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警察による規制線の黄色いテープが池だけでなく足切神社の敷地内にすべてにしかれてしまい、足切家の人たちは皆、白目病にかかり盲目であったため、しばらくは近隣の家でひとりずつ世話になることになった。
「懐かしいな、この家。何年ぶりだろ」
「萌衣がよくうちにきてくれてたのは、白目病になる前だから、5年前かな」
「そっか、もう、そんなに経ったんだ」
萌衣だけは、本人の希望もあり村外れにある村戸家で暮らすことになった。
「イルマ、結構背が伸びたんだよ。もうわたしより大きいの。ちょっとだけだけど」
「エミリより大きいなら、イルマくんは、わたしより頭ひとつ分くらい大きいね」
萌衣はまるで目が見えているかのように家の中を歩いた。
盲目の人は、音の反響などから空間を認識するというが、それには相当な鍛練が必要であり、誰にでもできることではないだろう。
きっと彼女は、テレビドラマに出てくるような盲目のFBI捜査官か、あるいは座頭市のように特別な存在なのだ。
イルマの成長に関しては、彼女もよくわかっていないようだったから、音の反響ではなく、昔見た記憶を頼りにしているだけかもしれなかった。
あるいは、ギフトというあの不思議な力を使っているのかもしれないとも思った。あの小人たちの姿は見えなかったが、先に小人たちに村戸家の下見をさせていたのかもしれない。
「池の水、ほんとに全部抜いちゃってよかったの?」
「うん。何体も死体が埋まってることは前から知ってたからね。昔からね、うちの池を底無し沼かごみ捨て場か何かだと勘違いしてる人がいるみたいだから」
「だから死体だけじゃなくて、冷蔵庫とかテレビとか洗濯機とか出てきたんだ?すっごく古いやつだったよね。昭和の三種の神器?三丁目の夕日かな?って思ったもん」
それらは、棄てられたときはゴミでしかなかったかもしれない。だが、今の時代なら相当な価値がありそうなものだった。そんなものが池の底にはごろごろと沈んでいた。
「ねぇ、萌衣さん。あのギフトっていうのは何?足切神社の巫女だけが使えるとか、そういう能力?」
イルマはこの1日、ずっと気になっていたことを訊ねてみることにした。
気にしないことは無理だったし、気にならない者はいないだろうと思った。
「キャッスルのこと?」
「かっこいいよねぇ、あれ。身体がお城そのものになっちゃうんだから。身体の穴が全部『狭間』になって、小人が武器持って出てきてさ。目に見えないけど、毛穴からもすっごく小さい子が出てきてるんだよ。下着の中からも小人がワイヤーみたいななのにぶらさがって出てくるのはさすがにどうかと思うけど」
どうやら姉は以前から、萌衣がそういう能力を持っていることを知っていたらしい。
「ちょっとエミリ、そういうことはイルマくんの前では言わないの」
萌衣は恥ずかしそうにエミリの口を手でふさいだ。
成長期にあるイルマの身長はわからなくても、エミリの身長や口がどこにあるのかわかるのは、失明する前に成長期を終えた彼女を見たことがあるからだろうか。
「これは、足切村に住んでる人ならみんな使える能力なんだよ」
萌衣はそう言ってこたつの中に入ると、足切村の歴史について詳しく話してくれた。
足切村の人たちは、江戸時代の罪人やその子孫だった。
罪人は足を切られ逃げられないようにした上で、労働力としてひとつの村に集められた。罪人たちが子どもを作れば、その子どもも足を切られ、孫も足を切られた。
彼らには肉体労働が不可能であったため、座って手を使ってできる作業ばかりだった。
足切村はT藩にとっての労働力の収容所であり、生活必需品の便利な生産拠点だった。
そこに住む人たちは、生きるためではなく藩の都合で手を動かさせられた。
江戸時代、足切村の特産品は草鞋(わらじ)だった。
旅人や飛脚や武士、それに農民や商人にとって、とにかく消耗が激しいものであり、藩の足軽や参勤交代用の必需品としても非常に需要があったからだ。
罪人の足を切って歩けなくしておきながら、その足に関わる草鞋を作らせるとか、本当にえげつないことするものだ。
わらじに続き、村人たちが作らされていたのは、縄、むしろ、俵といった米の流通に不可欠なものだった。特に縄結いは単純作業であったため、不器用な者にもでき、大勢にやらせやすかった。
さらに、和紙の原料処理や紙漉き(かみすき)などもさせられていた。
紙漉きとは、紙の原料となる繊維を水に溶かし、漉き枠(すきわく)などを使って網目の上に均一に広げて、水分を抜いて紙を作る伝統的な手仕事だ。
紙もまた、文書や包装、灯りなど大量に需要があり、領内に紙の産地があったため、村人たちは雑役(ざつえき)として座ってできた。
雑役とは、主な仕事以外の種々雑多な仕事や、または雑用に使われる人のことだ。
他にも、農業や市場で欠かせない消耗品であるざるやかごのような竹細工や、旅と農作業の必需品であり、粗製乱造でも許される草履や草蓑(くさみの)などの雨具も作らされていたという。
村全体が「便利な消耗品を生む場」にされていて、彼ら自身も使い捨てのように扱われる、足切村はそういう残酷な歴史を背負った村だった。
そのうち、足切村の住人から白目病にかかる者が出てきたという。
「足切村だけじゃなく、厩戸見市全体が元々は海で、江戸時代に埋め立てられた土地だから、足切村の下には、たまたま白目病なんていう風土病の原因になってるものがきっと埋まってるんじゃないかな」
宇宙由来の何かしらがこの村の地下には眠っていたのだろうかとイルマは思った。
地球自体、後に月となる小惑星だか巨大隕石が落下しなければ、アミノ酸がもたらされず、生命すら生まれなかったかもしれないと聞いたことがあったし、昆虫は進化の系譜から外れた存在であり、宇宙由来としか考えられないという説もあると聞いたこともあったからだ。
隕石か何かにウィルスが付着していたのではないだろうか。イルマは思った。白目病が原因不明なのは、ステルス性を持つウィルスで、見つけることが困難なのかもしれないと。
「何が埋まってるか知らないけど、いい迷惑だよね。でも、いいこともあるんだよ」
「白目病にかかるとね、萌衣みたいに不思議な力が使えるようになるの」
白目病にかかった者たちは、失明し手作業すら行えなくなってしまったが、そのうち萌衣のように不思議な力を持つ者が現れたという。
「懐かしいな、この家。何年ぶりだろ」
「萌衣がよくうちにきてくれてたのは、白目病になる前だから、5年前かな」
「そっか、もう、そんなに経ったんだ」
萌衣だけは、本人の希望もあり村外れにある村戸家で暮らすことになった。
「イルマ、結構背が伸びたんだよ。もうわたしより大きいの。ちょっとだけだけど」
「エミリより大きいなら、イルマくんは、わたしより頭ひとつ分くらい大きいね」
萌衣はまるで目が見えているかのように家の中を歩いた。
盲目の人は、音の反響などから空間を認識するというが、それには相当な鍛練が必要であり、誰にでもできることではないだろう。
きっと彼女は、テレビドラマに出てくるような盲目のFBI捜査官か、あるいは座頭市のように特別な存在なのだ。
イルマの成長に関しては、彼女もよくわかっていないようだったから、音の反響ではなく、昔見た記憶を頼りにしているだけかもしれなかった。
あるいは、ギフトというあの不思議な力を使っているのかもしれないとも思った。あの小人たちの姿は見えなかったが、先に小人たちに村戸家の下見をさせていたのかもしれない。
「池の水、ほんとに全部抜いちゃってよかったの?」
「うん。何体も死体が埋まってることは前から知ってたからね。昔からね、うちの池を底無し沼かごみ捨て場か何かだと勘違いしてる人がいるみたいだから」
「だから死体だけじゃなくて、冷蔵庫とかテレビとか洗濯機とか出てきたんだ?すっごく古いやつだったよね。昭和の三種の神器?三丁目の夕日かな?って思ったもん」
それらは、棄てられたときはゴミでしかなかったかもしれない。だが、今の時代なら相当な価値がありそうなものだった。そんなものが池の底にはごろごろと沈んでいた。
「ねぇ、萌衣さん。あのギフトっていうのは何?足切神社の巫女だけが使えるとか、そういう能力?」
イルマはこの1日、ずっと気になっていたことを訊ねてみることにした。
気にしないことは無理だったし、気にならない者はいないだろうと思った。
「キャッスルのこと?」
「かっこいいよねぇ、あれ。身体がお城そのものになっちゃうんだから。身体の穴が全部『狭間』になって、小人が武器持って出てきてさ。目に見えないけど、毛穴からもすっごく小さい子が出てきてるんだよ。下着の中からも小人がワイヤーみたいななのにぶらさがって出てくるのはさすがにどうかと思うけど」
どうやら姉は以前から、萌衣がそういう能力を持っていることを知っていたらしい。
「ちょっとエミリ、そういうことはイルマくんの前では言わないの」
萌衣は恥ずかしそうにエミリの口を手でふさいだ。
成長期にあるイルマの身長はわからなくても、エミリの身長や口がどこにあるのかわかるのは、失明する前に成長期を終えた彼女を見たことがあるからだろうか。
「これは、足切村に住んでる人ならみんな使える能力なんだよ」
萌衣はそう言ってこたつの中に入ると、足切村の歴史について詳しく話してくれた。
足切村の人たちは、江戸時代の罪人やその子孫だった。
罪人は足を切られ逃げられないようにした上で、労働力としてひとつの村に集められた。罪人たちが子どもを作れば、その子どもも足を切られ、孫も足を切られた。
彼らには肉体労働が不可能であったため、座って手を使ってできる作業ばかりだった。
足切村はT藩にとっての労働力の収容所であり、生活必需品の便利な生産拠点だった。
そこに住む人たちは、生きるためではなく藩の都合で手を動かさせられた。
江戸時代、足切村の特産品は草鞋(わらじ)だった。
旅人や飛脚や武士、それに農民や商人にとって、とにかく消耗が激しいものであり、藩の足軽や参勤交代用の必需品としても非常に需要があったからだ。
罪人の足を切って歩けなくしておきながら、その足に関わる草鞋を作らせるとか、本当にえげつないことするものだ。
わらじに続き、村人たちが作らされていたのは、縄、むしろ、俵といった米の流通に不可欠なものだった。特に縄結いは単純作業であったため、不器用な者にもでき、大勢にやらせやすかった。
さらに、和紙の原料処理や紙漉き(かみすき)などもさせられていた。
紙漉きとは、紙の原料となる繊維を水に溶かし、漉き枠(すきわく)などを使って網目の上に均一に広げて、水分を抜いて紙を作る伝統的な手仕事だ。
紙もまた、文書や包装、灯りなど大量に需要があり、領内に紙の産地があったため、村人たちは雑役(ざつえき)として座ってできた。
雑役とは、主な仕事以外の種々雑多な仕事や、または雑用に使われる人のことだ。
他にも、農業や市場で欠かせない消耗品であるざるやかごのような竹細工や、旅と農作業の必需品であり、粗製乱造でも許される草履や草蓑(くさみの)などの雨具も作らされていたという。
村全体が「便利な消耗品を生む場」にされていて、彼ら自身も使い捨てのように扱われる、足切村はそういう残酷な歴史を背負った村だった。
そのうち、足切村の住人から白目病にかかる者が出てきたという。
「足切村だけじゃなく、厩戸見市全体が元々は海で、江戸時代に埋め立てられた土地だから、足切村の下には、たまたま白目病なんていう風土病の原因になってるものがきっと埋まってるんじゃないかな」
宇宙由来の何かしらがこの村の地下には眠っていたのだろうかとイルマは思った。
地球自体、後に月となる小惑星だか巨大隕石が落下しなければ、アミノ酸がもたらされず、生命すら生まれなかったかもしれないと聞いたことがあったし、昆虫は進化の系譜から外れた存在であり、宇宙由来としか考えられないという説もあると聞いたこともあったからだ。
隕石か何かにウィルスが付着していたのではないだろうか。イルマは思った。白目病が原因不明なのは、ステルス性を持つウィルスで、見つけることが困難なのかもしれないと。
「何が埋まってるか知らないけど、いい迷惑だよね。でも、いいこともあるんだよ」
「白目病にかかるとね、萌衣みたいに不思議な力が使えるようになるの」
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