「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな

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2020年11月時点で想定していた最終章(12月時点でもう違います(笑))

異世界転移? いいえ、異世界帰還です。異世界を滅亡の危機から救ったら、今度はぼくの世界が滅亡の危機に瀕してました。③

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 レンジはかつてステラと約束をした。

 いつか君をぼくが生まれた世界や国に連れていく、案内する、と。

 それは彼にとって求婚の言葉であり、彼女はそれを受け入れてくれた。

 しかし、旅を続けていくうちに、それは決してかなえることができないとわかった。
 彼女の世界で成すべきことを果たした瞬間に、自分がもはや彼女の世界には存在してはならない存在になってしまったこともわかってしまった。

 だから、約束をかなえることも、あの世界で共に生きることもできず、ふたりは別の世界で生きていくしかなかった。

 はずだった。

 それが、こんな最悪の形で実現してしまったことが、レンジはただただ悔しかった。


 そこはもう、レンジが知る日本ではなかった。
 カオスと化した動植物が跋扈し、見境なく人を襲い、食糧として喰らっていた。
 そのカオスを倒したところで、他のカオスを呼び寄せるだけだ。
 カオスは他のカオスの死すらも喰らう。

 人はただ腹を満たすために喰われ、カオスは進化のために喰われる。

 そして、カオスは最終的にはヒト型へと進化を遂げ、失っていた知性を取り戻す。

 科学文明が発展したこの世界は、ヒト型のカオスにとって文明そのものが武器だった。

 レンジの目に見えたヒト型のカオスは、両手足の他に大きな翼を持っていた。

 空を舞い、高層マンションを片手で持ち上げ、引きずりあげた。
 たった2メートル弱の存在が、何百トンもの建造物を軽々とだ。
 空を舞いながら、それを振り回していた。
 マンションの窓から人が何十人と放り出されるのが見えた。

 ヒト型のカオスは、そんな風に災害レベルの破壊活動が可能な存在だった。

「やめろ……やめてくれ……
 こんな世界をステラに見せたかったわけじゃないんだ……」

 獰猛さと強靭な肉体に加え、高い知性を取り戻すことで、文明社会を破壊する最も有効的な方法を選ぶことができるようになっていた。
 そして、手に持ったものがもう使い物にならなくなると、レンジが生まれ育った街にあった原子力発電所に向かって投げた。

「やめろーーー!!」

 ヒト型のカオスは、もはや災害そのものだった。

 しかし、レンジもステラも、それだけの力を持つ神や悪魔に等しいような存在を一瞬で屠ることができる力を持っていた。

 レンジは原発に向けて放り投げられた高層マンションを両断し、原発への直撃を避けるだけでなく、その軌道をヒト型のカオスへと変えた。
 空を飛ぶことはできなくとも、軌道を変えたそれに乗ることで、同じ高さまで舞い上がることができた。
 それがカオスに直撃する瞬間には、カオスをも両断していた。

 数十メートルの高さから落下すれば人は間違いなく死ぬ。
 落下する途中で意識を失うという。

 レンジは問題なく着地できたが、

「ごめんなさい……あの四角い塔のようなものから放り出された人々をすべては助けられなかったわ……」

 ステラが助けることができたのは半分ほどということだった。

「なぜ、こんなことを……」

「おそらく、ダークマターやカオスの力を見定めているのでしょうね」

「そのためなら、都市のひとつやふたつ、そこに住む人々の命なんてどうでもいいと思ってるのか?」

 気付けばステラを責めるような口調になっていた。

「ごめん……」

 レンジはその場に崩れ落ちるように、泣き崩れた。
 そんな彼をステラは抱きしめてくれた。


「あなたは、わたしの祖国がこんな風にヒト型のカオスに蹂躙されたときも同じように泣いてくれたわね……
 あのときは不思議だったわ。あの国に住む人々とあなたはほとんど面識がなかったはずなのに、わたしよりも悔しがって泣いてくれていた。
 だけど、ようやくわかったわ。あなたは今、あのとききっとこんな気持ちだったのね。

 面識があるとかないとかなんて、きっと関係がないのね。
 命が無意味に踏みにじられるのは、こんなにも苦しいのね。

 わたしは魔人だから。あのときは、まだそういう感情を知らなかった。

 あなたは世界を救ってくれただけじゃない。
 わたしに人を愛するということを教えてくれた。それだけじゃなく、いろんな感情を教えてくれた。

 あなたは、わたしにとっての神様よ」
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