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私立スク水女学園高等部 #52
しおりを挟む「審判の日が来ちゃうからだよ。この世界にとって一番有害な存在は人間だもん。そういう組織だけじゃなくて人類全体が滅びないと、この世界にとってはきっとプラスにはならないから」
ユズナちゃんならまだしも、イミテーションにそんな細かい調整ができるとは思えないからね、とナノカは言った。
「まただよ……絶対その世代じゃないよね? まだ新作が作られてるみたいだけど……わたしですら世代じゃないよ……?」
「絶対ゼロにしてね。プラスの世界では人類は淘汰されちゃうから。プラスの世界はダメだからね。今マイナスの中にあるこの世界をゼロにしてくれるだけでいいから」
「鶴房ナノカさん、あなた、誰に話しかけてるの?」
「この世界の新しい、本物の神様かな。現人神だけど。わたしの好きな人。ずっと死んだふりをしてるけど聞いてるんだよね? ユズナちゃん」
ユズナが生きていることを、矢動丸マリエは全く気づいていなかったようだったけれど、ナノカにはとっくに気づかれていたらしい。
殺すつもりで撃ってきたように見えていたけれど、彼女はユズナならきっとどうにかできると信じていたのだろう。
ここにいるナノカは、ユズナが丸4年時間を巻き戻した彼女ではないようだった。
ユズナと何度もキスや他にもいろいろなことをしたナノカだった。
どういうカラクリかはわからないけれど、ユズナのギフトが効かないように対策をしていたのかもしれない。
だから、成長期のはずの身長がほとんど変わっていなかったのだ。
あるいは、体の成長は4年前にすでに止まっていて、記憶は確かに巻き戻っていたが、彼女は人格や記憶のバックアップのようなものを事前にデータとして保存していたのかもしれない。一度巻き戻させた後、バックアップを脳にインストールしたのかもしれなかった。
「さっきから、足がビクンビクンってイッちゃったときみたいになってるよ? バレバレだから。わたしの声だけでイッちゃう体になっちゃった?」
「笑いを堪えてただけだし。ちゃんともうゼロにしたよ」
ユズナはゆっくりと体を起こし、壁にもたれかかって座った。
「この世界から、パナギアウィルスっていうマイナスだけ、ちゃんとゼロにしておいたよ」
この世界にはもう、女の子だけが発症し、赤ちゃんを産めない体にするようなおかしなウィルスは存在しない。
「世界情勢とか正直よくわからないし、変な色に髪を染めてるポリコレゴリ押しの活動家の人たちとか、自分は子どもを産んでもいないのに男が未来に遺せるのは排泄物だけとか思ってるような勘違いフェミニストさんとか、同性として恥ずかしいからいい加減どうにかしなきゃだし、オリンピックのときみたいに絶対赤字になる万博を止めなきゃとかいろいろあるけど、そういう他のマイナス部分は、先生たちみたいな大人がなんとかして」
わたしにはパナギアウィルスをどうにかするだけで精一杯だから、ユズナはそう言うと、ふぅと一息ついた。
ユズナのまわりにはエミリに形を変えられた女の子たちが何人も倒れていた。
リオたちを含め、彼女たちを治してあげられないことが、ただただ申し訳なかった。
「ありがとう。仕事が早いね、ユズナちゃん」
「生きてたの? 樽美ユズナさん……良かった……」
「良かった、じゃないから。先生がナノカちゃんに渡した拳銃のせいで、わたし本当に死ぬところだったんだから。わたしのイミテーションなんて大量生産しなくても、わたしひとりでパナギアウィルスくらいどうにでもできるし、実際できたし」
それにしても、矢動丸マリエはヤマイダレの人間ではなくなっているのに、どうしてユズナの命を狙う必要があったのだろう。
ヤマイダレに雇われていたであろうエミリが、ユズナを殺そうとしたり、ヒメナさんやリオがされたようにギフトを封じようとするのならわかる。
けれど、彼女はナノカとユズナにだけは手を出さなかった。
リオのギフトを封印したのはマリエだと、さっきナノカは言っていた。
エミリは殺しやギフトの封印の依頼を受けたわけじゃなかった?
だとしたら、ユズナたちは大きな思い違いをしていたことになる。
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