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最初に力を得た者は、足切根守左衛門(あしきり ねもりざえもん)という、足切神社の初代神主らしい。
根守左衛門は、足がないにも関わらず、まるであるかのように歩いたり走ったりすることができ、それだけでなく一晩で足切神社を建てたとされているそうだ。
「たぶん、根守左衛門は空気か電気か、何かしらのエネルギーを集めて固めて、足の代わりになるようなものを作って着けてたんだと思う。それからサイコキネシスのような、物質を操る力を持ってたんじゃないかな」
一晩で神社を建てるなんて真似は、確かにそれくらいの力がなければ無理だろう。
根守左衛門だけでなく、妻である久遠(くおん)や、息子である岩戸左衛門(いわとざえもん)もまた、不思議な力を持っていたという。
足切様という土地神信仰は以前からあったが、神社の本殿にある足切様の御神体とは別に、彼は足切様が顕現した存在だとされ、現人神のように扱われたという。
それが、萌衣の先祖だった。
「姉さんも不思議な力が使えるの?」
イルマはエミリに訊ねた。
「使えなかったら、いくらかわいい弟の一大事だからって、3日も会社を休んで、こんなにのんびりなんてしてないよ」
それもそうだなと思った。
エログロナンセンスな生成AIを開発している企業とはいえ、姉がリモートで仕事をしているところをイルマは見たことがなかった。
思春期の弟にそういうものを見せたくなかったのかもしれない。イルマは姉から仕事内容について聞いたことがなかった。言いたくいのがなんとなくわかったので訊いたこともない。働いている会社の名前だけは知っていたから調べただけだ。
「姉さんはここにいるけど、会社にもきっと姉さんはこの3日間ちゃんと行ってたんだね」
どういうカラクリかはわからなかったが、そうとしか思えなかった。
「そうだよ」
エミリはイルマの目の前に左手を広げてみせた。
その手には小指がなかった。
どうして今まで気づかなかったのだろうと思った。姉が右利きだったからだろうか。
違うと思った。姉は左手をポケットにいれる癖があったからだ。
だがそれも、子どものころからの癖ではなく、姉が大学生になってからの癖だった。
しかし、それは癖ではなかったのだ。左手を隠す必要があったから、そうしていただけだったのだ。
姉は、イルマが白目病の手術を受けるため、病院の付き添いに来てくれていた日から、ずっと真冬に着るようなコートを着ており、その左手をいつもポケットにいれていた。
だから気づくことができなかったのだ。
「わたしの能力は、リモートワーカーズ。指を切り離して、切り離した指の数だけ、わたしを作ることができるの。見た目や性格、記憶、能力まですべて同じのわたし」
切り離したと言ったが、その指から血は出ていなかった。肉や骨、神経が見えているわけでもなく、皮膚で塞がっているわけでもない。まるでモザイクでもかかっているかのように、その部分だけが認識できなくなっていた。
「それ、痛くないの?」
「全然、痛くないよ。ポロって取れるだけだし。わたし以外の人には外さないし」
切断するという意味ではなく、フィギュアやプラモデルの関節を外すように、指を自由に取り外すことができるのだろう。
そして、その指は取り外された瞬間に姉とまったく同じ姿になるのだ。
もしかしたら、姉は仕事だけではなく恋人と過ごす時間さえも、リモートワーカーズに任せているのかもしれない。
自分が姉の人生の重荷になっているということを、イルマは改めて痛感した。
「つまり、ギフトを手に入れるには、足切村で生まれる必要はないってことだね」
「そうだね。白目病にさえかかれば、手術で病気を治してもギフトは手に入れられるみたい。わたしがもうちょっと早くこの能力に気づいてたら、萌衣が失明する必要はなかったんだけどね」
萌衣は、白目病を治せるのに治さなかったのは、治してしまったらギフトを手に入れられなくなると思っていたのだろう。
「別にいいよ、そのことは。知ってたとしても、足切神社の巫女が白目病を治すなんて、足切様への冒涜だって言われちゃうだけだろうし」
「この村の人たち、考え方が古いもんね。足切神社の巫女は、結婚するまで彼氏を作ったらいけないんだよ」
「彼氏っていうか、あの行為がだめなの。彼氏ができたら、絶対することになっちゃうから。巫女はヴァージンじゃなきゃいけないの。彼氏を作るのがダメなだけだったら、セフレいっぱい作る巫女が出てきちゃうでしょ」
「なんでセックスのことはぼかしといて、セフレだけは堂々と言ったの?」
「言ってないし!」
「言ったよ?ね?イルマ」
「うん、言った」
「イルマくんまでやめてよ~」
エミリはひとしきり萌衣をからかうと、
「イルマもきっと、もうギフトを持ってるはずだよ。まだ気づいてないだけ」
真面目な顔をしてそう言った。
「姉さんにはもう見えてるんじゃないの?ぼくの能力」
なんとなくそんな気がした。
「見えてるよ。でも、教えない」
「なんで?」
「イルマが遠くに行っちゃう気がするから」
あぁそうかとイルマは思った。
つい先程、自分が姉の人生の重荷になっているということを、イルマが改めて痛感したということを、姉は神の目で見てしまったのだ。
自分の中にどんなギフトが眠っているのかはわからないが、遠くに行っちゃう気がするという姉の言葉は、自立を意味しているのかもしれない。
姉は、まだ自立しなくていいよと言ってくれているのだ。
根守左衛門は、足がないにも関わらず、まるであるかのように歩いたり走ったりすることができ、それだけでなく一晩で足切神社を建てたとされているそうだ。
「たぶん、根守左衛門は空気か電気か、何かしらのエネルギーを集めて固めて、足の代わりになるようなものを作って着けてたんだと思う。それからサイコキネシスのような、物質を操る力を持ってたんじゃないかな」
一晩で神社を建てるなんて真似は、確かにそれくらいの力がなければ無理だろう。
根守左衛門だけでなく、妻である久遠(くおん)や、息子である岩戸左衛門(いわとざえもん)もまた、不思議な力を持っていたという。
足切様という土地神信仰は以前からあったが、神社の本殿にある足切様の御神体とは別に、彼は足切様が顕現した存在だとされ、現人神のように扱われたという。
それが、萌衣の先祖だった。
「姉さんも不思議な力が使えるの?」
イルマはエミリに訊ねた。
「使えなかったら、いくらかわいい弟の一大事だからって、3日も会社を休んで、こんなにのんびりなんてしてないよ」
それもそうだなと思った。
エログロナンセンスな生成AIを開発している企業とはいえ、姉がリモートで仕事をしているところをイルマは見たことがなかった。
思春期の弟にそういうものを見せたくなかったのかもしれない。イルマは姉から仕事内容について聞いたことがなかった。言いたくいのがなんとなくわかったので訊いたこともない。働いている会社の名前だけは知っていたから調べただけだ。
「姉さんはここにいるけど、会社にもきっと姉さんはこの3日間ちゃんと行ってたんだね」
どういうカラクリかはわからなかったが、そうとしか思えなかった。
「そうだよ」
エミリはイルマの目の前に左手を広げてみせた。
その手には小指がなかった。
どうして今まで気づかなかったのだろうと思った。姉が右利きだったからだろうか。
違うと思った。姉は左手をポケットにいれる癖があったからだ。
だがそれも、子どものころからの癖ではなく、姉が大学生になってからの癖だった。
しかし、それは癖ではなかったのだ。左手を隠す必要があったから、そうしていただけだったのだ。
姉は、イルマが白目病の手術を受けるため、病院の付き添いに来てくれていた日から、ずっと真冬に着るようなコートを着ており、その左手をいつもポケットにいれていた。
だから気づくことができなかったのだ。
「わたしの能力は、リモートワーカーズ。指を切り離して、切り離した指の数だけ、わたしを作ることができるの。見た目や性格、記憶、能力まですべて同じのわたし」
切り離したと言ったが、その指から血は出ていなかった。肉や骨、神経が見えているわけでもなく、皮膚で塞がっているわけでもない。まるでモザイクでもかかっているかのように、その部分だけが認識できなくなっていた。
「それ、痛くないの?」
「全然、痛くないよ。ポロって取れるだけだし。わたし以外の人には外さないし」
切断するという意味ではなく、フィギュアやプラモデルの関節を外すように、指を自由に取り外すことができるのだろう。
そして、その指は取り外された瞬間に姉とまったく同じ姿になるのだ。
もしかしたら、姉は仕事だけではなく恋人と過ごす時間さえも、リモートワーカーズに任せているのかもしれない。
自分が姉の人生の重荷になっているということを、イルマは改めて痛感した。
「つまり、ギフトを手に入れるには、足切村で生まれる必要はないってことだね」
「そうだね。白目病にさえかかれば、手術で病気を治してもギフトは手に入れられるみたい。わたしがもうちょっと早くこの能力に気づいてたら、萌衣が失明する必要はなかったんだけどね」
萌衣は、白目病を治せるのに治さなかったのは、治してしまったらギフトを手に入れられなくなると思っていたのだろう。
「別にいいよ、そのことは。知ってたとしても、足切神社の巫女が白目病を治すなんて、足切様への冒涜だって言われちゃうだけだろうし」
「この村の人たち、考え方が古いもんね。足切神社の巫女は、結婚するまで彼氏を作ったらいけないんだよ」
「彼氏っていうか、あの行為がだめなの。彼氏ができたら、絶対することになっちゃうから。巫女はヴァージンじゃなきゃいけないの。彼氏を作るのがダメなだけだったら、セフレいっぱい作る巫女が出てきちゃうでしょ」
「なんでセックスのことはぼかしといて、セフレだけは堂々と言ったの?」
「言ってないし!」
「言ったよ?ね?イルマ」
「うん、言った」
「イルマくんまでやめてよ~」
エミリはひとしきり萌衣をからかうと、
「イルマもきっと、もうギフトを持ってるはずだよ。まだ気づいてないだけ」
真面目な顔をしてそう言った。
「姉さんにはもう見えてるんじゃないの?ぼくの能力」
なんとなくそんな気がした。
「見えてるよ。でも、教えない」
「なんで?」
「イルマが遠くに行っちゃう気がするから」
あぁそうかとイルマは思った。
つい先程、自分が姉の人生の重荷になっているということを、イルマが改めて痛感したということを、姉は神の目で見てしまったのだ。
自分の中にどんなギフトが眠っているのかはわからないが、遠くに行っちゃう気がするという姉の言葉は、自立を意味しているのかもしれない。
姉は、まだ自立しなくていいよと言ってくれているのだ。
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