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第1章 誕生編

第23話 一人百役の利点2・修道女ナナバ再び

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 俺は近衛兵シトローンからヒントを得てミノタウロスを倒す方法がうっすらと見えてきたので、すぐに行動を開始した。

 騎士団No.17のゴリラ兵“ウホホイ”をマルクト王国北東の五番街にある修道院に差し向けていた。一人百役だといろいろと同時に進行できるのが助かる。

 ここに来たのは修道女ナナバさんに頼みごとをするため。彼女とは正式に入国を許される前からの知り合いだ。二十代後半くらいで、おっとりした目とバナナのように跳ねた金髪が特徴のママ、じゃなかった素敵な女性だ。

「みんなー、行くわよー!」

 慈愛に満ちた声が聞こえて修道院の方を覗くと、驚くことにナナバさんがシスター服のスカートをたくし上げて子供達と球蹴りをしていた。チラリと見える御御足おみあし扇情せんじょう的だ。コラ、修道者に対して何と罰当たりな! 反省しなさい俺!

「あら! ウホホイさん!」

「え、ウホホイ!?」
「すげぇ、ウホホイだ!」
「ウホホイウホホイ!」

 こちらに気付き、ナナバと共に子供達も駆け寄って来た。ウホホイは結構人気がある。道を歩いていても話しかけられる確率が一番高い。特に年齢問わず女性からが多い。なんだろう、不憫な感じが母性をくすぐるのかな? ナナバさんにも気に入られてるし。

「おら、ウホホイ殴らせろー」

 子供にも人気がある。キッズは動物が好きだからな。いや、ウホホイは人間設定ですけど!?

「ウホウホー!」

 俺は手を振って挨拶した。ウホホイは、ほぼウホしか喋れない。誰だよそんな設定にした奴。俺だよ。

「ウホウッホー?」

 何をしていたんですか?

「ごめんなさい、驚いたわよね。こんな有事に球蹴り遊びなんて。子供は動けないことが凄く嫌みたいで、どうしても苛々が募ってしまって」

 申し訳なさそうに眉を下げるナナバさん。

「だから一度だけみんなで思い切り遊んで、それから聖騎士団様がお国を救ってくださるまで我慢しようって約束したの。それでその、少しだけお目溢ししていただけないかしら」

 この修道院は孤児も預かっている。元気の有り余っている子供を押さえつけるのは苦労するだろう。

「ウホウホウホー」

 もちろんです。神樹様もお許しになるかと。

「ウホホノホーノホー」

 それよりも今日はお願いがあって来ました。

「お願い?」

「ウホウッウッーウホホーホ」

 お酒をありったけ分けて欲しいんです。

 この修道院では薬草酒を製造して運営費を賄っている。そのため大量にあると踏んでいた。

「お酒……」

 ナナバさんが口元に手をやり考えている。まぁ二つ返事では無理か。煮沸しゃふつしなくても飲める神樹の聖水がない今、酒も貴重な飲料なのだ。簡単には差し出せないよな。

「戦いに必要なのね?」

「ウホ」

 はいそうです。

「分かったわ。院長に掛け合ってみます。無理でも締め上げて説得して見せますわ」

 えっ、意外に武闘派なの? ま、まぁいいや。触れないでおこう。とにかく助かった。

「ウホーホウッホー」

 貴重な飲料をすみません。

「気にしないで。それがみんなのためになるのなら魂だって差し出しますわ」

 それはいいです。

「ウホウ、ホッホホーノー」

 それと何ですが、出来れば蒸留を繰り返して濃度を上げてもらえると助かります。

 俺が修道院に来たのは酒を大量に得られるから、だけではない。なるべくアルコール度数の高いものが欲しかったからでもある。

 前回のこと。彼女と会った時に品種改良したバナナを貰ったことがあった。それでもしかしたらこの修道院は、飲食物に対する技術力が高いのかもと考えた。その延長で蒸留技術も発達していると踏んでいたのだ。

「あら、良いけれど、追加注文なんて意外と悪い子ね。メッ、よ?」

 ごめんなさいママバさん、じゃなかったナナバさん。

 さて、そろそろアレについてツッコミたいよな。ナナバさんさぁ……な・ん・で、ウホホイの言葉が分かるんだよ! 適当にウホウホ言ってるだけなのにウホ! 前世はゴリラの飼育員かぁ!? いや、飼育員でもわかんねぇよ! むしろゴリラ自身だろ!! 言い過ぎました! ごめんなさい!

 ……ふぅ、スッキリしたし帰るか。でもその前に“共犯者”になっておく。国の一大事って時に楽しそうに遊んでいる者を見ればいい気はしないだろう。だから俺が遊びに混ざることで害意を全て聖騎士団に向けさせる。見つかれば悪口陰口を叩かれるだろうがそれでいい。弱者を守るのも聖騎士団の仕事だと思うから。

「ウホウホウホホー?」

 俺も少し遊んで行ってもいいですか?

「ええ、もちろん! みんな、ウホホイさんが遊んでくれるそうよ!」
「やったぁー!」
「ウホホイは俺のチームなー!」
「いやこっちだろ!」

 この世界の球蹴りとは茶色い球をゴールに蹴り込む遊びだ。ほぼサッカーだね。大丈夫だと思うがヘディングは頭が取れるかもしれないので辞めておこう。

 修道院には手作りのゴールが一つだけ。なので攻撃と守備を順番に入れ替えていく方式だ。

 さぁて、体育の授業でのみ鍛え上げた俺の実力を見せてやりますか。リフティングさせたら三回で終わり、ドリブルさせたらすぐにロスト、シュートさせたら何故か敵にパス、得意技はオウンゴール。逆バロンドールの異名を持つ俺に果たして勝てるかな?

 ……ちょっと話を盛ったが、そこまで運動音痴ではない。自称だけど。まぁどうせ動くのはウホホイだしどっちでもいいよな。今からやるのはチートを使用してサッカーゲームをするようなもの。絶対負けねぇよな。うひひ。

 チーム分けが終わり、俺とナナバさんは別々になった。こちらが先に攻撃だ。

 よっしゃ、ちょっとかっこいいとこ見せつけて尊敬の眼差しでも集めますか。そしてゲームが始まり、俺は一旦、ボールを足下に収めた。

「危ない!」

 えっ? 気付いた時には、背後からナナバさんがボールを奪いに足を出してきていた。俺は慌てて他の仲間にパスした。

「あらぁ、残念」

 凄く素早い。意外と運動神経いいのか?

「意外って思った? 私って結構お転婆てんばなのよ?」

 こちらに向かってウインクしてきた。かわいい。

「おい、ウホホイ! ボールいったぞ!」

 デレデレしていると、浮いたボールが目の前に飛んできているのに気付く。

 マズイ! もうヘディングするしかない! 頭が取れたらどうしよう! いや、まだ神の一手ならぬ神の手があるじゃん!

 ウホホイはハエでも払うようにボールを叩き、ゴールへと押し込んだ。ふー、危なかったね。

 ナナバさんがニコニコしながら走ってきた。お、遂に俺に惚れちゃったかな?

「ウホホイさん、手は反則です」

 ですよね。

 攻守交代。ナナバさんチームが攻撃。俺は守備。

「ナナバさんパス!」

 彼女の仲間が弧を描く緩やかなパスを上げた。

「はーい」

 フワリとした球がナナバさんに向かっていく。うひひ、トラップしたところを刈り取ってやるぜ。しかし、予想に反して彼女は直接ボレーシュートを放った。どんな運動神経してんだよ!

 だが、ボールは明後日の方向に飛んでいく。と、思われたが弧を描くように曲がってゴールへと吸い込まれていった。ゴラッソ!

「凄いでしょう? 名付けてナナバシュートよ」

 バナナシュートでいいだろ。

 それから結構な時間遊び倒し、子供達が満足したところでそろそろ帰ることにした。結局、何名かに目撃されたもののトラブルにはならなかった。頭の固い面倒な貴族に見つからなくてよかった。小言いわれそうだし。

 最後に茶色のボールを手に取ってみた。弾力があって球蹴りには最適な気がする。

「ウホホホ?」

 ところでこの球って何で出来てるんですか?

「オークの睾丸よ」

「ウホォ!?」

 嘘ぉ!?

 思わずボールを手放した。その後、ナナバさんがボールの作り方について詳しく説明してくれたが、いまいち覚えられなかった。都合のいい俺の脳みそ。助かったぜ。

 はぁ……なんか色々と疲れたし、さっさと帰りますか。

「ホホホー」

 それではそろそろおいとまします。また後日、様子を見にきますね。

「分かったわ。こちらも準備を進めておくわね」

「えーもしかしてもう帰るのー?」
「やだやだー!」
「泊まってってよー!」

 後ろ髪引かれる思いだが、まだまだやる事があるのでグッと堪える。

「無理を言ってはダメよ。ウホホイさんにはお国を救済するという大切な役目があるのだから」

「そうだよな……分かった! 頼んだぜウホホイ!」
「やってやれウホホイ!」
「ゼロは殺してウホホイが団長になれ!」

 子供の声援が心に染みる。一言余計なのが聞こえたけど勇気が湧いてくるなぁ。

「ウホ!」

 任せろ! 俺は手を掲げて合図した。

 よし、次に行こう。少しずつだがミノタウロスを倒すための布石は打てている。時間もまだ充分に残されているはず。大丈夫、必ず勝てる。

 だが、そんな俺を嘲笑うかのように、突然の爆発音。

「きゃあ!」
「うわ、なんだ!?」

 ナナバさんと子供達が身を寄せ合って怯えている。

 音のした方向を見ると、街の中心付近で煙が上がっていた。恐らく貴族街だろう。思考を巡らせていると警備兵が通りかかる。

「あ! 聖騎士団の方! 大変です! 貧民街四番街の奴らが暴動を起こしやがったんです!」

 クッ、次から次へと……!
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