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#06
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「情報迷宮都市アルゴリアって何ですか?」
「あなたが今見ている世界ですよ」
イルマはふとあたりを見回す。
目についたもののすべての名前がわかる。映画のテロップのように表示される。
確かに情報迷宮都市だと思った。
自分だけでなく姉もこの目を手にしていたのなら、両親もきっとそうだったのだろう。
「父さんと母さんが失踪したのは、この目のせいだったってわけか……」
ようやく納得がいった。納得できるものではなかったが理解はできた。
デジタルデトックスのためにイルマやエミリを連れて訪れていた厩戸見市や、移住先に選んだ旧・足切村で、こんな目を与えられてしまったのだとしたら、失踪したくもなるだろう。目を抉り、眼球を潰したくなるかもしれない。
両親がイルマやエミリを置いていったのは、もしかしたら両親はすでにこの世にいないからかもしれないと思った。心中に子どもを巻き込みたくなかったのかもしれない。
あるいは、皆同じ姿をしている旧・足切村の白杖の老人たちの一組になっているのかもしれなかったが。
両親の失踪からは7年が過ぎている。姉が納得さえしてくれれば、死亡届も出せるだろう。
確か父も母も資産運用をやっていたはずだった。資産運用のことはよくわからなかったが、もしかしたら遺産がそれなりにあるかもしれなかった。
姉が17歳のときから高校や大学に行きながらイルマの親代わりをできたのは、市内でアルバイトをかけもちすればそれくらい稼ぐことができたからだった。就職先も市内であったから、給料がとてもよかった。
姉はもう十分働いた。両親の遺産があるのなら、それを相続してもらい、一生働かなくてもいいようになってほしかった。
イルマは、部屋を見回してようやく気づいたことがあった。
「ここ、個室じゃなかったですよね?6人部屋だったと思うんですけど」
そこは病室そのものが違っていた。
手術のあと、病室を移されたのだろうか。
「あなたは、旧・足切村の方ですから。白目病にかかった患者さんだけが、E.O.P.レンズの被験者になれるんです。被験者の方には、手術費や入院費が免除されるようになっています。このように術後の説明の場を設けるためにも、手術後は個室に移って頂くようになっているんですよ」
「被験者になるなんて話、聞いてないんだけど?」
「手術前に、イルマさんとお姉さんは、同意書にサインをしてくださっていますよね?あの書類にちゃんと書いてありましたよ」
羅臼はクリアファイルからその書類を取り出すとイルマに見せた。
そこには確かに、「E.O.P.レンズの被験者になることを同意する」と書かれていた。
その書類には、イルマも、保護者として姉もサインしてしまっていた。
過去に被験者となったはずの姉がサインをした理由は彼にはわからなかった。
「こんなもの、E.O.P.レンズが国に認可されてなかったら意味がないはずです。訴えれば勝てますよ」
「村戸イルマさん、あなたはあくまで被験者なんです。治験と同じなんですよ。白目病には普通の眼内レンズではまったく効果がありませんから。失明したくなければ、E.O.P.レンズを入れるしかないんです」
イルマはもう諦めることにした。
16歳の高校生でしかない自分が医療関係者である羅臼に勝てるわけがないと思った。
「厩戸見市は、正確には『情報迷宮≪実験≫都市』なんです。デジタルデトックスのために訪れる人が多い街ですが、あれはあくまで街おこしの一環に過ぎません。実際には街全体が巨大なSNSや情報網で繋がっています。発言や行動すべてが監視・評価され、それらはスコアに直結しています。些細な発言や失敗が即座に炎上やペナルティに繋がります」
自分の存在や個性がアルゴリズムで規定されてしまう都市ということだろうか。
情報迷宮都市アルゴリアとは、アルゴリズムから取られた名前なのかもしれない。
だが、羅臼の言葉にはそれよりも気になることがあった。
「デジタルデトックスが推奨されてるのに、どうやって炎上するんですか?この街は、スマホやパソコンを使わない人が多いんでしょう?」
羅臼はフフフと楽しそうに笑った。
「その炎上ではありませんよ。この街での炎上は、人体発火のことです。この街は、病気や事故で死ぬ人よりも人体発火で死ぬ人がはるかに多いんですよ。もちろん不審死として処理されますが」
イルマにとって、それははじめて知ることだった。
「人体発火なんて人為的に起こせるものじゃないですよね?」
「イルマさんも、5年前のパンデミックのことは覚えているでしょう?」
もちろん覚えていた。忘れるわけがなかった。
パンデミックのせいで、イルマは小学校の修学旅行も卒業式もなくなり、中学に入学してからもしばらくは学校で授業を受けることができなかったからだ。
「あのときのワクチンには、マイクロチップが入っていた。そういう噂があったのはご存知ですか?」
「それは陰謀論じゃなかった?」
確か、そのはずだった。
マイクロチップが仮に入っていたとしても、人体は微弱な電流によって脳からの命令を伝えてはいるが、マイクロチップを動かすだけの電力はないという話を聞いたことがあったのだ。
「あなたが今見ている世界ですよ」
イルマはふとあたりを見回す。
目についたもののすべての名前がわかる。映画のテロップのように表示される。
確かに情報迷宮都市だと思った。
自分だけでなく姉もこの目を手にしていたのなら、両親もきっとそうだったのだろう。
「父さんと母さんが失踪したのは、この目のせいだったってわけか……」
ようやく納得がいった。納得できるものではなかったが理解はできた。
デジタルデトックスのためにイルマやエミリを連れて訪れていた厩戸見市や、移住先に選んだ旧・足切村で、こんな目を与えられてしまったのだとしたら、失踪したくもなるだろう。目を抉り、眼球を潰したくなるかもしれない。
両親がイルマやエミリを置いていったのは、もしかしたら両親はすでにこの世にいないからかもしれないと思った。心中に子どもを巻き込みたくなかったのかもしれない。
あるいは、皆同じ姿をしている旧・足切村の白杖の老人たちの一組になっているのかもしれなかったが。
両親の失踪からは7年が過ぎている。姉が納得さえしてくれれば、死亡届も出せるだろう。
確か父も母も資産運用をやっていたはずだった。資産運用のことはよくわからなかったが、もしかしたら遺産がそれなりにあるかもしれなかった。
姉が17歳のときから高校や大学に行きながらイルマの親代わりをできたのは、市内でアルバイトをかけもちすればそれくらい稼ぐことができたからだった。就職先も市内であったから、給料がとてもよかった。
姉はもう十分働いた。両親の遺産があるのなら、それを相続してもらい、一生働かなくてもいいようになってほしかった。
イルマは、部屋を見回してようやく気づいたことがあった。
「ここ、個室じゃなかったですよね?6人部屋だったと思うんですけど」
そこは病室そのものが違っていた。
手術のあと、病室を移されたのだろうか。
「あなたは、旧・足切村の方ですから。白目病にかかった患者さんだけが、E.O.P.レンズの被験者になれるんです。被験者の方には、手術費や入院費が免除されるようになっています。このように術後の説明の場を設けるためにも、手術後は個室に移って頂くようになっているんですよ」
「被験者になるなんて話、聞いてないんだけど?」
「手術前に、イルマさんとお姉さんは、同意書にサインをしてくださっていますよね?あの書類にちゃんと書いてありましたよ」
羅臼はクリアファイルからその書類を取り出すとイルマに見せた。
そこには確かに、「E.O.P.レンズの被験者になることを同意する」と書かれていた。
その書類には、イルマも、保護者として姉もサインしてしまっていた。
過去に被験者となったはずの姉がサインをした理由は彼にはわからなかった。
「こんなもの、E.O.P.レンズが国に認可されてなかったら意味がないはずです。訴えれば勝てますよ」
「村戸イルマさん、あなたはあくまで被験者なんです。治験と同じなんですよ。白目病には普通の眼内レンズではまったく効果がありませんから。失明したくなければ、E.O.P.レンズを入れるしかないんです」
イルマはもう諦めることにした。
16歳の高校生でしかない自分が医療関係者である羅臼に勝てるわけがないと思った。
「厩戸見市は、正確には『情報迷宮≪実験≫都市』なんです。デジタルデトックスのために訪れる人が多い街ですが、あれはあくまで街おこしの一環に過ぎません。実際には街全体が巨大なSNSや情報網で繋がっています。発言や行動すべてが監視・評価され、それらはスコアに直結しています。些細な発言や失敗が即座に炎上やペナルティに繋がります」
自分の存在や個性がアルゴリズムで規定されてしまう都市ということだろうか。
情報迷宮都市アルゴリアとは、アルゴリズムから取られた名前なのかもしれない。
だが、羅臼の言葉にはそれよりも気になることがあった。
「デジタルデトックスが推奨されてるのに、どうやって炎上するんですか?この街は、スマホやパソコンを使わない人が多いんでしょう?」
羅臼はフフフと楽しそうに笑った。
「その炎上ではありませんよ。この街での炎上は、人体発火のことです。この街は、病気や事故で死ぬ人よりも人体発火で死ぬ人がはるかに多いんですよ。もちろん不審死として処理されますが」
イルマにとって、それははじめて知ることだった。
「人体発火なんて人為的に起こせるものじゃないですよね?」
「イルマさんも、5年前のパンデミックのことは覚えているでしょう?」
もちろん覚えていた。忘れるわけがなかった。
パンデミックのせいで、イルマは小学校の修学旅行も卒業式もなくなり、中学に入学してからもしばらくは学校で授業を受けることができなかったからだ。
「あのときのワクチンには、マイクロチップが入っていた。そういう噂があったのはご存知ですか?」
「それは陰謀論じゃなかった?」
確か、そのはずだった。
マイクロチップが仮に入っていたとしても、人体は微弱な電流によって脳からの命令を伝えてはいるが、マイクロチップを動かすだけの電力はないという話を聞いたことがあったのだ。
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