もしも光源氏が絶世の美女だったら、在原業平も絶世の美女なので、ふたりとも夜這いをしますしイケメン貴族を囲い込みます。

あめの みかな

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​第10話:光の処刑、闇の昇華

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​ 六条院に、不吉な法螺(ほら)の音が響き渡った。
 蟄居を命じられているはずの源輝子の寝所に、松明(たいまつ)を掲げた検非違使(けびいし)たちがなだれ込んでくる。その先頭に立つのは、帝の最側近であり、実資の父でもある右大臣であった。

​「――そこまでだ、輝子」

​ 右大臣の低い声が、帳台の静寂を切り裂く。
 そこには、輝子の足元に跪き、禁じられた「記録」を綴っていた実資の姿があった。実資は日記を隠そうともせず、ただ呆然と父を見上げた。

​「実資、お前という男が……。この魔女に魂を売り、帝を欺くとは。右大臣家の恥さらしめ!」

「父上……。私は、恥などとうに捨てました。この日記に刻まれた言葉こそが、私の唯一の真実なのです」

​ 実資の言葉に、右大臣は忌々しげに顔を歪めた。

「狂うたか。……者ども、輝子を捕らえよ! 主上(帝)の宣旨である。源輝子は京の調和を乱す災いなり。今宵、この地を離れ、最果ての東国へと永久追放に処す!」

​ 永久追放。それは事実上の死罪に等しい。
 だが、輝子は取り乱すどころか、ゆっくりと扇を広げて艶然と微笑んだ。

​「追放……。父上も、随分と思い切ったことをなさるのね。私を消せば、この京からすべての『光』が失われるというのに」

​「黙れ! 貴様のような光など、闇に葬り去ってくれる!」

​ 兵たちが輝子の腕を掴もうとした、その時。
 庭の奥から、形容しがたい絶叫が響き渡った。

​「――行かせない! 宮様は、私の、私だけの光だッ!!」

​ 闇を裂いて飛び出してきたのは、紀貫之であった。
 彼の直衣は裂け、その全身からは異常なまでの殺気が立ち上っている。その手には、折れた筆ではなく、どこからか奪ってきたであろう白刃が握られていた。

​「貫之、お前まで……!」
 
 貫之の刃は、輝子を捕らえようとした兵たちをなぎ倒し、一直線に彼女へと向かう。だが、その刃先は輝子を殺すためのものではない。彼女を奪い去ろうとするこの世界すべてを、道連れにするための絶望の刃であった。

​「宮様、さあ、共に奈落へ! そこでなら、誰も貴女を邪魔立てしない!」

​ 狂乱する貫之。右大臣の号令で応戦する兵たち。
 阿鼻叫喚の図が広がるなか、実資はただ一人、輝子の前に立ちはだかった。武器も持たぬその手で、貫之の刃を、そして父の権力を遮るように。

​「貫之、退け。宮様を汚すことは、私が許さぬ」

「実資! 貴様に何ができる! 日記に縋るだけの腰抜けが!」

​ 刃が実資の肩を掠め、鮮血が舞う。
 その血が、輝子の白い頬に一滴、飛び散った。
​ その瞬間、輝子の瞳に、これまで見せたことのない激しい情動が宿った。
 彼女は実資の背中にそっと手を添え、耳元で低く、けれど力強く命じた。

​「……実資様。貴方のその『記録』を、今こそ完成させなさい」

​ 実資は、血に濡れた指で、懐から日記を取り出した。
 彼は右大臣に向かって、凛とした声で言い放った。

​「父上へ、そして主上へとお伝えください! 私は、源輝子を追放することに反対するのではない。私が、彼女の『追放』を記録する唯一の書記官として、共に東国へ下ることを宣言するのです!」

​「何だと……!? 正気か、実資!」

​「これが、私の選んだ規律です。私は、彼女という太陽が沈む場所を、最期まで見届ける義務がある!」

​ 右大臣は絶句し、貫之は膝をついて嗚咽した。
 
 混乱に乗じて、御簾の影から業子が姿を現した。彼女は輝子と視線を交わし、寂しげに、けれど誇らしげに微笑んだ。

「……輝子様。貴女はやはり、どこへ行っても私の最高のライバルだわ。東国の荒野が、貴女の光で黄金に染まるのを、京から楽しみに見守っていますわ」

​ 松明の炎に照らされながら、輝子は実資に寄り添い、牛車へと歩みを進める。
 それは追放者の行列ではなく、一人の女王が新たな王国へと旅立つ、輝かしいパレードのようであった。
​ 京の闇が、彼女の背中を見送る。
 
 これが、源輝子という平安の世の絶世の美女の伝説の序章の終わりであり、そして、東国の荒野を舞台にした、愛と執着の新章の幕開けであった。



~~新章予告~~

舞台は東国へ。
落ちぶれた貴族として扱われるはずの輝子が、その美貌と知略で東国の武士たちをも虜にし、やがて「東の女帝」として君臨していく逆襲劇。一方、京に残された貫之が、輝子への愛ゆえに「闇の歌人」として変貌していく……。

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