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私立スク水女学園高等部 #53
しおりを挟むユズナたちは大きな思い違いをしていたのかもしれなかった。
ヤマイダレの殺し屋に見えたエミリは、実はユズナたちの味方で「瑠璃色のオーケストラ」のメンバーであり、味方に見えた矢動丸マリエは、彼女が言うようなギフトは持ってはおらず、彼女こそがヤマイダレに雇われた殺し屋、というのはいくらなんでも考えすぎだろうか。
マリエが味方なら、どうしてリオはギフトを封印されたのだろうか。
ナノカはともかく、マリエは彼女を使ってユズナを間違いなく殺すつもりだった。
ふたりともギフトを封印されたり、殺される理由が見つからなかった。
味方だが欲しいのは死体だけ、遺伝子だけ、そういうことだろうか。
考えれば考えるほど、ユズナは余計にわからなくなってしまった。
「でも、ユズナちゃん、全然気づいてなかったよね? 気づいてたら、昔のマリオのワープくらい早くクッパのところに行けて、すぐピーチ姫を助けてクリアできてたのにね」
「マリオのことはマリオカートしか知らないからよく知らないけど……映画はお兄ちゃんが観たがってたからいっしょに観に行ったよ。あんなに強い女の子なのに、ゲームだと毎回クッパにさらわれてる設定なんだよね? あの国の警備、ちょっとザル過ぎるんじゃない? あと自分を何回も誘拐した相手と一緒にカートでレースやってるとか、あのお姫様はストックホルム症候群なの?」
「ストックホルム症候群って何だっけ?」
「犯人に対して好意や共感、信頼や結束の感情を抱く心理的現象のことよ。誘拐や監禁、虐待、DVなどの極限状況で発生することが多いとされてるわ」
「ふーん、さすがは養護教諭のマリーちゃんだね。まぁでも、そんな簡単に解決できちゃったらつまらないし、ユズナちゃんがいきなり界王拳みたいな技を使い初めて、セルジュニアを悟飯ちゃんが片付けたときくらい簡単にエミリちゃんをやっつけてくれたり、結構盛り上がりはあったから、なかなか良かったかな?」
ナノカはそう言って楽しそうに笑っていた。
笑いごとでは済まないことがこの教室では起きていたというのに。
ユズナには、現状も彼女が何を考えているかも全くわからなかった。
教室はとても静かだった。
あれだけの悲鳴が起きていたにも関わらず、どうして他のクラスの生徒たちや教師たちがやってこないのだろう。
パトカーのサイレンも聞こえない。警察を呼んだりもしていないのだろうか。
兄の眷属のプラモデルたちが様子を見にきていてもおかしくなかったし、兄やヒメナさんが直接駆けつけてきてもおかしくなかったが、そのどちらもなかった。
形を変えられて倒れている子たちは、悲鳴どころか泣き声や呻き声すら今は誰ひとりあげてはいない。まるで声を発することを誰かに禁止されているかのようだった。
何かがおかしかった。
「この子たちは、マリーちゃんにまかせていいの? ちゃんとお姉ちゃんのときみたいに組織が義手や義足を用意してくれる?」
「約束は出来ないけど、善処するわ」
「それって、責任を取りたくないときの大人の言い回しだよね。ずるいな~~」
「仕方ないでしょ? わたしは『瑠璃色のオーケストラ』の末端なんだから」
「パナギアウィルスを作ったり、スク水やニーハイにウィルス対策効果をつけたりできるようなギフトを持ってる人が末端っておかしくない? ホントなら幹部でもおかしくないんじゃないの?」
「ヤマイダレを裏切った人間だから。『瑠璃色のオーケストラ』も裏切ると思われてるんじゃないかしら」
「そっかぁ。でもね、わたしたちの組織を『瑠璃色のオーケストラ』なんて前の名前で呼んでる人、組織の中にはもういないよ?」
ナノカは拳銃を矢動丸マリエに向けていた。
「組織の名前、先月から変わってるから。『イエロー・リボン』にね。レッドリボン軍みたいな名前だけど、『幸福の黄色いハンカチ』の元ネタのひとつなんだって。二択でヒントを出してあげたのに、触れてこないし、間違えたことにも気づいてないみたいだから変だなって思ってたんだよね。わたしを守るために春から編入してきたはずのエミリちゃんはいきなりおかしくなっちゃうし。
さっき、ユイトさんから連絡が来てたんだ。知ってるかな? 樽美ユイトさん。ユズナちゃんのお兄ちゃんで、わたしのお姉ちゃんの彼氏。『イエロー・リボン』や『瑠璃色のオーケストラ』や、その前身の『ヤマイダレ被害者の会』の創設者だよ」
ユズナは兄がそんなことをしていたなんて、そのとき初めて知った。
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