情報迷宮≪実験≫都市アルゴリア -THE NEW WORLD MAKER-

あめの みかな

文字の大きさ
7 / 109

#07

しおりを挟む
「ワクチンにマイクロチップが入っているというのは確かに陰謀論でした。実際に入っていたのは生体ナノマシンですから。それに、ナノマシン入りのワクチンは厩戸見市でしか接種が行われていないんですよ」

「人を人体発火させるナノマシンというわけですか。馬鹿馬鹿しいですね」

「先ほどわたしは、この街全体が巨大なSNSや情報網で繋がっていると言いましたよね。発言や行動すべてが監視・評価され、それらはスコアに直結していると」

「言ってましたね。些細な発言や失敗が即座に炎上やペナルティに繋がるって……まさか……」

イルマは、羅臼が言わんとしていることがなんとなくわかった。

「ナノマシンは、血液中の赤血球によって酸素と共に脳に運ばれ、脳に蓄積します。その後は脳が発する微弱な電気信号を餌として繁殖するようプログラムされているんですよ」

羅臼のその言葉は、イルマの想像した以上のことではあったが。
そのナノマシンこそが、巨大なSNSや情報網そのものであり、人の脳を使って街全体を繋ぎ、発言や行動を監視・評価し、スコアをつけているということなのかもしれなかった。
そして、些細な発言や失敗を見逃さず、即座に炎上させる。つまりは人体発火というペナルティに繋がるような仕組みを作っているのだ。

この街に移り住むことを決めた両親をイルマは心底憎らしく思った。
だが、ここは情報迷宮≪実験≫都市だ。
いずれは、日本中がこの街のようになるのだ。
移住することなく東京に住んでいたとしても、遅かれ早かれイルマも姉も巻き込まれていただろう。

「ぼくは今日にも退院できるんですよね?」

「イルマさんの退院がいつになるかはまだわかりません。E.O.P.レベルが3に上がるまでは様子を見ることになっていますので」

「そのレベルはどう上げるんですか?モンスターでも倒せばいいんですか?」

「ここは日本ですよ?異世界じゃないんですから、モンスターなんていませんよ。この辺りには最近話題の人里に降りてくる熊もいなければ、山すらないですし、海が近くてもダイオウイカはいませんから。あなたはこの病院でいつも通りにしていればいいだけ。あなたの発言や行動によって変動するスコアが一定値に達すればレベルは勝手に上がります」

ナノマシンが監視・評価するスコアが、E.O.P.レベルと連動しているということだろう。

「それでは失礼します。何かあれば枕元のボタンで呼んでください」

羅臼は去っていき、病室にはイルマと姉だけが残された。

「姉さん、起きてるんでしょ?」

イルマは姉にそう声をかけた。

「ばれた?」

姉は、テーブルに突っ伏したまま顔だけをイルマに向けて笑う。

「なんで寝たふりなんかしてたの?」

「ラースは、高校のときの同級生だったから」

「ラース?」

そういえば、昨日も姉は羅臼のことをラースちゃんと呼んでいた。

「そう、羅臼だからラース。七つの大罪のひとつ、憤怒。あの子、怒ると手がつけられなくなるから」

「怒らせるようなこと姉さんがしたんでしょ?」

「わたしじゃないよ。バレー部の顧問。生徒に手を出してたの」

「姉さんもバレー部だったよね」

「そ。同じ部活だったんだ。向こうはわたしのこと覚えてないみたいだったけど」

姉がその顧問の教師に何かされてはいないかとイルマは不安に思ったが訊くことはできなかった。
だが、何かされていたとしたら自分からその話題を持ち出すこともないだろう。

「怒ってる?わたしが何も教えなかったこと」

E.O.P.レンズやナノマシン入りワクチンのことだろう。

「教えてほしかったなとは思ってるよ」

だが、姉がE.O.P.レンズのことを口にしなかった理由はなんとなくわかっていた。

「スコアに影響するんでしょ?たぶん、一発退場クラスの。人体発火するくらいのマイナス」

そうとしか考えられなかったからだ。
たぶん、両親はもう本当にこの世にはいないのだろうとも思った。とうの昔に人体発火してしまっていたのだろう。

「さすがだね。イルマはわたしのかわいい賢い弟だもんね」

姉とはなぜか苗字が異なってはいたが、姉弟として過ごしてきたことは間違いなかったから何も言わなかった。

「姉さんは、今、レベルはいくつなの?」

「れべん?うーん、いくつなんだろ?もう何年も『た5』ってなってるんだよね」

「た5?じゃあ、たぶん255だね」

「そうなんだ?よく知ってるね」

父が残していった大昔のゲームを暇潰しに遊んでいたとき、攻略サイトを見ると、アイテム無限増殖のバグ技があり、そういう表示を見たことがあったのだ。
そのバグ技によって増やしたアイテムは、アイテム欄には99までしか表示されないが、実際には255個所持しているというものだった。

「これ、死んじゃったお父さんとお母さんが遺したいってくれたスコアブックだよ」

姉は鞄からA4サイズのノートを取り出した。

「スコアブック?野球とかの?あの人たち、そんなに野球好きだったっけ?」

「ううん。この街のナノマシンによる監視・評価システムのスコアブックだよ」

「父さんと母さんが失踪したのは、パンデミックの前じゃなかった?」

両親は失踪後も、数年間は生きていたということなのだろう。

「E.O.P.レベルが上がるとね、自分の今のスコアがわかるようになるの。お父さんとお母さんは、何をしたらスコアがいくつ上がっていくつ下がるか、イルマのために何年もかけて調べて書き残してくれてたんだ」

「その結果、人体発火で死んじゃったの?」

そうだよ、と姉は言った。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

漆黒の闇から

一宮 沙耶
ホラー
邪悪な霊が引き起こす事件の数々 若い頃から霊が見え、精神を病んでいた私が事件を解決していく ただ、自分も黄泉の世界に巻き込まれてしまう

王様の恥かきっ娘

青の雀
恋愛
恥かきっ子とは、親が年老いてから子供ができること。 本当は、元気でおめでたいことだけど、照れ隠しで、その年齢まで夫婦の営みがあったことを物語り世間様に向けての恥をいう。 孫と同い年の王女殿下が生まれたことで巻き起こる騒動を書きます 物語は、卒業記念パーティで婚約者から婚約破棄されたところから始まります これもショートショートで書く予定です。

10年ぶりに現れた正ヒロインが強すぎて、10年来のダメ系幼馴染型ヒロインが敗北しそうな件について。

神崎あら
青春
 10年ぶりに再会した彼女はまさに正ヒロインと呼ぶにふさわしい容姿、性格、人望を手にしていた。  それに対して10年間一緒にいた幼馴染は、堕落し酒に溺れ、泰平の世話なしには生きられないペットのような生き物になっている。  そんな対照的な2人のヒロインが戦う(一方的にダメ幼馴染が社会的にボコられる)物語が今始まる!!

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

N -Revolution

フロイライン
ライト文芸
プロレスラーを目指す桐生珀は、何度も入門試験をクリアできず、ひょんな事からニューハーフプロレスの団体への参加を持ちかけられるが…

処理中です...