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第1章 誕生編
第8話 勘違いな日常1・あの方
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オーク改を倒した俺の鎧兵達は、分解した巨獣の肉塊を荷車に乗せてマルクト王国へと凱旋していた。
エレベーターガールの赤毛八重歯日焼け肌クローザ推定二十歳が笑顔で迎えてくれた。昇降機に乗って上へ向かう途中、彼女がドロダンゴに話しかけてきた。
「今回は随分と早ぇな」
「慣れてきたでごわすから」
「なんかムカつくな……そいやお前、食われてなかったか?」
ぎくっ。見られてたのか。確かにまぁまぁ神樹と近かったからなぁ。でも、ドロダンゴは食われてないから他の鎧兵と見間違えたのだろう。ギリギリセーフ。
「まさかでごわす。おいどんは食べても不味いに決まってるでごわすよ」
「確かにな」
否定してくれ。
「あとさ、何か人数少なくないか?」
ぎくぎくっ。やられた鎧兵は本体の近くにしか再出現しないため必然的に少なくなってしまうのだ。
「まさか。肉塊の裏にも兵が居るからそう見えるだけでごわす。それに死んでいたらこんな笑顔でいられないでごわすよ」
ニッコリ。本体の俺が笑う。
「……笑顔? 見えないけど」
あっ、そうか。鎧兵は隙間から覗いても真っ暗闇、というより真っ黒に塗り潰したみたいで光を当てても何も見えない。なので仮に中身が有っても表情を窺えるわけがないのだ。
「が、ガハハ! ほら笑ってるでごわす! こう見えて意外とフレンドリーなんでごわすよ!」
「ふーん、不気味だな」
正論言うなよ。
ともかく何とかその場を誤魔化して再び入国した。
肉塊を巨獣加工屋でもあるクローザに任せて鎧達を帰路に着かせた。後は自動操縦で屋敷まで勝手に戻ってくるはずだ。
「はー、腰痛ぇー」
ソファから立ち上がって伸びをする。ずっと座りっぱなし、かつ集中していたので結構疲れた。今日は休もう。
そして次の日の朝。普通なら一日中屋敷で休むだろうが、俺本体は目が疲れただけで体の疲労はほぼ無いので街へ繰り出すことにした。もちろん本体は動かないよ。鎧が行くんだよ。
買い物と情報集め、それとパトロール兼王国民と交流して聖騎士団のイメージアップしないと。今のままだと国を乗っ取ろうとしてそうな怪しい集団にしか見えないし。
ということで部隊をいくつか編成してしゅっぱーつ! もう一度言うが、本体である俺はもちろん留守番だ。護衛も付けて。石橋は叩いて渡ろう!
鎧馬を南東へ走らせ数分。円形の城壁に囲まれた王都の北門をくぐって街へと入る。中は人が行き交い楽しげな雰囲気だったが俺達を見た途端、時が止まったみたいに静まり返った。かと思うと、ヒソヒソ話を始めた。鎧の集音機能で会話を探るも、当然騎士団の悪口ばかりだ。
まぁ仕方ないわな。これからこれから。特に気にしないことにして、事前に分けた部隊をあちこちに移動させる。
俺本体は、女王から貰った街の地図を机に広げて眺めていた。
「予定通り貧民街から攻略していきますか」
城を中心として円形に配置された壁で囲まれた城下町。その内部の北西にあるのが四番街で貧民達の集まる地区だ。
そこにウォーター、ライト、ポイズンという女キャラを向かわせてみた。若い女の方が輩に絡まれやすいだろうから。これで鼻の下を伸ばして路地裏に無理矢理連れ込もうとするクズをボコる。
ちょっとした暴力で従わせようという魂胆だ。あんまり良くないが認めさせるにはこれの方が手っ取り早い。俺くんサイテー。
「ぐへへ、ねぇちゃん達、ちょいとオレらと遊ぼうや」
さっそくリアス式海岸みたいなガタガタの歯をした男と、ウンコ踏んでも気にしなさそうな小汚い男が現れた。出たなクズめ。ポイズンさんの鞭でM男に調教してやるぜ。
「あーら、あたいらを満足させられるのかぁい?」
「安心しなぁ。そのカッチカチの鎧をひん剥いてプリンプリンの体をパックンチョしてやるぜぇ」
ただのエビ食う時のリポートじゃねぇか。つーか絶妙にムカつく言い回しだな。
「待ちな」
その時、新手。豚っ鼻で小太りな男。いかにもかませ犬クソ雑魚野郎だ。クククッ、全員まとめて豚汁にしてやるぜ。
「あ、キャロブゥさん……! ま、まだオレら手ぇ出してねぇっすよ……!」
「ちょっと黙っとけ」
キャロブゥといういかにも豚っぽい名前の男は、周りの反応を見るにどうやら偉い立場の人間らしい。
そいつがこちらに視線を送る。
「……おい、あねさんら、“あの方”は居ねぇのか?」
あの方?
「ほら、鎧のあちこちに螺旋状の棘を付けた方だよ」
……あー、騎士団No.99のポテトか。ドリル使いの。入国の許可を得るために戦ったオークの時のだ。口内に飛び込んだクリーム色の鎧兵。
「あわわ、ポテトさんの事です?」
水色鎧のウォーターで話しかけた。
「ポテト……! 何て甘美な響きだ……! やはり天賦の才を持つものは名前もひと味違うという事か……!」
ただの俺の好きなものだが? 話が見えない。
「その、ポテトさんが何かしましたか?」
「あっしは見たんだよ。あの方が勇敢にもオークの口内に飛び込む瞬間を……!」
げっ、昨日のは巨獣加工屋クローザに見られてたが、それだけでなく前々回のも見られてたのか。確かにあの時も割と神樹の近くだったな。
「あれを見て信者にならねぇ男はいねぇだろうよ。だってよ、普通死ぬかもしれないのに巨獣の口ん中に飛び込めるか!?」
死なないからね。
「確かにすげぇ……」
臭そうな息を吐いてそうな男二人も興味津々だ。
「そしてあっしは気付いちまった。あの方には“背中の傷がない”んだよ!」
みんな無いけどね。
「キャロブゥさん? それはどういうことっすか?」
取り巻きが尋ねる。
「バカヤロ、んな事も分かんねぇのか。あの方はなぁ、いつだって殿を務めてやがんだ。一番後ろに居るってことはなぁ、背中が無防備になるっつー事だよっ! な・の・にっ! 傷がないってこたぁよ、巨獣に追われても臆する事なく振り返りッ! 一人難なく足止め出来るってことなんだぜぇぇぇい!」
迫真。怖いわ。
確かにNo.99だから大体最後尾にいるけど。その発想はなかった。でもちょっと誇張し過ぎだなー、そんな英雄みたいな戦い方した事ないぞ。大体逃げる時は一番初めにポテチみたいにバリバリ食われて本体の近くに戻って来るのがお決まりのパターンなんだが。
キャロブゥの鬼気迫る演技に取り巻き達は純朴な少年のように目をキラキラさせている。
「そ、そういう事ですかいッ! すげぇ……お、オレ、ポテトさんに会いたいっす!」
「お、オレも!」
その言葉にキャロブゥは、鬼のような形相になった。
「畏れ多いんじゃあボケぇ!!」
「ひぇ」
「ひぇぇ」
ひぇぇぇ。大声に俺もビビる。振り返るキャロブゥ。
「貧民街の奴らには聖騎士団に手ぇ出さないようキツく言っておくんで安心してくだせぇ。……その代わりと言っちゃあ何ですが、今度ポテトさんに会わせてくれないっすか。いや、無理にとは言いやせん。ポテトさんはあっしにとっては神のような存在。遠巻きに見れるだけでも幸せでさぁ」
「あわわ、ポテトさんは硬派で口数は少ないですが良い人なのできっと大丈夫ですよ! 今度お願いしておきますね!」
そういう設定に変更しておこう。本当はマッドサイエンティストみたいなクレイジーな奴だったんだが、まぁ誰とも親しくしてないし、いいだろ。
「おお! ありがたやありがたや」
キャロブゥはいい奴っぽいな。豚汁にしてやるとか言ってごめんな。
思い描いた展開とは違ったが、ポテトのお陰で貧民街での情報は集めやすくなりそうだ。すげぇよポテトさん……!
エレベーターガールの赤毛八重歯日焼け肌クローザ推定二十歳が笑顔で迎えてくれた。昇降機に乗って上へ向かう途中、彼女がドロダンゴに話しかけてきた。
「今回は随分と早ぇな」
「慣れてきたでごわすから」
「なんかムカつくな……そいやお前、食われてなかったか?」
ぎくっ。見られてたのか。確かにまぁまぁ神樹と近かったからなぁ。でも、ドロダンゴは食われてないから他の鎧兵と見間違えたのだろう。ギリギリセーフ。
「まさかでごわす。おいどんは食べても不味いに決まってるでごわすよ」
「確かにな」
否定してくれ。
「あとさ、何か人数少なくないか?」
ぎくぎくっ。やられた鎧兵は本体の近くにしか再出現しないため必然的に少なくなってしまうのだ。
「まさか。肉塊の裏にも兵が居るからそう見えるだけでごわす。それに死んでいたらこんな笑顔でいられないでごわすよ」
ニッコリ。本体の俺が笑う。
「……笑顔? 見えないけど」
あっ、そうか。鎧兵は隙間から覗いても真っ暗闇、というより真っ黒に塗り潰したみたいで光を当てても何も見えない。なので仮に中身が有っても表情を窺えるわけがないのだ。
「が、ガハハ! ほら笑ってるでごわす! こう見えて意外とフレンドリーなんでごわすよ!」
「ふーん、不気味だな」
正論言うなよ。
ともかく何とかその場を誤魔化して再び入国した。
肉塊を巨獣加工屋でもあるクローザに任せて鎧達を帰路に着かせた。後は自動操縦で屋敷まで勝手に戻ってくるはずだ。
「はー、腰痛ぇー」
ソファから立ち上がって伸びをする。ずっと座りっぱなし、かつ集中していたので結構疲れた。今日は休もう。
そして次の日の朝。普通なら一日中屋敷で休むだろうが、俺本体は目が疲れただけで体の疲労はほぼ無いので街へ繰り出すことにした。もちろん本体は動かないよ。鎧が行くんだよ。
買い物と情報集め、それとパトロール兼王国民と交流して聖騎士団のイメージアップしないと。今のままだと国を乗っ取ろうとしてそうな怪しい集団にしか見えないし。
ということで部隊をいくつか編成してしゅっぱーつ! もう一度言うが、本体である俺はもちろん留守番だ。護衛も付けて。石橋は叩いて渡ろう!
鎧馬を南東へ走らせ数分。円形の城壁に囲まれた王都の北門をくぐって街へと入る。中は人が行き交い楽しげな雰囲気だったが俺達を見た途端、時が止まったみたいに静まり返った。かと思うと、ヒソヒソ話を始めた。鎧の集音機能で会話を探るも、当然騎士団の悪口ばかりだ。
まぁ仕方ないわな。これからこれから。特に気にしないことにして、事前に分けた部隊をあちこちに移動させる。
俺本体は、女王から貰った街の地図を机に広げて眺めていた。
「予定通り貧民街から攻略していきますか」
城を中心として円形に配置された壁で囲まれた城下町。その内部の北西にあるのが四番街で貧民達の集まる地区だ。
そこにウォーター、ライト、ポイズンという女キャラを向かわせてみた。若い女の方が輩に絡まれやすいだろうから。これで鼻の下を伸ばして路地裏に無理矢理連れ込もうとするクズをボコる。
ちょっとした暴力で従わせようという魂胆だ。あんまり良くないが認めさせるにはこれの方が手っ取り早い。俺くんサイテー。
「ぐへへ、ねぇちゃん達、ちょいとオレらと遊ぼうや」
さっそくリアス式海岸みたいなガタガタの歯をした男と、ウンコ踏んでも気にしなさそうな小汚い男が現れた。出たなクズめ。ポイズンさんの鞭でM男に調教してやるぜ。
「あーら、あたいらを満足させられるのかぁい?」
「安心しなぁ。そのカッチカチの鎧をひん剥いてプリンプリンの体をパックンチョしてやるぜぇ」
ただのエビ食う時のリポートじゃねぇか。つーか絶妙にムカつく言い回しだな。
「待ちな」
その時、新手。豚っ鼻で小太りな男。いかにもかませ犬クソ雑魚野郎だ。クククッ、全員まとめて豚汁にしてやるぜ。
「あ、キャロブゥさん……! ま、まだオレら手ぇ出してねぇっすよ……!」
「ちょっと黙っとけ」
キャロブゥといういかにも豚っぽい名前の男は、周りの反応を見るにどうやら偉い立場の人間らしい。
そいつがこちらに視線を送る。
「……おい、あねさんら、“あの方”は居ねぇのか?」
あの方?
「ほら、鎧のあちこちに螺旋状の棘を付けた方だよ」
……あー、騎士団No.99のポテトか。ドリル使いの。入国の許可を得るために戦ったオークの時のだ。口内に飛び込んだクリーム色の鎧兵。
「あわわ、ポテトさんの事です?」
水色鎧のウォーターで話しかけた。
「ポテト……! 何て甘美な響きだ……! やはり天賦の才を持つものは名前もひと味違うという事か……!」
ただの俺の好きなものだが? 話が見えない。
「その、ポテトさんが何かしましたか?」
「あっしは見たんだよ。あの方が勇敢にもオークの口内に飛び込む瞬間を……!」
げっ、昨日のは巨獣加工屋クローザに見られてたが、それだけでなく前々回のも見られてたのか。確かにあの時も割と神樹の近くだったな。
「あれを見て信者にならねぇ男はいねぇだろうよ。だってよ、普通死ぬかもしれないのに巨獣の口ん中に飛び込めるか!?」
死なないからね。
「確かにすげぇ……」
臭そうな息を吐いてそうな男二人も興味津々だ。
「そしてあっしは気付いちまった。あの方には“背中の傷がない”んだよ!」
みんな無いけどね。
「キャロブゥさん? それはどういうことっすか?」
取り巻きが尋ねる。
「バカヤロ、んな事も分かんねぇのか。あの方はなぁ、いつだって殿を務めてやがんだ。一番後ろに居るってことはなぁ、背中が無防備になるっつー事だよっ! な・の・にっ! 傷がないってこたぁよ、巨獣に追われても臆する事なく振り返りッ! 一人難なく足止め出来るってことなんだぜぇぇぇい!」
迫真。怖いわ。
確かにNo.99だから大体最後尾にいるけど。その発想はなかった。でもちょっと誇張し過ぎだなー、そんな英雄みたいな戦い方した事ないぞ。大体逃げる時は一番初めにポテチみたいにバリバリ食われて本体の近くに戻って来るのがお決まりのパターンなんだが。
キャロブゥの鬼気迫る演技に取り巻き達は純朴な少年のように目をキラキラさせている。
「そ、そういう事ですかいッ! すげぇ……お、オレ、ポテトさんに会いたいっす!」
「お、オレも!」
その言葉にキャロブゥは、鬼のような形相になった。
「畏れ多いんじゃあボケぇ!!」
「ひぇ」
「ひぇぇ」
ひぇぇぇ。大声に俺もビビる。振り返るキャロブゥ。
「貧民街の奴らには聖騎士団に手ぇ出さないようキツく言っておくんで安心してくだせぇ。……その代わりと言っちゃあ何ですが、今度ポテトさんに会わせてくれないっすか。いや、無理にとは言いやせん。ポテトさんはあっしにとっては神のような存在。遠巻きに見れるだけでも幸せでさぁ」
「あわわ、ポテトさんは硬派で口数は少ないですが良い人なのできっと大丈夫ですよ! 今度お願いしておきますね!」
そういう設定に変更しておこう。本当はマッドサイエンティストみたいなクレイジーな奴だったんだが、まぁ誰とも親しくしてないし、いいだろ。
「おお! ありがたやありがたや」
キャロブゥはいい奴っぽいな。豚汁にしてやるとか言ってごめんな。
思い描いた展開とは違ったが、ポテトのお陰で貧民街での情報は集めやすくなりそうだ。すげぇよポテトさん……!
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