が王太子になっていいはずがないじゃないか。違うかい?」
「「…………!」」
二人に向けて笑顔でこんなことを言ってしまったナシュカ。その笑顔は普段と変わらない二人が今まで見てきたナシュカの笑顔だった。
だからこそ二人には、その事実がどうしても許せなかった。
「ふ、ふざけるな! 一体何を言い出すんだ!」
「そんな、そんなこと言わないでください!」
「えっ!?」
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