「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな

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2020年11月時点で想定していた最終章(12月時点でもう違います(笑))

異世界転移? いいえ、異世界帰還です。異世界を滅亡の危機から救ったら、今度はぼくの世界が滅亡の危機に瀕してました。④

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「ゲートはおそらくこの世界に無数に存在する。
 明日の夜までにそのすべてを破壊することは不可能だ」

「そうね。この世界に全部でいくつあるのかすらわからないもの。
 ひとつでもゲートが残ってしまったら、そこから『あなたの世界からの侵略』を許してしまう」


 そんな言葉をステラから聞くことになるなんて夢にも思わなかった。聞きたくなかった。
 ステラも口にしたくない言葉だったのだろう。言葉にするのをためらっていた。

 この世界にレンジと共に来て、共に暮らすこと、それがステラも共に思い描いてくれたふたりの未来だった。

 ステラは空を見上げた。

「わたしね、この世界に来るまで、あなたの世界とわたしたちの世界が元々はひとつだった、ということについて、正直ずっと半信半疑だったの。
 でも、空が同じ色をしているのを見て、太陽や月を見て、本当に元々は同じ世界だったってわかった。
 あなたと同じ世界に生まれたかったと思った。
 だから、このセーラー服を買ってみたの。あまりの物価の高さにびっくりしたけど。
 あなたが通う高校っていうところに、もしわたしがいたら、きっとこんな風だったのかなって」

 よく似合ってるよ、とレンジは言った。
 きっとはじめて会ったときと同じように一目見た瞬間に恋をしていた、と。

 レンジも空を見上げた。
 空にはいくつもの「ゆらぎ」が見えた。

「あなたといい、あの人たちといい、本当に来るのが遅いんだから」

 ステラは呆れたような口調だったが、その顔は微笑んでいた。安心しているように見えた。

 異世界からこの世界にやってきてくれたのはステラだけではなかった。

 彼女が生まれ育った国の隣国の竜騎士たちが、ゆらぎから次々と現れた。

「これでカオスの相手は彼らにまかせられるわ。
 ドラゴンにまたがり部隊として連携したときの彼らはわたしたちよりもはるかに強いから」

 ドラゴンだけは、ダークマターに侵食されることはない特別な存在でもあった。


――この世界の死者の肉体や魂を冒涜さえしないのであれば、私たちの力を借りたいということでしたよね。

 そんな声が、どこからか聞こえてきた。
 それは、かつてレンジたちと敵対し、戦いが終わった後もけっしてわかりあえることはないだろうと思っていた、ネクロマンサーの声だった。

「えぇ、正直助かるわ。あなたたちが手を貸してくれるとは思わなかったから」

 ステラはどこにいるかもわからない彼らに返事をした。

――この世界はともかく、あの世界が滅んでしまっては私たちも困ってしまいますのでね。もちろん約束は守っていただきますが。

「大賢者として、そして、ひとりの人間ステラ・リヴァイアサンとして約束するわ。
 先代の国王や大賢者によって滅ぼされたあなたたちの国の復興に、我が国はどんな尽力も惜しまない。
 その約束を違えた場合、わたしの命をあなたたちに差し出す。我が国は滅ぼされてもかまわない」

――では、存分に暴れさせて頂きます。無論、人命を最優先とさせて頂きますが。


 素直じゃない人たちね、とステラは笑った。
 彼らとですらこうしてわかりあえる日が来たのだから、きっとふたつの世界が手を取り合うことや、元通りひとつの世界に戻る道もあったかもしれないのに、と。

 本当にその通りだった。
 だから、どうしても、どうにかしなければいけなかった。
 そんな可能性が未来に少しでもあるのなら。


「大賢者となったわたしなら、時の精霊の力を借りることができる。
 けれど、ゲートをひとつ残らず破壊するだけの時間を確保するだけの間、時を止めたり、時の流れを遅くすることは不可能よ」

「すべてを喰らう者は?」

 ステラの世界には、バクテリアがエーテルによって進化したと思われる、そんな名前を持つ目に見えない存在がいた。
 それは、世界に存在していいものとならないものを選別し、存在してはならない者だけを喰らう。

 彼女の世界で成すべきことを果たしたレンジは、それに喰い殺されそうになった。
 だから、自分は帰らなければならないのだと理解した。

「試したわ。けれど、この世界に呼び寄せた瞬間に、互いをこの世界に存在してはならないものと認識し排除しはじめた」

 共食いを始めたということだろう。

「せっかく竜騎士団やネクロマンサーたちが来てくれたけれど、すべて遅かったようね。手詰まりよ。もうどうすることもできないわ」


 ひとつだけ方法があった。
 そのことにステラも気づいていたはずだった。

 彼女がそれを口にしないのは、それを行ってしまったら、レンジがどうなってしまうかわかっているからだった。
 だが、もはやそれしか方法がなかった。


「ぼくの身体に刻まれた術式を使おう」


 ステラの世界には、エーテルについてのすべてを熟知し、100年近い時間をかけエーテルをダークマターへと変えた放射性物質について研究を重ねたひとりの天才がいた。
 その天才が編み出した、放射性物質を浄化する方法が、レンジの身体には刻まれていた。


「ぼくは今、この身体そのものが放射性物質を無効化する浄化システムになっている。
 ただし、範囲が限られる。せいぜい一都市が限度だ。
 でもステラなら、ぼくの持つ力をこの世界すべてに届かせることができるよね。
 ぼくは、この星の浄化システムとして、星全体に結界を張る。
 今後産み出される放射性物質をもすべて無毒化し続ける」


「あなたは、それをしたらどういうことになるかわかっているの?」


 勿論わかっていた。

 それは、レンジが人であることを捨てるということだった。

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