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第6章 一週間編

評価

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(日頃の政策で信頼が厚いお蔭なのと、皇帝自ら謝る姿勢で民を味方につけるか……。とんだやり手だな。堂々と嘘をでっち上げてるのに、一定以上の不信を抱かせない。国のトップらしい演説だな。面の皮が何重にも厚そうだ。いい為政者じゃないか)

 帝国の頂点に立つ皇帝に対して無礼ともいえる評価を心の中で下す少年。その一方で、彼にとっては異国で祖国の敵国の主にもかかわらず好感を持っている。普通の少年の考え方ではないはずだ。

(まさかここまで皇帝の人気が高いとは。これで皇帝の嘘は、皇帝への信頼度が落ちるまで嘘と思われることはない。無いとは思うが、もし真実を知る者が否定したとしても、否定する者の方が潰されるだろう――この件に限らず)

 皇帝の嘘。それはローグ・ナイトのことが伏せられていることがその一つと言える。ローグは、帝国の敵である王国の出身で魔法を二つもその身に宿している。今の彼の目的は、魔法を乱用する王国を潰すことと幼馴染に復讐することだ。

 ローグは王国の王都に大規模な混乱を起こしたことで、帝国に逃げ込んできた身だった。その帝国で、『皇女の冤罪事件』と皇帝の語った『臣下同士の内戦』に巻き込まれてしまった。その二つの事件解決に協力したのがローグなのだが、皇帝はこの場で真実を語らなかった。

(今回に関しては、そのほうが俺にとって好都合だから何の問題もないが、感謝はしてもらうしいやあでも協力し合うことになるだろうからな)

「皆のもの、ありがとう。不甲斐ない余だが、これからも帝国のために力を尽くすことを誓おう」

(これが人心掌握術か。ここまで強力な効果発揮の場面を見せられると、ある意味もう魔法の領域だわこれ。いや、言いすぎか。種類は集団催眠系の怪しげなやつか?)

 自分のことを棚に上げて、ローグはそんなことを考えるが、実は割と感心していた。皇帝が、その息子のアゼルと比べて本当に頼もしく感じるのだ。何故、アゼルのような情けなかった男が産まれたのかが分からないほどに。

 ローグは、この一週間を振り返る。
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