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第5章 外国編

VS異形アゼル6

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 【昇華魔法】をアゼルに注いだローグは、アゼルの変化――正気に戻りかけ言葉を口にした様子を見て、思わず笑みを浮かべていた。思惑が当たったことが嬉しいのだ。

(予想通りだ。寄生生物は最終的に宿主の精神を縛り、そして破壊する。それはつまり、寄生して完全に乗っ取るためには、宿主の精神が邪魔だということだ)

 ローグの知る限りでは、寄生生物パラサイトオクトパスは寄生する際に宿主の精神を抑え込み破壊してしまう習性がある。何故なら、寄生する際に、宿主の心が一番邪魔になるからだ。つまり、抵抗する精神がないほうが都合がいいというわけだ。

(それなら、宿主の精神が正常に戻っていけば、寄生しにくくなる。だからこそ俺は寄生生物と逆のことをすればいいわけだ)

 要約すると、宿主の精神が強ければ、寄生生物の浸食を抑えることができるわけだ。うまくいけば追い出すことだってできるかもしれない。ただ、アゼルの様子から見ると彼にはそこまで精神が強くはないことが分かる。ローグがリオルから事前に聞いたアゼルの身の上話からも、心が弱いことが推測される。

(寄生生物と宿主につながりは特にない。寄生する者とされる者、どっちが勝つかだ。ならば、アゼルに逆転してもらえればいいだけだ)

 だからこそローグは、アゼルの心に対して【昇華魔法】を使った。これは強化系の魔法だ。あらゆるものを優れた形に昇華する。それは精神力だって例外ではない。実際にローグは己の精神を強くしようとしていた(寄生生物に触れるため)。これなら、アゼルの精神を強引に強くして、寄生生物に抵抗できるはずだ。

(元々の心が弱い奴だ。魔法はかけ続けるが、呼びかけてもやるか)

 ローグはアゼルのに声を掛けた。意識をはっきりさせるためだ。

「アゼル! 聞こえるか!」
「え? 何? 誰だ――うぐっ! 何だこの痛みは!? それに体が動かない!」

 どうやら痛覚が分かるぐらいには意識が戻っているようだった。ただ、今のままでは危険な状態にある。ローグはアゼルに分かりやすいように説明した。

「アゼル、今のお前はある生き物に体を乗っ取られている。今は引き離そうとしているところなんだ」
「はあっ!? 僕の体が乗っ取られてるだって!? か、体が動かないのもそのせい……何だよ、何で僕の体から変なのが出てるんだよ!?」

 アゼルの言う「変なの」とは触手のことだ。それを見て確認したアゼルは酷く取り乱し始めた。自分の体から異形の触手が生えているのだから仕方がないことだ。

「ふ、ふざけんな! 嫌だ、嫌だよ! 早くなんとかしてくれよ! 僕の体を乗っ取るってなんだよ! 誰か助けてくれよ!」

 アゼルはギャアギャアと喚き散らす。その様子を見てローグはリオルと比べてしまう。……正直、短気なところが似ていると思った。

「安心しろ。助けてやるが、お前自身の協力が必要なんだ。だから落ち着いてくれ」
「落ち着け!? 体が乗っ取られそうなのに落ち着けだと、ふざけるな! ていうかなんだよ、この背中の感触は!? 気持ち悪いんだけど、その生き物なんじゃないのかよ! 早く引き離せよ!」

 アゼルは、初対面のはずなのに偉そうにローグに命令する。混乱して恐怖のあまりに取り乱すのは分かるため、ローグは気にしないようにした。

「それにはお前自身の協力が必要になる」
「はあ? 僕の協力だって? 体が動かないのにどうして!?」
「まず、うるさく喚き散らさないで俺の話をよく聞いてもらおうかな? でないと――助けないよ?」
「うっ……分かった。話を聞こう」

(こ、この黒髪のやつ、ただものじゃないぞ……)

 叫び出せるほどの気力を取り戻したアゼルだが、ローグに睨まれて静かになった。腐っても皇族、ローグがただものではないと感じ取ったようだ。

「では、状況の説明からだ」

 ローグは説明を始めたが、今の状況からざっくり話した。その次にアゼルが助かる方法を教えた。
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